表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫水晶の回帰  作者: 秋雨
赤の彼方と金の此方
83/94

勝負の行方は?

いつも通りのヴィルフリートに何と無くホッとする。

勝負をするのは自分ではなく、ヴィルフリートなのだ。きっとヴィルフリートの事だから、大丈夫だろう。

それにしてもヴィルフリートの能力(スペック)はどうなっているのだろうか。

容姿も頭脳、武力や魔力でさえも常人よりも遥かに優れている。いっそここまで飛び抜けていると逆に清々しい気さえする。

多少、性格に難があると言えるが、伊織には優しいし、大抵のお願いも聞いてくれる。他の者に対しては冷酷だと聞いた事はあったけれど、実際に見た事が無いからわからない。

伊織からして、敢えてどうにかして欲しいと言うならば、羞恥心の無さと人目を気にしないところだろうか。

自分に自信があるのか、それとも無頓着なのか。はたまたその両方か、ヴィルフリートは全く人目を気にしない。向けられる視線に煩わしくしている事はあるが。


「ヴィルさん…、流石にここでは恥ずかしいんだけど…」


見詰め合っていたのが食事が終わった食堂だった為か、物凄く注目されている。各々反応は千差万別だが、モニカの微笑ましそうな視線が一番恥ずかしい。子供達は子供達で、一番上のフィリーネはうっとりとしている。ウラとフィリップはわからないみたいで、ハルトヴィンは無表情だが。

ヴィルフリートが伊織の髪を一度梳いてから、食堂を見渡して一斉に逸らされた視線に眉を顰める。


「…ニコラウス、アロイジウス、コルネリウス。覚えておくがいい。」


「え!なんで私の名前が入ってるんですか!?」


コルネリウスが慌てて問い掛けてくる。確かにコルネリウスは普段通りだった気がするし、大げさに視線も逸らしてないので、伊織も不思議に思って首を傾げた。


「何となくだな。ここにはいないバルトロメウスも数に入っている。」


「そ、そんな…」


「バルト兄さんを入れるのは可哀想なんじゃ…」


「あやつには普段から多大な迷惑を被っている。そのついでだ。」


ヴィルフリートはバルトロメウスが聞くと叫び声を上げそうな事を平然と言ってのけ、伊織を連れて立ち上がる。コルネリウスはがっくりと肩を下げ、深々と溜め息を吐いていた。

伊織はヴィルフリートに連れられて一息先に食堂を出る。真っ直ぐにサロンに戻ると、伊織を膝に乗せて使用人には下がる様に指示した。

ヴィルフリートはすぐに伊織の唇を奪い、ニコラウスやアロイジウスが戻って来るまでの間堪能する。呼吸の整っていない伊織を膝の上から下ろして、サロンの扉が開いた時には伊織にクッションを手渡した。クッションは伊織に対する配慮なのか、それとも涙目になった伊織の顔を他人に見せない為か、伊織は手渡されたクッションを抱え込んで顔を隠す。

義理とは言え、実家でキスをしたと言う後ろめたさは多少あるものの、僅かでだがヴィルフリートとの時間が取れて嬉しく思う。クッションの下でこっそりはにかんで、ソファに凭れかかる。


「…イオリ、どうかしたのかな?」


アロイジウスに問い掛けられて、クッションを抱えたまま首を振る。見えている目元が赤い気がしたが、アロイジウスは首を傾げつつソファに座った。


「すぐに勝負しますか?」


「…そうだな。良いのか?」


ヴィルフリートの返事を聞いて、グスタフがアロイジウスにチェス盤を手渡す。アロイジウスは頷いて、テーブルにチェス盤を置きながらコインを取り出す。


「…余が黒で良い。」


「いいんですか?後悔するかもしれませんよ?」


ヴィルフリートが頷いたのを確認してコインを仕舞い、駒を並べ始める。

子供達は入浴して寝る様で、モニカとレティツィアはいない。ニコラウスとコルネリウスは観戦する様で、酒のグラスを片手にそれぞれテーブルの左右に座っている。

随分落ち着いたのでクッションを口元から引き下げて抱え、観戦の体勢に入る。とは言っても伊織はあまりチェスが得意ではないので、理解できるかどうかは別だが。


「では、ドローでも陛下の勝ちと言う事に致しましょうか。」


「アロイス、ヴィル坊はめちゃくちゃ強いぞ!?」


アロイジウスが白のポーンを動かし、不敵な笑みを浮かべる。ニコラウスが横から注意を呼び掛けるが、アロイジウスの不敵な笑みにヴィルフリートに火が付いたらしい。ヴィルフリートが目を細め、黒のポーンを動かした。

一気に緊迫した空気に、伊織はクッションをギュッと抱き込んでドキドキしながら戦況を見守る。今のところ、伊織の見る限りはやはり白を持つアロイジウスの優勢で、ゲームの中盤に差し掛かろうとしている。

チェスは一度のミスで一気に戦況が覆ったりする事もある為、一瞬たりとも気が抜けない。だが、ヴィルフリートもアロイジウスもミスをする筈もなく、ついにアロイジウスの優勢のままもう終盤近くまで来てしまった。

その時急にヴィルフリートに抱き寄せられ、いつもの様に膝に乗せられる。ヴィルフリートの指が伊織の髪を梳き、そのままアロイジウスに向かって喉で笑う。


「チェックだ。」


ヴィルフリートの行動に呆気に取られていたアロイジウスがハッとしてチェス盤に視線を向ける。

どう見てもアロイジウスの方が優勢に見えるのだが、ヴィルフリートの頭の中ではどうなっているのだろうか。

アロイジウスもヴィルフリートの手を辿ったのか、初めは怪訝な顔をしていたが、すぐに気が付いたのか眉が寄る。


「確かに、私の負けの様だ。…参ったね。」


「勝利の女神は陛下に微笑みましたか。」


(…この人達には、一体何手先が見えてるんだろう…)


伊織が微妙な顔でチェス盤を眺めていると、ヴィルフリートが伊織を抱き上げたまま急に立ち上がる。伊織が驚いてヴィルフリートにしがみ付いた。


「ヴィルさん、どうしたの?」


「今日の運動がまだだろう。」


何の事だか一瞬わからず首を傾げかけるが、思い当って顔を顰める。

ニコラウス達3人は何事かと問いたそうに伊織を見ていたが、ヴィルフリートはさっさとグスタフを呼んでサロンから出る。グスタフに案内されて邸に来て初めて伊織の部屋に入る。

アニエッタとフランツィスカが入って来たヴィルフリートと伊織に頭を下げる。


「イオリの着替えを。」


「畏まりました。どのような?」


「運動をさせる。」


ヴィルフリートは一言だけ言い残して部屋を出て行った。

伊織は2人の手によって、昨日と似たような服を着せられ、部屋の外で待っていたグスタフに案内されて広間に通される。

そこには既にヴィルフリートが来ていて、ニコラウスやアロイジウス、コルネリウスやレティツィアまでいる。モニカは子供を寝かせる為、先に寝室に下がった様だが。

レティツィア以外は柔軟運動をしていて、伊織もアニエッタとフランツィスカに促されて、同じ様に柔軟運動を始める。

昨日の運動での筋肉痛はなく、心なしか昨日よりかは早く柔軟運動が終わった気がする。


「今日は走る場所はないのでな。」


ヴィルフリートに手を取られ、広間の中央に来たところで腰を抱かれる。流れてきた音楽に合わせ、ヴィルフリートのリードでステップを踏む。


「背筋が曲がっている。顎は引け。動きが硬い。」


伊織の悪い所を事細かに指摘され、休みなく通して踊る。伊織の体力はもう限界近いが、ヴィルフリートのリードがうまい所為か、何とか形になってきた。


「…はっ…ちょ、ちょっと…休憩…させて…はぁ…」


変な所に力が入っているのもあるとは思うが、普段使っていない筋肉が悲鳴を上げている。

伊織はクタクタで汗をかいているのにも関わらず、ヴィルフリートは涼しい顔でグスタフに渡された飲み物を口に含んでいる。


(…ハード…過ぎる…)





割烹にてお知らせがあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆★やる気スイッチ★☆

★☆ポチッとな☆★

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ