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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
赤の彼方と金の此方
92/94

真面目な話、してたのに…

お待たせしましたー!

2ヶ月とちょっと…思うような時間が取れない割に、書くのに時間がかかると言う…うーむ…_(:3 」∠)_


「…ベーレンドルフ侯爵家は、断絶してはおらぬ。」


ヴィルフリートの言葉にベーレンドルフ侯爵がニコラウスに抱っこされているウラを、驚愕の表情で注目する。ウラはニコラウスに貰ったらしい棒付き飴(ロリポップ)を手に持ちつつ、不思議そうに首を傾げた。


「…まさか…」


「ここにいる子供…名前をウラという。アルノーの忘れ形見だ。…まあ、後に母であるパトラも死去したが。」


「そちらの書類は、アルノー様のご息女であるという証明であります。こちらの書類は、アルノー様の血液と魔力の波長と成分ですね。調べたところ、パトラのモノも見つかりました。こちらがパトラの血液と魔力の波長と成分です。」


ギルベルトが追加でベーレンドルフ侯爵の前に書類を並べ、ベーレンドルフ侯爵は震える手でその書類に手を伸ばした。手元にある3枚の書類を見比べ、重ねたその書類をそっとテーブルに戻して片手で目元を覆う。


「…あの、バカ息子が…」


「どうしたの?おじちゃん、どこか痛いの?」


目元を覆い、肩を震わせるベーレンドルフ侯爵にウラがおろおろとしながら問いかける。ウラはニコラウスの腕をぺちぺちと叩いて降ろす様に示し、降ろしてもらうとそのままベーレンドルフ侯爵の傍まで寄って手を伸ばす。


「痛くない、痛くない。」


「…ありがとう、もう痛くなくなったよ。」


ベーレンドルフ侯爵は目元を軽く揉んで手を目元から離し、床に膝をついてウラと視線を合わせて微笑む。


「して、ベーレンドルフ候。断絶の届けは如何(いか)にするか。」


ヴィルフリートの問い掛けにベーレンドルフ侯爵は顔を上げ、ヴィルフリートと視線を合わせて苦笑いした。


「…陛下も、お人が悪い。ここまで膳立てされては、取り下げる他ありません。」


「よかろう。ギルベルト。」


ヴィルフリートがベーレンドルフ侯爵に鷹揚に頷き、ギルベルトは礼を取って執務室から出て行った。ウラはベーレンドルフ侯爵の隣に座るように促され、ベーレンドルフ侯爵もウラを座らせてから自身も再度腰を掛ける。


「…グスタフ。パトラが城を出た時、其方はパトラが身籠っていた事を知らなかったようだが、父上も知らなかったと思うか?」


「…先代陛下も知らなかったのではないでしょうか。パトラが城を出て、行方が分からなくなってから捜索は致しましたが…今思えば、おそらく私共に子供がいると発覚するのを恐れたのでしょう。発覚すれば、子供は取り上げられると思ったのかもしれません。」


グスタフは少し考える素振りを見せてから、軽く首を振って答えた。


「なるほど。ありえぬ話ではないか…。何かパトラがずっと身に着けていた遺品でもあれば手っ取り早いのだが、な…」


グスタフの考察を聞いてヴィルフリートが口元に指を当てて思案した。

伊織の視界の端では真面目な空気に飽きたのか、ニコラウスが伊織の方を向いて変顔をしている。ヴィルフリートの視界に入らない巧妙な位置取りの所為で、ヴィルフリートに気付いた様子はない。その為、伊織はニコラウスを視界から必死に追い出す。気を抜いて視界に入れてしまうと吹き出してしまいかねないし、そうなればニコラウスがヴィルフリートに怒られてしまうかもしれない。

だが、そんな伊織の配慮は無駄に終わったようだった。


「…ニコラウス。この件については夫人にしっかりと報告しておこう。」


「待て待て待て待てっ!?この堅っ苦しい空気を和ませてやろうとしただけじゃねぇか!?ってか、なんでバレた!!??」


「イオリが不自然に其方を見ない上に、肩が小刻みに震えていた。」


「…ニコラウス殿下…相変わらずですな…」


伊織は一気に抜けた緊迫感に脱力しつつ、ベーレンドルフ侯爵がいる為に持たされている扇の内側で溜息を吐いた。そろそろずっと手に持っている扇が重く感じて来て、持っていた扇を持ち替える。

ヴィルフリートの溜息が執務室に響き、ヴィルフリートはニコラウスに向かって手の甲を向け、犬を追い払うような仕草で手を振った。


「ヴィル坊!叔父様に向かって失礼だぞ!年長者は(うやま)うべきだろう!!」


「敬えるような人物になってから言うんだな。」


「ニコラウス様、涙が出そうになったからと言って茶化すものではありませんよ。」


「なっ!?グ、グスタフ!!」


「…ほぅ?」


グスタフの微笑まし気な視線と言葉にニコラウスは目に見えて狼狽え、慌てて名前を呼んだ。ヴィルフリートはそんなニコラウスを目を細めて愉快そうに見た。


「グスタフに掛かれば、ニコラウスも形無しだな。」


「幼少の頃より、存じ上げておりますので。」


「…グスタフよぅ…」


ニコラウスから思わず出たような情けない声に伊織は口を軽く覆ってクスクスと笑いを零し、その際下がった扇をヴィルフリートに元の位置まで上げられる。

以前ではあり得ないヴィルフリートの様子にずっと見ていたベーレンドルフ侯爵は呆気に取られた。以前ならニコラウスがふざけても何も言わずに無視を決め込むか、早々に執務室から追い出していたはずだ。


「…まあ良い。憶測を何時までも追い求めても仕様がない。遺品についてはカルステン・ベルに問うか、以前住んでいた家を調べる他あるまい。ベーレンドルフ候、ご苦労。下がって良いぞ。」


「御意に。本日はお時間を頂きました事、恐悦至極に存じます。」


「ベーレンドルフ卿。外城にて詳細の説明と今後の展望をお話し致します。ニコラウス殿下とウラ様、グスタフ様もご一緒に。」


いつの間にか戻っていたギルベルトが扉を開けて促し、各々それに続いて執務室を出て行く。

ギルベルトは扉から出る前に一礼した。


「では陛下、外城に行って参ります。もう暫くで昼食ですが、それまで取り急ぐ用件も御座いませんので御自由にお過ごし下さい。」


「ああ。」


ヴィルフリートが短く返事を返すと執務室の扉は閉められ、伊織はずっと扇を持っていた腕を降ろして背凭れに凭れ掛かった。扇はそのまま机に半ば放り投げる様に置き、だるくなった腕を曲げ伸ばす。


「むー、ずっと扇持ってるのも疲れるなぁ…」


「披露目を終えれば、社交の場以外では使わなくて良くなる。もう暫しの辛抱だな。」


「イオリ様、その様に扱われると傷んでしまいます。お気を付け下さいませ。」


「ごめん、アニー…」


お茶を入れる準備をしていたアニエッタが伊織を(たしな)めて置いた扇を丁寧に閉じ、それを机の端に寄せた。


「では、昼食の用意が出来ましたらお知らせ致します。」


お茶を入れ終わったアニエッタが下がり、ヴィルフリートと2人きりになった。伊織はヴィルフリートに擦り寄って甘える。


「ヴィルさん、ウラはこれからどうなるの?」


「そうだな…ベーレンドルフ家に引き取られることは確定だ。…が、両親共死去している上に、ニコラウスもカルステン・ベルも年齢がベーレンドルフ候とそう変わらぬ為、信頼できる者を母替わりにつけねばならん。礼儀作法などもその者が教える必要がある故、貴族で…ベーレンドルフ候に当てがなければこちらで手配せねばならぬが。悪い様にはせぬ。何かあればギルベルトから報告が上がるだろう。」


擦り寄ってきた伊織を抱き寄せて膝の上に乗せ、安心させる様に頬を撫でた。伊織は小さく頷いて入れて貰ったお茶に腕を伸ばす。その腕は横から絡め捕られ、不満気に見上げた伊織にヴィルフリートは宥める様に旋毛に口付けを落とした。


「…前世の因縁は、昇華したか?」


「うーん…どうなんだろ…?まだ、ここに何かある気がするんだけど…」


伊織は心臓の上に手を当て、首を傾げる。


「…何かとは、魔力ではないのか。」


「魔力なのかなぁ?こっちの世界に来てから覚えた感覚だからいまいち認識出来なくて…」


「魔力は血と共に全身を巡る為、心臓と魔力は密接な関係にある。ここに何かあると感じているのは、余も同様だが。」


ヴィルフリートが胸に手を当てる伊織の手の上から指を差す。


「じゃあ、わかんない!…ていうかヴィルさん、この手は何?」


「何とは?」


「…僕の手がなかったら、胸に触ってる、けど。」


あまりに悪びれることもなくあっさりと問い返され、自分が意識し過ぎなのかとたじろぐ。

ヴィルフリートの大きな手が伊織の手の下にするりと潜り込み、緩く揉んだ。


「…んっ」


「触るというのは、こういう事だろう?あれは触る内に入らぬとは思わぬか?」


「そ、うかも、だけど…やぁ…」


ヴィルフリートから与えられる刺激に伊織は顔を赤く染めていやいやと首を振り、行為を止めようと両手で腕を掴んだ。しかし、ヴィルフリートは伊織の抵抗に意に介した様子はなく、もう一方の手を伊織の顎に添えて動きを封じると赤く染まる目尻に口付けた。


「…ぁ、ゔぃる、さん…やめ、んっ」


反射的に目を閉じ、拒否の言葉を口に出す前にヴィルフリートの唇に塞がれる。言葉を紡ぐ途中だったことが原因で、易々と口腔への侵入を許してしまい、伊織の抵抗は目に見えて弱くなった。


「…ん、んぁ…」


「昼までまだ時間はある。…余の私的な執務室ではあるが、執務室というのも背徳的ではないか?」


「だ、め…執務室(ここ)、恥ずかしくて、入れなくなっちゃ…!」


伊織の口から零れる言葉とは裏腹に、身体はヴィルフリートを求める様に熱が上がる。再び(もたら)された口付けを抵抗なく受け入れ、伊織はヴィルフリートに縋った。


(これ以上…ダメ…なのに、キス、きもちい、よぅ…)


最早どちらのものか分からない、飲み込みきれなかった唾液が伊織の顎を伝う。微かに響く、くちゅ、という水音が伊織の羞恥を煽るものの、制止するには至らない。


「…その様に(トロ)けた顔では、食べて欲しいと言っているようなものだと思うが…イオリが嫌だと申すなら、無理強いはせぬが。」


「…ぇ?」


(…もう、おしまい…?)


「…やだ…ヴィルさん、やめちゃ…もっと、して…?」


「…正常な判断が出来ぬのだろうが…(のち)に苦情を申しても、余は受け付けぬぞ?」


自分から唇を寄せてくる伊織に忠告めいた言葉を投げ掛け、早くと強請るように半分開かれた唇を貪る。ヴィルフリートは伊織の甘やかな声を聞きながら、手早く部屋に結界を施した。


「これで、邪魔も入るまい。場合次第で、午後の予定も中止とするか?」


絶え間なく与えられる刺激に伊織の思考は纏まらず、ヴィルフリートの問い掛けに訳も分からないまま頷いて返す。するとヴィルフリートは喉の奥で笑うと、伊織のドレスに手を掛けた。


「仰せのままに。イオリ嬢?」


「…そ、れ…やぁ…」


執務室には似つかわしくない、伊織の甘やかな声が響く中、午前は過ぎていった。






続きはムーンで。と言いたいところですが、全く書いてないので当てにしないでくださいw

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