お約束展開?
ヴィルフリートさんの視点は次に先延ばし!
そういえばボーイズラブなのでは、と指摘されましたが、そういえばそうですね!まったく考えてませんでした(てへぺろ
その辺丸っと無視してください(笑)
(う、ん…温くて…硬い……硬い?)
伊織は目を閉じたままぺたぺたと硬い物に触れて見た。
「…何をしている。」
頭上から声が聞こえて、伊織は閉じていた目を瞬時に開ける。目の前には寝間着がはだけたヴィルフリートの逞しい身体が横たわっていた。寝起きの掠れた声が破壊力抜群すぎて、胸を触っていた手をそのまま突っぱねた。距離を取ろうとするも突っぱねた腕のまま抱き込まれて阻止される。先程から心臓がうるさい。
「暴れるでない…落ちたらどうする。」
宥める様につむじに口付けられ、ヴィルフリートの吐息が髪を揺らす。目の前のはだけた胸元も、少し掠れた低い声も、頭に掛かる吐息も、その壮絶な色気にくらくらする。
顔を見るのが怖い気がして、顔は見れなかった。
「まだ起きる時間ではない。もう少し休め。」
「…はい。」
伊織を抱き込む腕には力が入っていないにもかかわらず、伊織は解く事が出来ずに無心になって目を閉じた。
ヴィルフリートが背中をゆるく叩いてくれる。
(隣にいるのはライオン…ライオン…おっきい猫だから大丈夫!)
内心で何度も繰り返し、暗示を掛ける。
(いや、ライオンだったら逆に恐怖で寝れないし!)
自分で暗示を掛けて、自分でツッコミを入れるというコントのような事をしていると、だんだんヴィルフリートが気にならなくなり、眠気が訪れた。
傍にある温もりと一定リズムで背中を叩かれる心地良さに、意識が落ちた。
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再び起きた時にはヴィルフリートはもうおらず、伊織は微かな落胆を覚える。
(…落胆って何…っ)
伊織は顔を真っ赤にして起き上った。天蓋の布はまだ囲われたままで、その事にほっとした。アニエッタとフランツィスカに見られる事がなくて安堵する。
伊織が深呼吸して気持ちを落ち着けていると寝室の扉がノックされ、アニエッタとフランツィスカが寝室に入ってくる。
「おはようございます、イオリ様。布を開けてもよろしいでしょうか?」
二人はきっちりと頭を下げて、伊織に伺いを立てる。伊織はもう一度深呼吸した。
「おはよう、二人とも。開けてもいいよ」
平静を装ってベッドの上で伸びをし、開けられた場所から足を出してベッド淵に腰を掛けた。
柱に布を留め終えたアニエッタがガラスの器に魔法で水を満たし、差し出してくれる。フランツィスカはタオルをチェストから取り出してくる。
伊織は差し出された水で顔を洗い、タオルで水気を拭ってフランツィスカに返した。
「そういえば、魔法使う時って瞳の色が変わるんだね」
まだ色が変化しているアニエッタの瞳を見て、伊織が不思議そうに尋ねる。
「はい。一説では魔力が身体を巡るからだと言われております。魔力の色が元の瞳の色に混ざる事から兄弟であっても色が違う事が多いのですわ」
アニエッタが頷きながら、徐々に元の色に戻りつつある瞳を瞬いて、掌を上に向け氷を作った。瞬時に色が変わる瞳に、伊織が驚く。アニエッタはその氷を水の入ったガラスの器に入れて、器を手に持った。
「すごい!僕にもできるかな?」
「陛下の瞳は真紅になるんですよ。王家では代々、紫の瞳に一番近い色の男児が皇帝になるんですが、今の陛下ほど純粋な紫も真紅に変わる瞳も初代皇帝陛下以来なんですって。」
陛下、という言葉にドキッとしながらも、フランツィスカが教えてくれた内容に感心して、へぇ、と声が漏れた。
アニエッタは器を手に持ち衣裳部屋の扉に入っていく。伊織もフランツィスカに促されて衣裳部屋に入った。衣裳部屋では既にアニエッタが3つのドレスを手に悩んでいる。
「フラン、どれがいいかしら」
水色の肩と鎖骨が出るマーメイドドレスと桜色の腰をリボンで絞られてそこからシフォンのような生地がふわりと広がるもの、白いレース地のパフスリーブのAラインドレス。
どれも長袖だが袖口が広がり、可愛らしさが出ている。
「今日は控えめにこれにしましょう?きっとイオリ様なら妖精のように可愛らしいと思うわ。」
フランツィスカが桜色のシフォンドレスを手に取る。それに合わせてアニエッタが下着や装飾品、靴を合わせて出す。フランツィスカに寝間着を脱がされそうになり、慌てて押さえた。
「自分で脱ぐから!ちゃんと脱ぐから!!」
ここ2日間、ずっと他人に服を脱がされたり、着せられたり、身体を洗われたりで、伊織の中の常識がどんどん崩れていく。フランツィスカが伊織の主張を聞き流して紐を解く。肩の紐を解かれるとそのままストンと下に落ちた。こちらの寝間着はネグリジェタイプのようで1枚でも恥ずかしくない程度にはボリュームがある。フランツィスカ曰く、ツーピースでカボチャパンツ型のものもあるらしいが、どうやらアニエッタの趣味でネグリジェタイプのものが着せられている。それも色々なデザインがあり、今日着ていたものは肩でリボンを結んで留める肩がむき出しになる長袖のものだった。ちなみにヴィルフリートが着ていた寝間着は綿っぽい生地の普通の白いシャツと黒のズボンだった。シャツのボタンは半分ほどしか留めていなかったが。
「イオリ様、これを」
昨日と同じような下着を手渡されて身に着ける。同じく渡されたガーターと靴下を身に着けて、ドレスを着る。今日のドレスは鎖骨は見えるがそこまで襟が開いてなく、襟元から腰までレースで飾られている。後ろでリボンを結ばれ、ドレッサーの前の椅子に座る。
今日はフランツィスカが髪を結い、アニエッタが化粧を施す。仕上げに涙型の紅い石の付いたチョーカーを付けられる。
「ねえ、どうして紅い石なの?」
昨日も着けられた赤い宝石に、伊織は首を傾げて鏡越しに尋ねた。
すると二人とも同じような表情で意味深に笑った。
「それはイオリ様が…」
「陛下の寵姫という周囲への牽制ですわ。」
アニエッタが言い淀んで区切った言葉を、フランツィスカが悪戯っぽく続きを言う。
(ちょうき…ってなんだったっけ。ん?…寵姫!?)
「え!なんでそんなことになってるの!?」
だから昨日、アーデルハイトがあんなにも突っかかってきたのか。疑問が一つ解けたが聞き捨てならない内容に、伊織が噛み付く。
「あら、毎日陛下に気に掛けて頂いてる上に、昨日はお泊りになられたじゃありませんか」
フランツィスカがにやにやとした笑みで伊織に言うのを、アニエッタが窘める。
「イオリ様が意味も分からずこちらに来て、不安な心情を陛下が気遣って下さってるんですわ。」
「アニーも今まで見たことない陛下に驚いていたでしょう?それに城内は陛下の寵愛を受ける姫が現れたってすごい噂ですわよ。城下にも伝わってるんじゃないかしら。」
ここに来て知らされた新事実に、伊織は目に見えて困惑していた。そもそも、昨日ヴィルフリートが部屋に泊まった事もばれてるのか。伊織は気が付いてなかったが、部屋の前に騎士が立っている上に、ヴィルフリートは一度着替えに私室に戻っているのにばれてない訳がない。
伊織がドレッサーの前で固まっていると、扉がノックされた。
「はい。大丈夫でございます。」
アニエッタがすかさず応え、頭を下げてフランツィスカと共に後ろに下がった。扉が開いて入って来たヴィルフリートと鏡越しに目が合う。目が合った瞬間から伊織の顔がどんどん赤くなり、首まで染めてギュッと目を閉じ、俯く。後ろからクッと喉で笑った音が聞こえて、その後すぐに頭を撫でられた。
「…頭、撫でないでよ。僕もう少しで18歳になるんだけど…」
口を尖らせ顔が赤いまま、ヴィルフリートを恨めし気に見て言うと、ヴィルフリートの頭を撫でる手がピタリと止まった。
「…18?」
「18!!」
ヴィルフリートの信じられない、と言う呟きを聞いて、伊織はやっぱり、と思いながら大きな声で言い返した。元々伊織は童顔で、日本でさえよく年齢を間違えられていた。
よく見ればヴィルフリートだけではなく、アニエッタとフランツィスカ、ギルベルトさえ驚いた様子で伊織をまじまじと見ていた。
伊織は皆の視線を受け、頬を膨らませる。
「いくつに見えてたの」
伊織が憮然とした声で問えば、ヴィルフリートは撫でていた手で口許を押さえ、気まずそうに視線を外す。
「…14程だと思っておった…悪かった。」
「確かに発育がよろしいと思いましたわ…」
ヴィルフリートが謝った後にアニエッタが小さい声で呟いた。伊織に聞かせるつもりのない呟きだったが、しっかりと耳に入ってしまった。
「…こんな18ですみませんね!」
「いや、好都合だ。」
「…え?」
ツンとして言えば、ヴィルフリートがポツリと呟いた。よく聞こえなかった伊織は首を傾げて問い返すが、ヴィルフリートは人の悪い笑みを見せるだけで答えてくれない。
「覚悟するが良い。さ、行くぞ。」
機嫌良さそうに扉から出て行くのを呆然と眺め、少ししてから正気に戻った。
(…はやまった…?)
小走りで後を追いかけながら、ヴィルフリートに年齢を教えた事を後悔した。
後悔先に立たず!
ヴィルフリートさんの本気、はっじまっるよー!!