衝撃の事実!?
色んな事を掘り下げ回!
来た道を辿る様にヴィルフリートの執務室まで戻ってきた。
難しい話をするということもあり、ウラはとりあえずカルステンの滞在するディーゲルマン家に送られていった。帰り掛けに料理長から焼き菓子を沢山貰って、カルステンと食べると言ってはしゃいで邸に行った。
執務室に戻ったヴィルフリートは何やら難しい顔をして、ギルベルトから渡された数枚が束になった書類を見ている。伊織は邪魔しないように静かにしながら、料理長が持って来てくれたおやつに舌鼓を打つ。
ヴィルフリートはおやつを食べ終えた伊織に今まで見ていた書類の束を差し出す。伊織は首を傾げて、書類を受け取る。
「僕が見てもいいの?機密とかじゃないの?」
「いずれ覚えなければいけない事柄だ。今見たところで問題ない。」
書類にはベーレンドルフ侯爵家の事が書かれてあり、少し前に作られたと思われる書類には四親等の家系図やベーレンドルフが関係する主な出来事が書かれていた。読み進めていくにつれて亡くなったベーレンドルフ侯爵の子息、アルノーの事柄に及ぶ。
ベーレンドルフ家は皇家への忠誠心も高く、何代にも渡り近衛として皇帝に剣を捧げて来た一族らしい。裏の武家がフランツィスカやイグナーツの一族であるカロッサ家ならば、ベーレンドルフは表の武家といった所だろう。何を隠そう、現侯爵であるゴットホルト・ベーレンドルフは現在バルトロメウスが就く、近衛騎士団長の座に就いていた。否、それだけでなく子息のアルノーが亡くなっていなければ、バルトロメウスではなくアルノーが近衛騎士団長だったかもしれない。
書類を進めていくと、ヴィルフリートが研究所で言っていた前皇帝の暗殺未遂事件についても書かれていた。前皇帝は5年前には既に体調を崩しており、公務を行うのも日によってはままならないという事もあったそうだ。件の暗殺未遂事件の時は前皇帝の体調がよく、地方に公務に出ていたと書かれている。奇しくもアルノー・ベーレンドルフが近衛隊の隊長として。
大筋の内容はこうだ。
前皇帝が地方の公務を終えて帝都に帰還する際に近衛騎士の一人が裏切り、賊の手引きをした。アルノーを初め、近衛隊の面々が気が付いた時には既に囲まれており、裏切った騎士が剣を抜いた事によって負傷者が出ていた。近衛隊が裏切った騎士と賊の大部分を討ち取る事で戦闘は終了したが、近衛隊にも少なくはない怪我人が出た。それだけではなく護衛対象である前皇帝は馬車の中で傷を負い、グスタフが傷を負って気絶し、グスタフと前皇帝を刺した侍従は死亡していた。
戦闘の最中いち早く駆けつけたアルノーは重傷にも関わらず自らの手当もせず、前皇帝の治癒力を促進する為に魔力が切れるまで使い続け、命を落とした。
他の者が戦闘を終えて駆けつけた時には、既に手遅れだったようだ。
この事件での死傷者は、死亡者3人に重傷者8人、軽傷者26人にも及んだ。
伊織は書類を読み終えて机に置き、ソファにもたれ掛かる。
書かれてある事を自分の中で整理しようと、お茶を手に取り一口含む。
ベーレンドルフ侯爵は子息であるアルノーが亡くなってから、親戚に付け込まれない内に潔く侯爵家の血筋が断絶したと届けを出したと書類の最後の方に書いてあった。自分の息子が亡くなった時に、侯爵家当主としての責任を優先したベーレンドルフ侯爵は血も涙もないと、社交界で悪い噂が流れたという。
「…ベーレンドルフは、イオリの養子先として候補に挙がっていた。」
「僕の父親になっていたかもしれないってこと?」
「ああ。だが、断られた。…代々、血族で皇帝を守護する事に誇りを持っていると。息子の名誉の死を誇れる親でありたいと言われれば、強制は出来ぬ。」
「…そっか。僕が養女になっても、血は継げないもんね…」
手に持ったカップを置き直して、もう一度書類を手に取る。
書類に書いてある内容も、ヴィルフリードから聞いた話を加味しても、ベーレンドルフ侯爵家は清廉潔白で厳格な家柄のようだ。だからこそ、ヴィルフリートが気に掛けているのだとも思う。
隣に座るヴィルフリートの肩にもたれ掛かって、研究所での事を書類に書かれている事も含めて考える。
「…え!?じゃあウラはベーレンドルフ侯爵の孫ってこと!?」
「何を今更…そう言っていたではないか。」
「だ、だって、僕はベーレンドルフ侯爵なんて知らないし…」
ヴィルフリートの呆れたような声音を聞いて、伊織は言葉尻をだんだん小さくもにゃもにゃと濁す。確かにずっとその話をしていたのを聞いてはいたが、自分には関わりない事だと決めつけて右から左に流していた。
慌てて誤魔化す様に、書類を読んで気になっていたことを聞く。ヴィルフリートがいれば襲撃はすぐに鎮圧されただろうし、前皇帝が刺されることもなかったのではないだろうか。
「そ、そういえば、ヴィルさんは暗殺未遂事件の時どうしてたの?」
「…余は、父上の命に従って冒険者として世界を巡っていたが…」
「…え?じゃあ帝国にもいなかったの?」
「連絡が来た為一度戻りはしたが、アルノー・ベーレンドルフ及び他の近衛騎士の葬儀が終わり次第、すぐに城から追い出されたのでな。…父上も自分の生い先が短い事は分かっていたのだろう。首謀者並びに関係者の証拠を集める為に余はいない方がよかった様だな。実際、それで尻尾を掴めた。」
ヴィルフリートの顔に一瞬、苦渋が滲むのを見て聞いてはいけない事だったのかとハッと口に手を持っていく。それでもヴィルフリートは表面上、特に気にした様子もなく、淡々と理由を教えてくれる。
そういえば伊織の家庭教師のゲルダが、ヴィルフリートが即位してから、つい最近まで結構な数の貴族が粛清されたと言っていた。今は貴族の数が少ないらしいが、この一件で叙爵された者も少ないながらいる。伊織の身近にいる者なら、コルネリウスがこの一件で伯爵位を得ていた。
伊織は謝罪の意味も込めて、ヴィルフリートの腕にギュッと抱き付いた。
「父上が逝去してから、もう2年になる。臥せったのも、余が14の時だ。イオリが気を病むほど、余は気にしていない。」
眉を寄せて泣き出しそうな顔をしている伊織の髪を撫でて苦笑いする。
ヴィルフリートにしてみれば、もう済んだ事であって全く気にしていなかったのだが。敢えて言うなら、前皇帝が毒を盛られていた事を隠していたのに気が付かなかった事だろうか。そこはヴィルフリートの落ち度といっても過言ではない。父である前皇帝は、たとえどんな貴族であっても法で裁かれるべきだと言っていた。ヴィルフリートが当時介入していれば即解決しただろうが、その分証拠も不十分だっただろう事も想像に易い。
「…今度、お墓参りに連れて行ってね?」
「ああ。」
「そういえば、お母さんは?」
「………母上なら、そのうち帰ってくるだろう。」
伊織の問い掛けにたっぷり間を置いて答え、それ以上聞かれたくないのか伊織から視線を逸らす。ヴィルフリートが露骨に話し辛くしているのが珍しく、伊織は眼を瞬かせた。
「城にはいないってこと?」
「…何処にいるのかは、余にもわからぬ。まあ、生きていることは間違いないが。最後に会ったのは父上が病に臥せる前だったか。」
「…え?」
「弱っていく父上を見たくないと、飛び出したまま12年経つな。父上が逝去したら帰ると言っていたか。父上の逝去は知らせてある故、そろそろ帰って来てもおかしくはない。」
知らされた衝撃の事実に、書類の内容やウラの父親の事以上に驚いたかもしれない。まさか皇太后が失踪しているだなんて、全くの予想外だ。誰も話題に出さないので、てっきり亡くなっていると思っていた。もしかして伊織は、現帝国に於いてのタブーに触れてしまったのだろうか。
伊織は背中に冷や汗を掻きながら、流れる微妙な空気に誤魔化し笑いを浮かべる。壁の前に立って気配を消すギルベルトにさり気なく助けを求める視線を送った。ギルベルトは伊織の視線に気付き、緩く首を振る。どうやら解決策はなく、伊織は自力でどうにかする他ない様だ。
伊織がどうしようか思案していると、そこにノックの音が響く。ギルベルトがすぐさまノックに答え、扉を開けた。
伊織は救世主とばかりに扉から入ってきたイグナーツに心の中で感謝する。同時に、イグナーツにはヴィルフリートから冷ややかな視線が送られているとも知らず。
「…報告に参りました。」
イグナーツが跪いて頭を下げ、顔を上げてから些かに話し辛そうに言葉を発する。伊織は嬉しそうに勢いよく、ヴィルフリートは冷ややかな視線を向けながら頷いた。
「では…ベーレンドルフ侯爵に明日の午前10刻に、登城するよう申し伝えました。それから、グスタフ氏にも同じ時間に来るように要請しました。」
「ご苦労。」
ヴィルフリートがイグナーツを労い、イグナーツはヴィルフリートの威圧感がなくなった事に、内心胸を撫で下ろした。伊織にはギルベルトが賺さずお茶のお代わりを出し、意識を逸らす。
「ついでだ、イグナーツ。父上の侍女をしていたという女の詳細を調べろ。平民で、下女ならまだしも侍女というのは些かおかしい。」
「御意に。」
イグナーツは再び頭を下げ、立ち上がるとそのまま身を翻して執務室を出て行った。
伊織がギルベルトに出された焼き菓子とお茶を堪能していると、ヴィルフリートが伊織を引き寄せる。伊織が体勢を崩しながらヴィルフリートを見上げる。
「いずれにしても、明日にならねば真相は解らぬな。さてイオリ、鍛錬の時間だ。」
「…え゛?!」
視界の端で執務室と繋がる、侍従や侍女が待機する為の部屋の扉をギルベルトが開けた。伊織の喉から引き攣った声が漏れる。
「食した直後に激しく動く事は身体に良くないが、着替えてイオリの歩く速度で修練場まで行っている間に落ち着くだろう。」
ヴィルフリートが伊織の腰に腕を回したまま立ち上がり、伊織も自動的に立ち上がった。扉の向こうから出てきたアニエッタとエリーゼの姿に、思わず後ずさる。後ろにはヴィルフリートがいる為、実際にはヴィルフリートに軽くぶつかっただけで下がれてもなかったが。
(前門の虎、後門の狼…いや、万事休す?四面楚歌?)
「イオリの準備を。」
「畏まりました。」
(…これ、どう足掻いても、逃げれない!)
シリアスっぽい回(当社比)
あ、タイトルを変更すべきかどうか悩んでます←




