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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
赤の彼方と金の此方
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あれ、置きっぱなし?

(」・ω・)」(/・ω・)/

おやつを食べてからはゆっくりとお茶の時間を楽しんだ。

料理長(マルクス)は伊織が食べ終えたのを確認してから皿を下げて部屋を出て行ったし、ギルベルトも同じく控えの部屋に戻っていったので、部屋にはヴィルフリートと伊織しかいない。

人目がない為、伊織は体勢を変えてヴィルフリートを背凭れにし、ヴィルフリートの硬くて大きな手で弄んでいる。


「…何をしているのだ」


「ヴィルさん、器用だし…手が硬いのに指綺麗だよね。」


ヴィルフリートは伊織に好きにさせつつ、弄ばれている自分の手に目を細めて伊織に問い掛ける。伊織は自分の手をヴィルフリートの手に合わせたり、掌を揉んだりしながら答える。

ヴィルフリートは自分の手を弄ぶ伊織の手を掴み、それを持ち上げて指先に口付けた。


「突き指や骨折は何度もしたが、すぐに治癒を掛けられていた。それに魔力が多い故、常人より回復が早い。」


「そうなんだ。…硬いのは武器使ってるからでしょ?」


伊織は口付けられた指を微妙に赤くなりながら取り返し、誤魔化す様に問い返す。ヴィルフリートは頷いて、伊織の頬を掌で撫でる。


「硬いか。」


「うぅん。ざらざらとかもしてないし、ちゃんと触らなきゃ硬いかはわかんないよ。」


「そうか。」


「…うん。」


そのまま会話が途切れ、部屋には心地よい沈黙が流れる。伊織はその雰囲気に、ヴィルフリートの胸元に頭を預けて甘えた。ヴィルフリートは伊織の身体に腕を回して目を閉じていて、リラックスしている様に思える。


「…あっ!」


伊織が何か思い出したようにハッと身体を起こし、ヴィルフリートの腕を退けて立ち上がり、寝室に向かって歩き出す。ヴィルフリートもすぐに伊織の後を追いかけた。

伊織は真っ直ぐベッドの脇に置いてあるサイドテーブルに向かい、上に置いてあるはずの箱とブレスレットを探す。サイドテーブルの上には目立つ箱はなく、流れていた筈の音楽も聞こえなくなっている。それがいつから聞こえなかったのかは定かではない。


「…箱が、ない。…僕のブレスレットも…」


伊織が不安気な顔でヴィルフリートを振り返る。

ヴィルフリートが訝しげに眉を寄せていて、伊織は余計に不安を煽られる。


「…朝起きた時から、箱などなかったが…」


「え!?ここに置いておいたんだよ?箱の中にブレスレット入れて…」


もう一度サイドテーブルを振り返ると、そこにはリングが2つと伊織のブレスレット、それに紅い石と錠のモチーフが付いたチョーカーが置かれていた。今までなかったのモノが急に現れた事に驚きを隠せず、ヴィルフリートは目を見開き、伊織は言葉の途中で固まってしまう。


「…今まで、なかったよね?…というか箱どこいったの…」


「恐らく、悪戯心だったのだろうが…」


伊織が恐る恐るブレスレットを手に取る。すると宙からメモが一枚現れ、ヴィルフリートがそれを2本指で挟み取る。


__箱をリングとチョーカーにしてみました。婚礼用に金の石と紅い石を付けたよ。by.神


「…余の知っている神とは、随分違うようだが…」


「僕の知ってる神とは、あんまり違わないよ?」


ヴィルフリートがメモを読み上げるとそのメモは光となって消え、苦笑いの伊織と眉を寄せたヴィルフリートは顔を見合わせる。


「どうせだから、そのチョーカーつけてみれば?」


「装飾品は…いや、伊織のブレスレットと同じ種類の魔道具か。」


伊織がチョーカーを手に取り、ヴィルフリートを座らせてチョーカーを付ける。

不思議とチョーカーは元からついていたように、違和感なく馴染む。伊織も自分のブレスレットを腕に付け、リングの入ったクリスタル製と思わしき箱を持ち上げてヴィルフリートに渡した。


「これ、どうするの?」


「とりあえずは保管だな。婚約を発表する際に交わすか?」


「…婚礼用じゃなかった?」


伊織が首を傾げてヴィルフリートに尋ねると、ヴィルフリートが口元に笑みを浮かべて伊織に尋ね返す。伊織はそれに唇を尖らせた。


「婚約も婚礼も、さほど変わらぬ。」


ヴィルフリートが身を翻して居室に戻る。伊織はその後を追いかけながら、溜め息を吐いた。

まだ国籍すら取得していないのに、ヴィルフリートの中では既に問題は解決しているらしい。

それはそうと、思わぬプレゼントに伊織は口元を緩めてはにかんだ。


「そういえば、兄さんのところに行くんじゃなかったの?」


「…忘れていた。」


「えぇ!?ヴィルさんが忘れるなんて…!」


ヴィルフリートの忘れた、と言う発言に伊織が大げさなほど驚く。ヴィルフリートがそれに目を細め、伊織を抱き上げた。居室のテーブルに置かれていたチェスのルールを手に取り、控えの部屋をノックもなしに開けて中にいるギルベルトの補助の侍従に、簡潔に宰相のところに行くと告げて扉を閉める。

一連の行動があまりにも早かったので、ヴィルフリートが怒ったのかと伊織が顔色を窺う。


「ヴィルさん…怒った?」


「いや、早く行かねば煩い者が執務を終えると思ってな。」


誰の事を言っているのかわからず、伊織が首を傾げる。ヴィルフリートは部屋から出て、ずんずんと外城に向かって歩いて行く。今日は内城から出る事が多い。伊織はまたしてもドキドキしながらヴィルフリートにしがみ付いた。そこで扇を忘れている事に気が付く。


「ヴィルさん。僕、扇忘れた…!」


「…一度戻るか…」


すぐに踵を返し、伊織の部屋まで戻る。控えの部屋にいたフランツィスカに扇を出して貰い、外城に繋がる渡り廊下まで来たところで、ヴィルフリートの足が急に止まった。


「どうしたの?」


「…いや、思い過しの様だ。」


ヴィルフリートが歩き出し、伊織は腑に落ちない感じを覚えながらも頷く。なんとなくだが、伊織も変な感じがした気がした。誰かに見られているような。

外城に入る前に扇を広げて顔を隠す。以前は顔を隠してはいなかったのだが、ヴィルフリートとの婚姻が決まってからは顔を隠す様にと言われるようになった。

そうこうしている内に宰相のいる部屋の前に付いたらしい。扉の前の騎士に挨拶して、騎士が部屋をノックする。中から短い返事が聴こえた。


「余だ。入るぞ。」


返事を聞く前にヴィルフリートが扉を開けて中に入る。中にはブルネットの髪に菫色の瞳の眼鏡をかけた男性が、慌てたようにデスクから立ち上がっていた所だった。ヴィルフリートがそれを手で制し、デスクの前に置かれているソファに座る。


(…傍若無人…)


勿論伊織もヴィルフリートと一緒に座らされている。初対面の兄に挨拶すら挟む隙なく、ヴィルフリートはいっそ清々しいまでに堂々としている。皇帝なのだから当然と言えば当然なのだが。


「陛下。…それに我が妹となったイオリか?」


「はい、お兄様。初めまして、伊織です」


伊織は一生懸命、マナー講座の通り挨拶をする。頭は下げれないので精いっぱい猫を被って微笑んだ。


「会いたかったぞ、イオリ。折角妹となったのに一度も会えずに、兄は随分淋しかった。」


「アロイジウス、本題はそれではない。イオリの国籍の件だ。」


長くなりそうな対面の言葉をヴィルフリートが遮り、本題を切り出す。アロイジウスが眼鏡のブリッジを人差し指の腹で押し上げ、ヴィルフリートに真剣な顔で向き直った。途端に表情も引き締まり、先程までとは打って変わって冷たい印象を受ける。


「我が公爵家の養女となったにも拘らず、国籍がない事ですか。イオリの身分を証明するものがあれば、すぐなのですがね。」


「それがないから許可しろと言っている。」


「いいですよ。」


「お願い、お兄さ…は?」


伊織も頼もうと猫を被って指を組み、小首を傾げて声を出したところで途切れ、思わず素に戻ってしまった。アロイジウスが再び下がってもいない眼鏡のブリッジを押し上げ、微笑む。


「だから、良いと言ったんです。」








やっと出てきた宰相閣下、改め長兄。

そういえば、末弟は小話では出てきたけど本編では出てないね←

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