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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
赤の彼方と金の此方
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スパルタ?いいえ、体力が皆無です。

何とか1日おき更新。

うーむ。

「…もぅ…、むり…」


伊織が座り込んでゼイゼイと肩で息をした。思っていた以上に体力が落ちているらしい。まずはしっかり柔軟から、と柔軟運動を30分間やっただけでこのありさまだ。ちなみにヴィルフリートは既に柔軟を終えて筋肉トレーニングを始めている。

そういえばヴィルフリートが訓練をしているのを見るのは初めてかもしれない。以前見たいと言ったことがあったが、結局見れなかったのだ。


「イオリ様、まだ準備運動の途中ですよ。」


クラウディアに苦笑い混じりに言われて、ギョッとする。今の柔軟運動は終わったと言っていたのに、まだ準備運動があるんだろうか。カルラが伊織を支え起こし、今度は筋を伸ばす運動を始める。


「これが終われば、一度陛下に何をするか聞きましょうね。」


クラウディアがにこやかに伊織に向かって言うが、伊織は正直それどころではない。もう体力がなければいいと思うが、流石に体力不足はどうにかした方がいいとも思う。

ヴィルフリートが筋肉トレーニングを終わらせて、へたり込む伊織のところに来て苦笑いする。

ヴィルフリートの服は汗で張り付き、うっすらと身体のラインが浮き彫りになっていて、伊織は直視できずに目を逸らした。


「これでは、体力を見る以前の問題か。イオリ、まだ準備運動だろう。」


「…こんなに…体力、落ちてる…なんて、思わなかった…。ヴィルさんの、所為でも…あるんだからね…」


伊織が荒く呼吸しながら、切れ切れにヴィルフリートに文句を言う。

ギルベルトがバスケットの中から飲み物を取り出して、伊織とヴィルフリートに差し出す。伊織は受け取って一息に飲みほし、お代りを要求するが、ヴィルフリートにグラスを取り上げられてしまった。


「あまり飲むのは、この後に支障をきたす。」


「…まだ、するの…?」


「ああ。まずは走る。」


ヴィルフリートに支え起こされ、立つのもしんどくて体重を掛ける。すると手を離されて、勢い余って転びそうになった。

伊織が口を尖らせてヴィルフリートを睨むが、ヴィルフリートは伊織の頭を優しく叩いて修練場を示した。


「とりあえず、10周。極力歩かない。」


「うわーん。サド!鬼畜!ヴィルさんのばかぁぁぁぁ」


捨て台詞の様にヴィルフリートに暴言を吐いて、伊織が走り出す。ヴィルフリートの眉がピクリと跳ねたが、既に走り出していた伊織には見えず、その場にいた面々が伊織に向かって心の中で手を合わせた。


ヴィルフリートに言われた通りに走り終え、バテバテになった伊織が修練場の地面に転がる。既に伊織がばてると解り切っていたのか、地面にはシートが敷かれていたが。

伊織が走っている間、適当な騎士を相手に手合せと言う名のしごきをしていたヴィルフリートが伊織のところに歩いてくる。ヴィルフリートが騎士を相手にしながら伊織を気にしていたのは知っているが、いくら伊織がフラフラになって歩いていても決して止める事はなかった。


「明日から、伊織の体力が付くまでは同じ量の運動を毎日する様に。徐々に増やしていくのでそのつもりでいる事だ。」


「…はぁい。」


自分の体力が全然ないのが分かっている伊織は、渋々ながら頷く。それに、人並みに体力が付いた暁には、伊織にも何か武器を使ったりできるようになるかもしれない。


「おっ!嬢ちゃんがここにいるなんて珍しいな。恰好だけは様になってるぞ。」


「ちょうど良い。バルトロメウス、相手に不足していた所だ。」


バルトロメウスが訓練に来たのか、修練場の入り口から入ってきて、へたり込む伊織に目に留める。ヴィルフリートがバルトロメウスの登場に、口の端を吊り上げた。ヴィルフリートが腕を振るうと、先程まで握られていた剣が形状を変える。伊織はゲームで見た事があるその形状に首を傾げた。薙刀に近いが、薙刀よりも刃が長く、柄も短い。長さはヴィルフリートの身長と同じほどある。


(あれ、なんだったっけ…三国志のゲームの…青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)?だったっけ?龍は装飾されてないけど。)


「ちょ、ちょっと待て!先に言っておくが、魔法はなしだぞ!?いいな!」


バルトロメウスも慌てた様に武器を出す。バルトロメウスの武器はトゥーハンドソードと呼ばれる大型のモノで、これもバルトロメウスの身長と同じほどの長さがあるようだ。

周りの騎士達が壁際に寄り、ヴィルフリートとバルトロメウスが修練場の中央に残される。

どちらともなく武器を構え、合図するまでもなく両者の刃がぶつかった。

例の如く、伊織には全くわからないが、とりあえず拮抗しているらしい。動きがはっきり見えているであろう、カルラやクラウディアは固唾を飲んでいるし、周りの騎士達も何も言わずに見守っている。身体強化を使っていない為か、伊織にもちょっとだけ見える。


(応援…した方がいいかなぁ?)


伊織が悩んでる間に勝敗が決まったのか、バルトロメウスが武器を手離している。


「おい!今絶対、魔法使っただろ!身体強化したよな!?顔をこっちに向けろ!」


「気の所為だろう。そろそろ時間だ。」


戻ってきたヴィルフリートの瞳は赤紫になっている。バルトロメウスの言う通り、魔力を使用したようだが、そういうバルトロメウスの瞳も琥珀色になっていた。

まだ疲れて立ちたくはないが、部屋に帰ると聞いて仕方なく立ち上がる。明日は絶対に筋肉痛確定だろう。今夜はアニエッタとフランツィスカに念入りにマッサージして貰う事にして、バルトロメウスを無視して歩き出したヴィルフリートの後に続いた。


「バルト兄さん。じゃあ、またね。」


バルトロメウスに去り際に笑って手を振る。伊織はヴィルフリートの腕に摑まり、体重を掛けてぶら下がる様にして部屋に戻った。摑まる相手をフランツィスカに変え、汗を流しに浴室に行く。夕食の時間が迫っているので、さっと汗を流すだけにしてすぐに着替えた。

慣れてしまえば、先程のズボンスタイルの方が楽かもしれない、と思いながらもドレスに袖を通す。もうドレスを着るのも慣れたもので、大体のドレスは構造が分かる。髪を整え、部屋を出たところでヴィルフリートと出くわす。

ヴィルフリートも汗を流したのか、髪が濡れている。そのまま食堂に向かい、いつも通りに食事を取った。

食堂から部屋に移動する際も抱き上げられる事無く、伊織は自分の足で移動する。それが何となく淋しい気がして、内心苦笑いした。

部屋に着いてからソファに寝そべり、ヴィルフリートの制止も聞かずチョコレートを頬張る。ヴィルフリートは向かいのソファに座って酒を飲むらしい。チョコレートはトリュフの様だが、ガナッシュの中にほろ苦い味とわずかに酒の風味を感じた。気にせずに5つほど食べたところで、ヴィルフリートに瓶ごと取り上げられる。


「疲れた時には、甘いモノって決まってるんだよ?」


「先程、食後の甘味を食べていたではないか。そう甘いモノばかり食べるでない。」


ヴィルフリートが瓶を伊織の手の届かないテーブルの端に置き、立ち上がって伊織を抱き起す。そのままソファに座り、伊織を向かい合わせで座らせた。

ヴィルフリートの指が伊織の顎を滑り、そのまま顎を緩く掴む。


「余は甘味があまり得意ではないのでな。」


ヴィルフリートの瞳が細められ、伊織の唇にヴィルフリートの唇が合わせられる。伊織の口の中に残ったチョコレートの風味が、一層甘くなった気がして、伊織は目を閉じた。


「…続きは、寝台に入ってからとしよう。湯浴みはいいのか?」


ヴィルフリートが唇を離し、伊織の唇を拭う様になぞる。伊織は恥ずかしくなって目を伏せたまま、ヴィルフリートに言われた事を反芻した。内容を認識して顔を赤くしながら立ち上がる。


「お風呂…いってくる」


内心悲鳴を上げながら足早に自室に向かって歩き出す。疲れか、それともキスの余韻か、伊織の足は覚束なく伊織はさらに羞恥を感じながらヴィルフリートの部屋を出た。





次の話はディーゲルマン邸の話かな。

お月様を書こうか、悩んでますけど。

本編優先で、余裕があれば書こうかと(´-ω-`)

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