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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
赤の彼方と金の此方
86/94

猫と研究所!

ご無沙汰しております。

大変長らくお待たせしまして、申し訳ないです。


割烹に休止理由を乗せています。

気になった方はどうぞ。

本気で執務をしないつもりのヴィルフリートに、伊織は困惑しながらも何処か嬉しく感じてしまう。

仕事とどっちが大事か、などと言う間もなく、自分が選ばれている。


(でも、結局ヴィルさんサボらせちゃったかなぁ…)


執務はしないというヴィルフリートに、紅茶の追加と軽いお菓子を持って執務室に戻って来たギルベルトはあっさりと了承してしまった。

ギルベルトが了承するからには問題はないんだろう。

伊織は結局、ヴィルフリートの大丈夫という言葉に甘えてしまった。

ギルベルトが伊織に小さく合図をして執務室から出ていくのを視界の端で捉えながら、躊躇いがちに切り出す。


「ね、ヴィルさん。…お願いが、あるんだけど」


「言ってみるが良い。」


ヴィルフリートが伊織の腰に回した手を離してくれないので、胸元に軽く寄り掛かる形のまま顔色を窺う。

表情を見る限り機嫌は悪くなさそうだ。


「中庭にね、白っぽい仔猫がいて…すごい可愛い猫なんだけど…」


「その猫がどうした?」


「んっと…飼っても、いい?」


「駄目だ。…と言えば、諦めるのか?」


ヴィルフリートが目を細めて口角を上げるのを見て、伊織がムッと口を尖らせる。

先日箱を開けて以来、ヴィルフリートの表情が豊かになったのは喜ばしい事だ。が、それとこれとは別に揶揄(からか)われるのは喜ばしくない。

伊織はぷいっと顔を背けて、横目で軽く睨む。


「…意地悪。」


「ほう?そのような事を言って良いのか?」


「わぁ!ごめんなさい!」


慌てて取り繕うように笑って顔を正面に戻し、手を合わせて謝るポーズを作る。変わらずヴィルフリートの口角は上がったままなので、怒っているとかはなさそうだ。


「まぁ、よかろう。…ただし、寝室には入れぬ様にな。」


「…飼っていいの?」


「余が駄目だと言った所で、ギルベルトと共謀(きょうぼう)してどこかで飼うつもりなのだろう?ギルベルトはああ見えて、猫に目がないようだからな。」


「…ナンノコトデスカネ?」


ヴィルフリートの見透かすような視線に晒されて、伊織がそっと気まずげに視線を逸らす。

確かに許可が下りなかったらギルベルトに相談するつもりでいたが、まさかギルベルトがそこまで猫好きだとは思ってなかったのも事実だ。


「…じゃあ、猫用品とかも買っていい?」


「必要な物だろう。好きにするが良い。」


「ヴィルさんありがと!」


伊織が上目遣いで小首を傾げ、ヴィルフリートが仕方ないと溜息を吐いた。直後にギュッと抱き着いてくる伊織を抱き留めて、ヴィルフリートは再度溜息を吐く。

ヴィルフリートからすると、伊織は時にヴィルフリートの度量を試しているんじゃないかと思う事がある。伊織に限ってそういう駆け引きが出来る訳もないので天然なのだろうが。


「名前、どうしようかなぁ。」


ヴィルフリートの杞憂をよそに伊織はすっかり猫の事に頭がいっぱいの様だ。


(…ブラン(シロ)、とか…単純すぎかなー。でも、女の子でも男の子でも大丈夫だよね…)


うーんと声に出して唸りながら考えながら、ヴィルフリートの隣に座り直して入れてもらったお茶に口をつける。ヴィルフリートはあっさりと手を放して伊織の好きにさせてくれた。

特に何もする事がないためか、伊織の長い髪にヴィルフリートが指を絡めて指先でクルクルと弄ぶ。伊織もいつもの事なので気に留める様子はない。

少しの間そうしていたのだが、流石にヴィルフリートも暇になったようで書類を手に取った。仕事はしないと言っても、染み付いた習慣のようなものでもう癖になっているのかもしれない。時間が空くと何かせずにいられないあたり、典型的なワーカホリックだろう。

それでも時折伊織が話し掛けると、書類から目を離して相手をしてくれる。そのまま時間は過ぎて昼になるまで、のんびり過ごした。


ギルベルトから昼食の用意ができたと聞いて食堂に移動する。ウラは少し前に起きたらしく、子猫と遊んでいたらしい。

ヴィルフリートは何か報告が入ったようで、昼食を食べ終わると伊織とウラを置いて先に食堂を出ていった。

伊織とウラは昼食後のデザートとお茶もしっかりと済ませ、伊織は一度自室に戻る。ウラの部屋は伊織の部屋の隣らしい。元々伊織の部屋も客室なのでヴィルフリートの部屋からは少し距離があり、執務室もヴィルフリートの部屋も3階で、伊織の部屋は2階にある。

部屋には綺麗に洗われてすっかり白くなり、首に鈴の付いた赤いリボンを掛けられた子猫がソファーの上で毛ずくろいしていた。


「綺麗になったね」


伊織がソファーまで行って子猫を抱き上げると、一鳴きしてゴロゴロと喉を鳴らす。


「今日からお前の名前はブランだよ。」


子猫と目線を合わせるように顔の前まで持ち上げてにっこり笑うと、ブランと名づけた猫は分かったというようにもう一度鳴いた。言葉が解っているかの様な反応に、伊織は首を傾げる。

まさか、と思いつつもこちらの世界には様々な生き物がいる為、一概には否定も出来ない。


「ブラン、僕の言う事が解るの?」


伊織が半信半疑に目の前のブランに聞いてみると、ブランは短く鳴いた。伊織の口から乾いた笑みが漏れる。


「…あは、は…まさかね…」


「にゃにゃにゃ、にゃにゃーにゃにゃん!」


そんな筈ない、と遠い目をした矢先に、子猫が抗議するかのように伊織の鼻の頭を前脚でテシテシと叩く。爪を出してないあたり、本当に言葉を理解している可能性が高い。


「…何をしている。」


伊織がブランと見つめ合っていると、いつの間にかヴィルフリートが部屋の扉を開けて訝しげに問い掛けてきた。ウラがギルベルトと手を繋いでヴィルフリートの後ろにいるので、伊織の事を迎えに来たらしい。


「この()…ブランって名前付けたんだけどね。この()、僕が言ってる事、解ってるみたいで…」


「ほう?…確かに、ただの猫にしては魔力が桁違いの様だが。」


ヴィルフリートがすっと目を細め、伊織の抱くブランを注視する。瞳の色が赤く染まっている事から、何らかの魔法を行使している様だ。伊織がブランをソファに下ろすと、ブランはヴィルフリートに向き直った。


「…一昨日(いっさくじつ)、余とイオリを見ていたのはお前だな?」


「一昨日…?あ、渡り廊下での視線?」


「にゃぁ…」


ヴィルフリートの追究に、ブランが気まずそうな様子で渋々頷く。


「…その猫の事は後だ。一先ず研究所に()く。…その猫も調べさせるか。」


「にゃ!?」


ヴィルフリードが伊織に立つように促し、フランツィスカが伊織に扇を手渡す。ブランは自分に向けられた言葉に身体をびくりと震わせ、嫌々と首を振る。ヴィルフリートはブランを連れていく事を決めたのか、ブランの傍に寄って首根を摘み上げた。摘み上げられた拍子にプラプラと揺れ、すぐさまブランが暴れるも、抵抗(むな)しくヴィルフリートは意に介する様子もなく歩き出す。


「にゃにゃにゃ!!」


「ちょ、ちょっとヴィルさん!?」


伊織は扇をソファに置いたまま慌ててヴィルフリートを追いかけ、ぶら下がっているブランを両手で包む。ヴィルフリートは伊織がブランを掴んだのを一瞥して手を放し、再び歩き出した。伊織はブランを抱え直してヴィルフリートの後を歩く。


「イオリ様、扇をお持ち下さい。ブラン様は私がお連れ致します。」


ギルベルトに促されてブランを預けると、フランツィスカから再度扇を渡された。空いた手をウラがぎゅっと握る。伊織はウラの手を握り返して、少し先で待っているヴィルフリートに向かって歩く。

ヴィルフリートの隣に並ぶと、ヴィルフリートは伊織とウラに合わせるようにゆっくりと歩き出した。


「研究所までは転移魔法陣を使用する。神殿よりも遠いのでな。」


「研究所は内城と違い、平民の数が多いので転移する際には必ず扇をお使い下さい。」


「は、はーい…」


後ろでブランを抱きかかえて追従するギルベルトに念を押すように言われ、たじろぎながらも返事を返す。

外城の、それも端の方に行くとあって、近衛騎士が2名と伊織の護衛騎士のカルラとクラウディアが前後左右を固めている。とはいえ、伊織はともかくヴィルフリートにはあまり護衛は必要ないので形だけの意味合いの方が大きい。

圧倒的な強さを誇るヴィルフリートを相手にするのは、襲撃者の方がただでは済まないのだから。

以前と同じ様に、普段通る事のない通路を通って転移魔法陣のある部屋まで辿り着く。入り口を警護している騎士が敬礼して、扉を開けた。


「あれ?ここって前に来た部屋と同じ?」


「ああ。此処(のうない)で指定した場所に転移するようになっている。尤も、以前帰還に使用した転移魔法陣とは違い、固定の転移魔法陣は相互連動する魔法陣がなければ起動はしないが。」


ヴィルフリートは自分の蟀谷(こめかみ)の所を指で示し、固定転移魔法陣の簡単な説明をしてくれる。

転移に関しては魔法の中でも特級に指定されている程、行使が難しい。まだ殆ど魔法を使えない伊織では、詳しく説明されても理解が追い付かない為、ヴィルフリートも簡単な説明で終わらせる。


「起動させる。」


全員が魔法陣に納まったのを確認して、ヴィルフリートが魔力を流す。魔法陣から発する赤い光に目を閉じ、不安なのか伊織の手をぎゅっと握るウラを安心させるように握り返した。


「着いた。」


閉じていた目をそっと開けて、周りを見渡す。神殿は魔法陣の周りに水が流れていて美しかったが、研究所の方は壁の四隅に炎を閉じ込めたクリスタルの様な宝石の柱が地面から天井にかけて配置されていた。


「神殿の魔法陣の周りも綺麗だったけど、ここの魔法陣の周りも綺麗だね」


「転移場所を指定する為の目印に過ぎぬ。()くぞ。」


魔法陣は扉から伊織の太ももほどの高さが下がっており、すり鉢状に階段がぐるっと囲っている。扉は立派で頑丈そうな両内開きで、近衛騎士が開けてくれた。扉を出た先は木々が立ち並び、正面にはとても古い塔が建っている。塔は外壁を蔦が這っており、おとぎ話などの魔女の住処(すみか)と言われても不思議ではない。


(この塔、知ってる…)


伊織の心臓が嫌に脈打つ。思わず隣を歩くヴィルフリートの服に縋ってしまった。ヴィルフリートは忘れているのだろうか。


(…此処は、(イレーネ)が、死んだ…)


塔の向こうには湖が見渡せる筈だ。森に隠れる様に建ったこの塔は、かつては罪を犯した貴人が幽閉される場所だった。イレーネは自身を(ほふ)る場所に此処を選んだのだ。友である聖女と呼ばれた少女が殺され、母である王妃が処刑され、父である王が自害した、忌まわしき場所を自身の血肉で(あがな)おうと。自身の殺害を愛する恋人に望んで…。


「…解っている。だが、もう過去の事だ。」


ヴィルフリートの手が蒼褪めた伊織の頬を撫でる。伊織はヴィルフリートに向かって頷き、縋っていた手を放して塔を見上げる。震えそうになる足でゆっくりと足を踏み出した。


(もう甘えてばっかり、いられないもんね…)







エタらないようにこれからも頑張ります。



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