無実かどうかは別として。
ウラちゃんの親は!?
とりあえずは騎士に話を聞きに行った者の帰りを待つ事になった。
昼食を取る為に食堂に移動し、伊織はグスタフが引いてくれた椅子に腰を掛けた。グスタフは先代皇帝に仕えていた侍従で、ヴィルフリートも幼い頃は世話になっていたらしい。先代皇帝が崩御した際にニコラウスが声を掛け、現在は公爵家の執事として働いている。
昼食がテーブルに並べられ、昼食とは思えない程の量に驚く。どうやらヴィルフリートと伊織だけでなく、公爵家の面々はよく食べるようだ。
ウラはあまりの量の食事に驚いているようで、次に何を食べてもいいと言う言葉に目を輝かせている。
食事は和やかに終わり、食事が終わった時に丁度騎士に話を聞きに行った使用人が帰って来たらしく、食堂からサロンに移動する。
グスタフが話を始める前にお茶を入れてくれ、ソファに寛ぎながらそのお茶を飲む。グスタフのお茶は香りも味も素晴らしく、アニエッタやギルベルトなどの城の一流使用人の入れたお茶で舌が肥えていた伊織も思わず笑顔が零れた。伊織の笑顔を見て、グスタフの優しげな瞳の目尻に皺が寄る。
「流石に美味いな。」
ヴィルフリートも満足気に頷き、カップをソーサーに戻したところで部屋に騎士に話を聞きに行っていたと言う使用人がグスタフに連れられて入って来た。
使用人は伊織達の前で深々と頭を下げ、ポケットから手帳を取り出す。
「まず、門番の記録では、4日前にお嬢様の特徴通りのお子様が左足の悪い男に連れられて帝都に入ったそうです。その際、身分証もきちんと見せておりますし、魔道具にその記録も残っておりました。男の名前はカルステン・ベル。アルジェ湖の畔の村の外れに住んでいる男で、漁師だそうです。」
使用人が淀みなくすらすらと手帳を読み上げる。話を聞く限り、普通に生活しているように思うが、ウラを置いて行かなければいけなかったのは何故なのか。
「その男が帝都から出た記録は残ってんのか?」
「いいえ。帝都には出稼ぎで来た様で、働き口を探していたと記録にありました。現在、他の者が役所に該当の者が訪れたかどうかを調査をしております。」
「見つけ次第、ここに連れて来る様に。」
「畏まりました。」
使用人が頭を下げ、部屋を出ていく。流石に公爵家だけあって、使用人一人一人の教育が行き届いているようで、扉を閉める音も足音も一切しなかった。
とりあえず収穫はあったが、まだ男は見つかっていないし、ウラが誰の子供なのかは全く不明だ。が、見る限り誰一人として真剣になっている様子はなく、仕舞にはウラを誰の養子にするかという話までし始める。
(…緊張感、ない…)
そもそも、まだウラが何処の誰であるかと言うのも不明だし、まだまだ問題も山積みなのに何故養子の話が出てくるのだろうか。
「…イオリ、言いたい事は解らなくないが、こやつ等に言っても無駄だ。」
微妙な顔をしている伊織をヴィルフリートが宥め、伊織は微妙な顔のまま頷く。
因みにウラの教育に悪いと言う事で、伊織はヴィルフリートと少し離れて座っている。離れて、と言っても肩が触れ合わない程度で、近いのだが。
「でも、そのベルさん?は兎も角として、あんまり親は探す気なさそうだよね。」
「見つからなくても、引き取ればいいからな!イオリはすぐにヴィル坊の嫁になっちまうだろ?でも、ウラならあと10年は大丈夫だしな!」
「やっぱり、パパが…」
「だあああああ!違う!!違うからな!!」
伊織の冗談にニコラウスが過剰に反応してレティツィアを振り返り、ぶんぶんと首を振る。レティツィアが呆れた眼差しでニコラウスを見て溜め息を吐いた。
「あなた?そんなに必死になられると、逆におかしく思いますわよ?」
「レティ…!俺は無実だぞ!」
それでも言い募るニコラウスにレティツィアがにっこりと笑った。頷かないところを見ると、多少なりとも思う所があるのかもしれない。
「あなた?私知ってますのよ?あなたが、たまに女性と食事をしている事。」
「…そ、それは…別に、浮気ではないんだ!断じて違う!」
グスタフがレティツィアの隣に座るウラを抱き上げて扉まで連れて行き、メイドに預けて何事かを告げる。先程からウラは眠そうにしていたので、ニコラウスとレティツィアの教育に悪い言い争いを機に、昼寝に行かせたのかもしえない。
そんな事にも気付かずに、ニコラウスがレティツィアに必死で謝っているのを見て、伊織は朝ヴィルフリートに言われた言葉を思い出していた。
(…気を強く持て、って…公爵家は変わった人ばかりって事ね…)
伊織がニコラウスとレティツィアの言い争いをぼーっと眺めていると、ヴィルフリートが溜め息を吐いてから手を打って注意を引く。
言い合っていた2人はヴィルフリートの方を見てバツが悪そうに身を竦ませた。レティツィアは恥ずかしそうに俯いていて、可愛らしい。
「教育に悪い。それに、ニコラウスもいい歳なのだ。少しは落ち着け。」
「申し訳ありませんわ、陛下…お見苦しい所をお見せいたしました。」
そこに丁度ノックの音がして、グスタフが扉を開ける。見れば、先程と同じ使用人ともう一人違う使用人が一人の男を連れて入って来た。左足を少し引き摺っている様子を見ると、きっとこの男がカルステン・ベルなのだろう。
「お待たせ致しました。丁度、役所に来ていたので連れてきました。」
「手荒な事はしていないだろうね?」
「はい。声を掛けたところすぐに理解していただけましたので。」
コルネリウスが使用人に尋ねて、カルステンに自分の向かいの一人掛けのソファに座るように促す。カルステンは恐る恐る言われた通りにソファに沈み、座りなれない柔らかさにバランスを崩しつつも浅く腰を掛けた。
「単刀直入に聞くけれど、ウラを捨てたのかな?」
コルネリウスがヴィルフリートをちらりと見て、ヴィルフリートが頷くのを確認してからカルステンに質問する。カルステンはおどおどしながらもはっきり首を横に振った。
皆一様に顔を見合わせて、どう言う事かとカルステンを見る。
カルステンの前にお茶が置かれ、伊織やヴィルフリートのお茶も入れ直される。
カルステンは困惑しながらも、深呼吸してから口を開く。
「ウラには、孤児院の前に連れて行って、必ず迎えに来るからそこで待つ様に言ったんです。孤児院に行ったところ、ウラはいないと聞かされて探していた所だったんです。わし、いえ、私は見ての通り足が悪いので、漁業が歳と共に難しくなって帝都には職探しに…。ウラは私の親友の娘の子供なのですが、親友もその娘さんももう亡くなっておりまして。それを告げるのがつらく、母親は帝都に住んでいると…。それから、父親は確かに皇帝だと聞いております…娘さんは否定していたようですが、これは間違いないと親友は言っておりました。勿論、この事は誰にも言っておりません。」
何度か言葉を閊えながらもカルステンが一気に言い切り、顔を真っ青にさせて俯く。
ヴィルフリートの眉間にはくっきりと皺が寄っており、それを見たコルネリウスが胸に手を当てている。コルネリウスは伊織から見ると比較的まともな所為か、随分苦労性の様だ。
「ですが、陛下には身に覚えがない様なのです。その娘さんのお名前は何と仰るんですか?」
「…確か、パトラと言ったと思いますが…。以前城で侍女をしていたようです。」
カルステンの言葉に、視界の端でグスタフが顎に手を当てて考えているのが見えた。ヴィルフリートがそれを目に留め、コルネリウスに顎をしゃくって示す。コルネリウスがヴィルフリートの合図にグスタフに目を向ける。
「グスタフ。何か思い当る事があるのですか?」
「いえ。そういえば、先代が懇意にしていた侍女がいたと思いまして…。」
「…じゃあ、ウラの父親は先代皇帝って事?」
伊織の思わず出た言葉に、部屋を重い空気が満たす。カルステンは部屋の空気に耐えきれないのか、俯いたまま先程よりも顔色が悪く、蒼白になっている。
ヴィルフリートの溜め息が静かな部屋に響き、ヴィルフリートに注目が集まる。
「…忘れている様なので言うが、魔道具で血縁関係を調べれば済む事なのではないのか?」
ヴィルフリートさんは基本的にバッサリ( *´艸`)




