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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
赤の彼方と金の此方
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紳士なのもかっこいいけどね。

またも予約投稿に失敗したバカです。

なんでこんなにミスるのかなぁ…



ヴィルフリートの右手が伊織の左手を取り、自身の口元に持っていくと軽い音を立てて指先に口付けた。しょんぼりとしたのも束の間、ヴィルフリートの言動に伊織の混乱は頂点に達して、オーバーヒートして湯気が出そうな程瞬く間に赤面した。


「…貴女にその気がないのなら、私が言ったことも冗談という事にしておきましょう。」


「えっ…あ、え…?」


するりと離れた手を目で追って、理解が追い付いてからヴィルフリートの微笑んではいるが少し苦笑いにもとれる笑みに、伊織は眼を伏せてヴィルフリートの腕にエスコートされたままだった右手に力を込めた。

エスコートの練習中ずっとこういう態度を取られるのも、ヴィルフリートじゃないようで少し寂しい。


「…ぁ、あの…ヴィルフリート様がよろしいのなら、のちほどお部屋にお伺いしても構いませんか…?」


思い切って顔を上げて恥ずかしさを押し殺しつつヴィルフリートの目を見、バクバクと音が聞こえそうなほど脈打つ心臓を左手でギュッと抑えるようにしながら問いかける。ヴィルフリートは思ってもない伊織の申し出に僅かに驚いたような表情を見せた。


「…では、待っております。」


ヴィルフリートが伊織の赤みの引かない頬を優しく撫でて、少し上体を屈めて伊織の耳元で囁いた。伊織はヴィルフリートから手を離して勢いよく耳を覆い、慌てて自室の扉をくぐり抜ける。寝室の扉も自分で開けて、急いで閉めるとそのままベッドに飛び込んで身悶えた。


「ぅわぁぁぁぁぁぁん!!あんなんじゃ心臓持たないよぉぉぉぉぉぉ!!!」


ごろごろと転がってベッドに複数置いてある枕を抱え込み、枕に向かって泣き言を(わめ)く。一頻(ひとしき)り喚いたら落ち着いてきたのか、身体を起こしてベッドに座り込み枕をぎゅうっと抱きしめた。


「はぁ…行くって言っちゃったし、行かなきゃだよね…。」


思い出して頬を赤く染めながらぽつりと小さく呟く。待ってると言われたからには、行かなければ罪悪感がある。


「イオリ様、落ち着きましたでしょうか?」


「ひゃぁ!!」


後ろから声を掛けられてびっくりして飛び上がる。一拍して後ろを振り返るとアニエッタが苦笑いして立っていた。


「驚かせてしまい、申し訳ありませんわ。」


「…見てた?」


「…申し訳ありません。先にお部屋に入って湯浴みの準備をしていたものですから…」


「…ううん。アニーは悪くないよ。僕も気にする余裕がなかったし…。」


気まずさから誤魔化す様に乾いた笑いを零し、枕から手を放して左右に振る。アニエッタに声を掛けられ、驚いたことにより幾分落ち着いてきた。


「ではイオリ様、湯浴みにいたしましょうか。」


「あ…う、うん…。」


湯浴みと聞いて伊織の方がピクリと跳ね、ぎこちない返事を返してベッドから降りる。そこにタイミングよくフランツィスカとエリーゼが寝室の方に入ってきた。どうやら外から入るタイミングを計っていたようだ。


「あれ?でもさっき入ったよね…?」


「お食事前にお体は清めましたし、今から入るのはお体を温める為ですわ。」


衣裳部屋の方へ誘導されて、身に着けているアクセサリーが外される。伊織が疑問に思って問いかけるとエリーゼが伊織のドレスを脱がせながら、にっこり笑って答えた。

アニエッタが入浴剤や香油を持って来て伊織に見せる。


「イオリ様、どちらにいたします?」


「あ、これアーデルハイト様から頂いたマッサージ用の香油ですよ。」


フランツィスカがアニエッタが持ってきた化粧小瓶の中から一つ持ち上げて、伊織に知らせる。伊織はその小瓶を見て、使った感想を教えて欲しいと言われたのを思い出して頷いた。


「じゃあマッサージはそれにするね。入浴剤とかは任せるよー。…そういえばエリーゼの任期ってどうなってるのかな?」


「…はっきりした任期は決まっておりませんね…。」


エリーゼがハッとして、それから少し気落ちしたように伊織に返事を返す。

気落ちしたエリーゼに、伊織は誤解させたと苦笑いしてエリーゼの手を握る。


「違うんだよ?エリーゼの任期が早く終わればいいとかじゃなくって…エリーゼさえよければ、このまま僕付きの侍女になってほしいなぁ、って。今までアニーもフランもあんまりお休みがなかったみたいだし、3人になれば少しは休み取りやすくなるよね?」


「イオリ様…。」


エリーゼが感極まったようにふるふると体を震わせながら伊織の手を両手でぎゅっと握り返す。


「僕からヴィルさんに言うね?ヴィルさんが僕付きの侍女は厳選してるって言ってたから、大丈夫だと思うし。侍女服、新しく作らなきゃね?」


「…ありがどうございまずぅ~」


涙を流すのを我慢して鼻を鳴らすエリーゼの手をフランツィスカが伊織の手からそっと外させ、中途半端に脱いだ状態の伊織の下着に手を掛けた。


「イオリ様に風邪を引かせるつもりですの?温まるつもりでしたのに、冷えてしまってますわよ。」


今の季節は夏で、ましてや空調管理されている城の中なので寒い訳がない。はっきりとわかるフランツィスカの冗談で、やはり短い間とはいえ一緒に働いていたフランツィスカには思うところがあったらしい。

アニエッタもそれを優しく見守っていて、伊織はエリーゼに微笑みかけた。


「さ、早くしませんと陛下がお待ちですわよ?」


「はいっ!」


先程のやり取りを見ていたフランツィスカがにやにやしながら伊織を浴室に押し遣り、なんとなく理解しているアニエッタがフランツィスカの言葉に溜息を吐く。やり取りも寝室での事も知らないエリーゼはポケットから取り出したハンカチで目尻を拭い、元気に返事を返した。



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入浴とマッサージでたっぷり1時間半ほどかけ、ナイトドレスの上にガウンを着て部屋を出て、程なくして着いたヴィルフリートの部屋の前でうろうろと右往左往に歩き回る。時刻はもう23刻近いはずだ。ヴィルフリートなら起きているだろうが、ノックする勇気がなかなか湧かない。

普段はそんなに意識しない事でも、いざ待っていると言われてしまうとどうしても意識してしまった。


「…いつまでそうしているおつもりか?」


「っ!…ヴィル、フリート様…」


掛けられた声に体がびくりと反応し、声の方に振り返る。ヴィルフリートが扉を開け、ラフな服装で立っていた。口元に浮かぶ笑みがいつもより優しげに見え、いつもと違った表情に慌てて言葉を改めた。

言葉遣いや態度だけでヴィルフリートとの距離が開いてしまったようで、なんだか落ち着かない心地を味わう。


「入られますか?」


「…はい。」


手を差し出されて覚悟を決め、こくりと唾液を飲み込むと出された手に自分の手を重ねた。

扉を通り抜けて促されるままにソファに座る。ヴィルフリートも伊織の隣に少しの間をあけて座ると、ギルベルトが氷とグラスを持って控えの部屋から入ってくる。テーブルの上に氷とグラスがセットされ、一度控えの部屋に戻って再びボトルを持って部屋に入ってきた。

どうやら持ち込まれたボトルは伊織が飲む為のものらしく、ヴィルフリートのボトルは部屋のキャビネットから取り出される。

準備が終わるとギルベルトは頭を下げて早々に控えの部屋に入って行ってしまった。


「さて、少しだけ私にお付き合い頂きたい。」


ヴィルフリートがグラスに氷を入れて、伊織の為に用意されたボトルを傾けた。薄い黄色の液体がグラスに注がれ、マドラーで軽く混ぜられたグラスが伊織の前に置かれた。

ヴィルフリートは自分の分の酒を手早く作ると、伊織にグラスを持つように促す。

伊織がグラスを持つとヴィルフリートのグラスと軽い音とともに合わされた。ヴィルフリートが口元に笑みを浮かべて目を細め、伊織はヴィルフリートの表情を見て頬を染める。緊張からか喉の渇きを覚えて手に持ったグラスに口を付ける。


「…おいしい、ですわ。」


「それはよかった。」


用意された飲み物は伊織が好きな果実の酒らしく、口当たりがよくて甘くて飲みやすい酒だった。

ちらりとヴィルフリートの方を見ると、琥珀色の酒が入ったグラスを傾けながら伊織を見ていたヴィルフリートと目が合う。伊織は半分程酒を飲んでグラスをテーブルに置き、あけられた間を詰めてヴィルフリートの肩に凭れ掛かった。


「…ヴィルさん…、僕…いつものヴィルさんがいい…。」


「駄目だったか?」


「うぅん…駄目じゃないけど、なんか…他人行儀な感じ?(…僕の心臓が持たないし…)」


凭れ掛かってきた伊織をそのまま抱き寄せ、髪を梳きながら問いかける。伊織は問い掛けに答えると、ヴィルフリートに聞こえない様に口の中で小さく呟いた。

ヴィルフリートは少し考える素振りを見せ、伊織を横目に見て意地悪く口角を上げる。


「だが、慣れておかねば披露目の際に先程のようにならぬか?」


「ゔ…確かに…。」


(…今の聞こえてないよね…?)


伊織の呟きが聞こえたかのようなヴィルフリートの発言にドキリとしながら、悟られないように気を付けて頷く。ヴィルフリートでもいつもの言動では流石に公式の場では相応しくない。伊織が慣れれば、エスコートやダンスの技術は超一流なのだから、慣れるしかないのだろう。


「…じゃあ、エスコートしてくれる時と僕が勉強してる時だけね?」


「ああ、わかった。」


「…あと、さっきのみたいなのは控えてくれると嬉しいかな。」


「さっきの、とはどの事を指すのだ?」


ヴィルフリートがグラスに手酌で酒を追加しながら、ん?と態とらしく伊織に問い掛ける。伊織はしまったという顔で口を覆い、そのまま眉を寄せてヴィルフリートを軽く睨んだ。頬が赤くなっている為、照れ隠しだとバレバレだが。


「…いじわる。」


伊織はヴィルフリートを小さく(なじ)り、グラスを手に取って少し薄まった酒を飲み干した。既に伊織の頬は羞恥とは違った意味で染まり始めている。

テーブルにグラスを置いて、自分で酒を注ぐ。ボトルをテーブルの上に戻す前にヴィルフリートに取り上げられ、ボトルには栓がされた。


「もう(しま)いだ。それが飲み終えたら寝るとしよう。」


「…ん。眠くなってきたかも…。」


注いだ酒をちびちび飲みながら頷く。ヴィルフリートはもう酒を飲み干しており、伊織の髪を弄んでいた。程なくして伊織が酒を飲み終えると、ヴィルフリートは伊織のグラスを取ってテーブルに置き、伊織を抱き上げて寝室に移動する。

伊織をベッドの上に下ろして、上から布団を掛けて自身もその隣に横になった。既に伊織はうとうととしている。


「良い夢を。」


「ん。おやすみなさい、ヴィルさん…。」







ちょっと個人的な都合で次話の更新が週明けになりそうです。可能であれば土日のどちらかにあげたいんですけどねぇ…_(:3 」∠)_

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