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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
赤の彼方と金の此方
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何かの罰ゲームみたい…

しん…と部屋に先程とは違った、静寂が訪れる。使用人がニコラウスやコルネリウスと同じような表情をしている所を見る限り、誰もその事を思いつかなかったらしい。やはり、使用人は主人に似るのだろうか。

コルネリウスが咳払いして、微妙な空気を振り払う様に音を立てた。


「…陛下、もっと早く仰って頂ければ嬉しかったのですが…」


「其方等が全く考えていないとは思っていなかったのでな。」


しれっと言うヴィルフリートに、コルネリウスの頬が引き攣る。ヴィルフリートの様子からするに、分かっていて何時気が付くかと遊んでいたんだろう。コルネリウスはそれに気が付いた様だ。

カルステンは陛下と呼ばれたヴィルフリートに目を捲り、すぐに両膝を付いて頭を床に付けた。


「こ、皇帝陛下とは、つつ、露知らず…か、数々の非礼を…」


「良い。座るがいい。」


ヴィルフリートの寛大な言葉にカルステンがますます恐縮して頭を上げず、グスタフが優しく宥めて再びソファに座らせる。

カルステンがソファに座り直し、コルネリウスが疲れた表情で口を開いた。


「いずれにしても、城の研究所に研究員を派遣してもらうか、もしくは研究所に行くしかありませんね。」


「そうだけどな。兄貴の子供だった場合、ヴィル坊はどうすんだ?帝国の皇女として発表して、育てるのか?」


「どうもせぬ。あの子供が希望する事をさせればよい。皇女になると言うのなら発表すれば良いし、その者と暮らすと言うのならそれでも良い。」


「…相変わらず、面白味のない奴だな…」


ニコラウスが面白くなさそうに肘掛けにだらしなく凭れかかり、レティツィアがニコラウスを窘める。

ヴィルフリートはそんなニコラウスを見て、呆れた視線を向けた。


「それで、どうするんです?これから研究員を派遣させますか?」


「いや…、明日イオリと共に城へ来させればいいだろう。滅多にここには来ないだろうからな。」


伊織を抱き寄せて言うヴィルフリートに、ニコラウスが唸って睨み付ける。伊織が胸元に手を突いて身体を離そうとしていると、コルネリウスが空咳をした。

ヴィルフリートは離してくれそうにないので伊織は溜め息を吐いて諦め、身動ぎしてとりあえず座りやすい体勢を取る。


「…陛下、ここにいるのは我々だけではないので、できれば控えて頂きたいのですが…」


「既に市中に噂が立っているのだろう?今更だと思うが。」


ヴィルフリートが鼻で笑い、コルネリウスが頭を抱える様に額に手を当てる。伊織はコルネリウスに向けて心の中で謝った。


(お詫びの手紙書いて、ハイジに渡して貰うようにお願いしよう…直接渡すと、兄さんが危険そうだし…)


伊織は溜め息を飲み込んでヴィルフリートをこっそり見る。ヴィルフリートが人目を気にする事はないし、伊織は諦めて慣れる他ない。今まで執着するものがなかった所為か、伊織に対する独占欲は伊織も驚くほどだ。前世での影響もあるのかもしれないが。


「もうじきアロイジウスが帰って来る事だろう。余はアロイジウスとチェスをしたら帰るのでな。」


「…あ、あの…わし、いえ、私はどうすれば…。」


「…あ、ああ…。仕事を探してる時に、お時間を取らせて申し訳ありませんね。迷惑料として、仕事はこちらで手配しましょう。」


コルネリウスがカルステンに向かってにこやかに言う。完全に忘れていたのを取り繕っているのが解り、伊織は思わずクスリと笑ってしまった。コルネリウスが伊織に向かって苦笑いを浮かべて、カルステンに向き直った。


「いえ、そんな事をして頂くのも…」


「カルステン・ベルと言ったか。もしもウラが余の妹ならば、其方は皇女の養父となる。そうなれば、爵位と領地が与えられるだろう。見たところまだ40そこそこと言ったところか。この機会に働きながら学べば良かろう。」


ヴィルフリートの言葉に呆然とし、すぐにハッとして深々と頭を下げる。


「…有難き幸せにございます…!」


「決まりですね。帝都内にとりあえず、住む場所なども用意させましょう。グスタフ。」


「畏まりました。すぐに手配致します。」


グスタフが頭を下げ、カルステンを連れてきた2人の使用人に目配せする。使用人はグスタフに目礼して扉に向かい、こちらに頭を下げてから出て行った。

それを確認してヴィルフリートがニコラウスに向かって鼻で笑い、バカにした様な視線を向ける。


「ニコラウス。どちらがこの邸の主人か分からなくなっているぞ。」


「うるさいぞ。俺もそれくらいわかってるっつの。」


「あら。自覚があるのなら、もう少しちゃんとしてほしいものですわね。あ・な・た?」


ニコラウスが不貞腐れた様に反論するのに、レティツィアがここぞとばかりにニコラウスに向かって毒を吐く。にっこりと笑った顔に青筋がある気がして、伊織はふるりと身を震わせた。

伊織の中でレティツィアをヴォルフガング同様に、怒らせてはいけない人に認定する。

それにしても、どうしてこうも変わった人ばかりなのだろうか。類は友を呼ぶと言う事なら、伊織が変わっているのだろうか。


「さて、暇が出来たな。」


「おっ!じゃあ俺と勝負しようぜ。さっきイオリが渡してくれたチェスってやつ、ルール覚えたからな。」


変わっているが、有能には変わりないのも特徴なのだろうか。

グスタフがテーブルの上を片付け、チェス盤を置く。先程いなかったレティツィアは伊織の事を見てにんまりと含みのある笑顔を浮かべた。


「ではイオリさん。私達はお庭の泉のところでお茶でも致しましょうか。貴方の連れてきた侍女と護衛もご一緒にいかが?」


「は、はい、ママ。皆を呼んでまいります。」


逃げられないと悟った伊織は引き攣った笑みを浮かべて、ヴィルフリートから離れて立ち上がる。グスタフがすぐに侍女を呼んでくれ、庭にティーセットが準備される。

所在なさげに呆然と座っていたカルステンはウラの寝ている客間に通されていき、伊織はアニエッタやフランツィスカ、カルラを連れてレティツィアと一緒に庭に向かった。


「ねえ、イオリさん。陛下とは、どうやってお知り合いになりましたの?」


「え、っと…ひ、秘密です」


言ってもいい事なのか悩み、判断が付かずお茶を濁す。レティツィアがそれでもにやにやと含み笑いを浮かべていて、助けを求める様にアニエッタやフランツィスカを見ると、フランツィスカも同じ様な笑みを浮かべていた。


「私も聞きたいですわ。陛下はどういう感じなのか。」


「え、う、そ、そんな言う事じゃないし…!」


「フラン、悪乗りはおやめなさい。」


「えー、でも私も気になりますわよ?」


伊織がたじたじになっていると、アニエッタが助け舟を出してくれるが、クラウディアがくすくす笑いながら伊織に向かって首を傾げる。

伊織はカルラやリタに助けを求めようとするが、リタは顔を赤くしているし、カルラも遠い目をしている。この2人は恋愛面はあまり得意でないらしい。


「…それで、陛下とはどうなのかしら。もういきつくところまでいきまして?」


レティツィアの明け透けな言葉に伊織の顔が真っ赤に染まる。どうすればこの話を回避できるだろうか。

アニエッタはレティツィアには強く言えないだろうし、伊織は困惑を隠してお茶を飲む。


「それはもうばっちりですわ!」


フランツィスカがにまにましながらレティツィアにこっそり告げ口する。レティツィアはまあ、と声を上げて、ますます目を輝かせた。


「フ、フランのバカ!」


伊織はもう涙目になって頭を抱える。どうやってもこの話を避けるのは無理と悟り、ふるふる震えながら視線を逃れるように目を閉じた。


「減るモノでもありませんのに。」


「そうですわねぇ。」


「本当に。」


レティツィアとフランツィスカ、クラウディアは追及を緩める気はないらしい。伊織は早くアロイジウスが帰って来る事を祈った。






女3人で姦しい(笑)

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