僕より強いじゃん…
全く話が進まない\(^o^)/
駒を動かしながらルールを説明し、プロモーションやキャスリングなどの特殊なルールも教えてから、1局ゲームする。
先手が有利なのでヴィルフリートが白として、伊織が黒で始めた。
「…チェック。」
「はやっ!ちょ、僕さっき教えたばっかだよね?ね?なんでこんな強いの!?」
「実に理に適ったルールだな。戦略と戦術か。…チェック。」
「あああああっ!もう無理ぃぃ…」
伊織が文句を言いながら動かしたキングは、すぐにヴィルフリートによってチェックを掛けられる。駒を動かして、チェックしているルークを取るが詰んだ事には変わりなく、ルークがなくなった事によってナイトの活路が出来てしまった。
ヴィルフリートがそのナイトを摘み上げ、キングの前に置く。
「チェックメイトだ。」
「…ルール教えただけで十分強いし…と言うか、僕が白でも負けてたんじゃ…」
一般的にチェスの後手はドローに出来れば喜ぶべきと言われている為、ハンデとしては最適だと思ったのだが、逆に伊織がハンデを貰うべきだったのかもしれない。
伊織がぶつぶつと文句を言って、フランツィスカが入れてくれたアイスティーを飲む。茶葉は伊織が街で買って来たもので、桃や苺の様なフルーティーな香りがする伊織がすぐに気に入ったブレンド茶だ。
「ギルベルト、解ったか。」
「はい。すぐにでもルールを書きましょうか?」
「…いや。その前に、一局相手を。…イオリ、こちらに来い。」
「はぁい。」
伊織がアイスティーを片手にヴィルフリートの横に移動している内に、ギルベルトが駒を並べ直す。並べ方も完璧で、伊織が何か言う必要もなかった。
ヴィルフリートが黒、ギルベルトが白の様だ。
ゲームが始まる前に伊織はヴィルフリートに抱き寄せられ、膝の上に乗せられる。
「この方が、落ち着くな。」
「…邪魔だと思うんだけど…」
伊織の主張は無視されて、ゲームが始まる。ヴィルフリートが集中している以上、伊織が下手に動いて邪魔をする訳にもいかず、じっとしてゲームの進行を見ていた。
しばらく見ていたが、ヴィルフリートとギルベルトは何手先まで読んでいるのか分からない。既に伊織の頭の中にははてなが一杯で、首を傾げた。
「チェック。」
「…参りました。」
ギルベルトが負けを認めてゲームが終了する。
ギルベルトが立ち上がって、ヴィルフリートに頭を下げた。
「ルールを纏めて参ります。その後、アロイジウス様のところに行かれるのですか?」
「ああ。引導にはちょうどいいだろう。」
ヴィルフリートの口の端が持ち上がる。やはり伊織の気のせいじゃなく、ヴィルフリートの表情が解りやすくなったかもしれない。これも記憶が戻った事による作用なのだろうか。
ギルベルトが控えの部屋に入っていき、伊織は眠気を感じて小さく欠伸をする。
「…眠いか?」
伊織が欠伸で出てきた涙を拭いていると、ヴィルフリートが伊織に問い掛けた。
「うん…。でももう少しでおやつ…」
伊織の返事にヴィルフリートが苦笑いして、伊織を抱え直す。
ヴィルフリートの心音が伊織に聞こえて来て、伊織は力を抜いて凭れかかった。この音を聞いていると、すごく安心する。伊織が不安になった時にいつも聞いて来た音だ。
「少し、眠るといい。料理長が来たら起こす。」
「うん。…でもこれだと寝にくい…」
伊織はごそごそと身動ぎして、寝やすい体勢を探す。ヴィルフリートは背凭れに凭れかかり、伊織の好きなようにさせる。
「…絶対起こしてね。僕の…おやつ…」
「ああ。分かった。」
伊織がうとうとと目を閉じ、ヴィルフリートの肩口に額を付ける。ヴィルフリートが背中を緩く叩いていると、伊織はそのまま寝息を立てて寝始めた。
部屋にノックの音がして、控えの部屋からギルベルトが入ってくる。頭を下げて、書きあがったルールの描いた冊子をヴィルフリートに渡し、眠る伊織を見て苦笑いした。
「イオリ様がよくお眠りになるのは、魔力の量に体力が追い付いてないんでしょうね。お教えしないのですか?」
「必要ないだろう。…イオリに体力をつけさせるにしても、何をさせるかが問題だ。」
ヴィルフリートは渡された冊子を見て、頷いてギルベルトに渡す。ギルベルトがそれを受け取り、テーブルに置いた。
「もう料理長が来る頃でしょう。お茶をお入れします。」
「ああ。イオリが食べ終わって少ししたら、アロイジウスのところに行く。」
「畏まりました」
ギルベルトが頭を下げ、控えの部屋にワゴンを取りに行く。
ヴィルフリートが伊織の身体を揺すり、起こしに掛かる。伊織はいやいやと小さく首を振って、身体を丸めた。
「イオリ、起きなければ余が食べるぞ。」
「んぅ…僕の…僕の、おやつ…!」
伊織が目を覚ました時に丁度ノックの音がして、控えの部屋からワゴンを押して戻ってきていたギルベルトが扉に向かって開ける。
料理長がワゴンを押しながら満面の笑みで部屋に入って来た。伊織とヴィルフリートの前で一礼し、鼻歌でも歌いそうな機嫌の良さでテーブルに伊織のおやつをセットする。
おやつもおやつで3種類あり、パンケーキにタルトにプティングと実に豪華だ。たっぷりのクリームとフルーツもどっさり乗っていて、寝起きの伊織の顔が輝く。ヴィルフリートは逆にげんなりと眉を寄せていたが。
「…マルクス、何か良い事があったのか?」
「ええ!ありましたとも!陛下とイオリ様が、私の倅の店に行って、皇室御用達を下さったと聞いて!私は嬉しくて仕方がありませんでしたよ!」
「へっ!?あの店、料理長の息子さんのお店だったのっ?」
意外な事実にびっくりしたが、伊織もヴィルフリートもあの店でケーキは食べていないので、伊織は微妙に気まずく思った。
「…それで、倅がイオリ様が倅のケーキを食べれなかった事を気にして、こうして城まで届けに来たんですよ。それを私が盛り付けただけです。」
「じゃあこれ、あの店のケーキ?」
伊織は早速ヴィルフリートの膝から降り、ナイフとフォークを手に皿に向き直る。ギルベルトが脇にアイスティーを置いたのを皮切りに、伊織がパンケーキにナイフを入れる。
クリームとフルーツをたっぷり乗せたのを口に入れた所で、ヴィルフリートの前にもコーヒーと伊織のよく知るチョコレートが置かれた。
「…余はいらぬぞ…。」
伊織の所から漂う甘ったるそうな匂いにヴィルフリートの眉が余計に寄る。
「いえ、そんなに甘くないのですよ。中に酒が入っています。」
ヴィルフリートが訝しげにチョコレートを一つ摘まみ上げて、口に放り込む。一度噛んで目を細め、とろりと溶ける感覚を楽しむように唇を舐めた。伊織はそれをドキドキしながらちらちらと横目で見て、内心悲鳴を上げる。
(…ヴィルさん、えろいっ!…えろいって!)
ヴィルフリートはチョコレートを気に入ったようで、もう一つ口に含んでコーヒーを飲んだ。
伊織も気になって、横から声を掛けて一つ貰う。ヴィルフリートが止める前に伊織はチョコレートを口に入れ、その苦味に慌ててパンケーキを口に入れた。使われている酒も強いらしく、胃のあたりが熱くなる。甘みはほのかにあるが、それより苦みが強い。
「イオリ様には苦すぎるでしょう。イオリ様の茶請け用のチョコラはこっちですよ。」
料理長が苦笑いして、ガラスの瓶に入ったチョコレートが目の前に置かれる。中身はヴィルフリートが食べているような黒味が濃いモノでなく、もっと茶色い。
伊織はアイスティーで口直しをして、甘いパンケーキを食べる。チョコレートを気にしながら、おやつを食べ上げた。
「気に入って頂けたようですね。倅にも言っておきましょう。これで、ちゃんとした皇室御用達ですね。来週から週に一度は届けると言っておりましたので。」
「ホントっ?じゃあ、街に行かなくても食べれるんだ」
伊織が手を合わせて喜び、にこにことアイスティーを飲む。ヴィルフリートは喜ぶ伊織を横目で見て、溜め息を吐いた。
ヴィルフリートさんが食べているチョコレートはカカオ70%くらいのやつです(; ・`д・´)
あれ苦いですよねぇ←
伊織ちゃんのチョコレートはもちろんミルクチョコレート。




