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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
赤の彼方と金の此方
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真面目な話?

伊織ちゃんhshsprpr←


伊織が俯いて耳を塞いですぐに、どうやら会話は終わったらしい。ヴィルフリートに背中を叩かれて顔を上げると、ライヒアルトとニコラウスが申し訳なさそうに伊織を見ていた。


「女性の前でする話ではなかったですの。陛下が平然とされているので、気が回らなかったですわい。」


「その話は、後で聞く。」


とりあえずもうこれ以上羞恥にさらされる事がないと知り、伊織はホッと肩の力を抜く。ニコラウスが悔しそうにヴィルフリートを睨んでいるが、ヴィルフリートは依然無視だ。

ライヒアルトが気を取り直す様にギルベルトが入れたお茶を飲む。一口飲んで一度止まり、もう一口飲んでヴィルフリートを見た。


「これはうまいですな。苦味がいい。何という銘柄ですかな?」


「シリバリスの名産のカフィと言う飲み物だそうだ。」


ヴィルフリートとライヒアルトが無糖のコーヒーを飲んでいる横で、伊織とニコラウスにはミルクと砂糖たっぷりのアイスカフェオレが置かれる。ニコラウスも甘党らしいが、見た事のない飲み物に躊躇している様だ。


「カフェオレだ。ヴィルさん、僕がどうやって飲むって言ってたか覚えてたんだ?」


「ああ。それなら飲めるのだろう。」


伊織は頷いてカフェオレに手を伸ばす。伊織がカフェオレを飲んでいるのを見て、ニコラウスも恐る恐る口にした。


「…確かに、これはうまいな!」


ニコラウスの顔が輝き、ぐびぐびとグラスを傾ける。ライヒアルトは苦笑いして、カップをテーブルに置いた。


「さて、今日来たのはイオリ様の披露目についてですぞ。」


「イオリは元々国籍がない。どうするつもりなんだ?イオリはこのような魔道具、見た事ないだろう?」


ニコラウスが薄くて金属で出来たカードの様なモノを出す。伊織はそれを見て、首を振った。確かに一度も見た事ない。


「…なければ作れば良かろう。」


「貴族の届け出は出生から半年以内にするのが義務ですぞ。」


「特例だと、其方も理解しているだろう?」


「だが、公爵家の(しょう)となるとなぁ…」


ニコラウスが腕を組んで唸る。真面目な話の為か、いつもの様なふざけた様子が微塵もない。伊織はニコラウスが真面目なところは初めて見たので、何となく見直してしまった。


「どうせ、余の妃となれば、証も作り直しだろう。」


「…なんで?」


わざわざ作ってすぐに作り直しとか勿体な過ぎる。

伊織が疑問に思って首を傾げる。


「身分によって、証に付ける石の色が変わるからなぁ。」


「皇族が赤、公爵が蒼、侯爵が翠、伯爵が黄、子爵が薄翠、男爵が薄水、その他市民は透明の石ですのぅ。」


「証自体も素材が変わる。皇族は白金、公は金、侯と伯は銀、子と男は銅、それ以外が鉄だ。」


どうやら明確に分かれているらしく、ニコラウス、ライヒアルト、ヴィルフリートの順に説明してくれる。

問題は伊織のカードをどうやって作るか、らしい。


「基本的に他国の人間は、我が国の者と婚姻する他は難民でもない限りはこの証は発行しないのです。他国は他国で各々の身分を証明するモノがありますからのぅ。」


「全くの0からだと、手配がめんどくさいって話だな。ましてや公爵。果ては皇族。宰相が許可するかが問題だな。」


「…宰相、なんていたんだ…?」


初耳の事ばかりで早くも置いてけぼり気味なのに、今度は初めて聞く役職まで飛び出してきた。

伊織は頭が痛くなってきたように感じて眉を寄せる。


「宰相どころか、大臣もいるんだけどな。ついでに騎士団を統括する総帥はヴィル坊だ。イオリは箱入りだからな。俺ですら最近まで会わせなかったくらいだ。会った事ある訳ないよな~」


「イオリは政治には関係ない。会わす必要性を感じなかっただけの事。」


「ですが、妃になるとそうも言ってはいられないですのでな。これからは覚える事も多いと思いますぞ。」


学校の宿題より、料理や裁縫が好きだった伊織は当然ながら勉強は得意じゃない。今までやった、家庭教師の先生による勉強ですらあまりよく理解していないのに、これ以上覚える事が増えると確実に混乱する事が目に見えている。

そんな事より、何か聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。


「…ヴィルさんが、何って?」


「ヴィル坊は総帥ってやつか?」


「…総帥って…皇帝じゃないの?」


ヴィルフリートを仰ぎ見るが、本人は平然とコーヒーを飲んでいるし、伊織の頭はもうパンク寸前だ。


「ヴィル坊が一番強いからなぁ。この国じゃ、代々総帥は国で一番強い奴がなるんだよ。年に1回、武闘会があってな。」


「…それで、ヴィルさんが総帥…」


自分はとんでもない人と結婚するらしい。伊織は痛む頭を押さえて、ヴィルフリートに凭れかかる。ニコラウスから変な声が聞こえたが、伊織はそれどころではない。

ヴィルフリートのスペックの高さに驚くと同時に、どうすればこんな人が生まれるかが本気で不思議だった。


「仕事が増えて面倒だ。今年は手を抜く。」


「宣言するものじゃないですぞ。…それより、きちんと宰相殿にイオリ様を会わさねば。」


ライヒアルトが再び話を戻し、ヴィルフリートの眉間に皺が寄る。


「…アロイジウスはお前の息子だろう。何とかしろ。」


「お前がアロイスにイオリを会わせないから、完全に拗ねてる。それにヴィル坊が知ってるように、アロイスは公私混同はしないからな。だからこそ、宰相になったんだろ?」


ニコラウスが意地悪くニヤニヤ笑って、ヴィルフリートを見る。ヴィルフリートの眉が跳ね、ニコラウスを鋭い視線で睨んだ。

どうやら宰相は伊織の兄らしい。


「イオリが邸に遊びに来て、アロイスに直接お願いしたらもしかしたら、あの仕事に対しては冷血漢の男も如何にかしてくれるかもしれんぞ~?と言う訳で、イオリの邸の滞在期間を日帰りから1泊2日にしろ!」


「…アロイジウスが、イオリがいるというだけで邸に帰るとは思えぬが。」


「…僕、邸に行くの?」


またもや初耳な事に、伊織は躊躇いがちにおずおずと問い掛ける。ヴィルフリートは渋々頷き、ニコラウスは満面の笑みで頷いていて、対比が凄い。


「約束は約束。仕方あるまい。…次の日の昼前には迎えを寄越す。」


「よし!じゃあ、明日の朝に邸に帰ろうな。」


伊織の(あずか)り知らぬところで、どんどん話は進められていく。ニコラウスが相好を崩して、デレッとした顔で言った言葉に、何も言い出せなくなって頷いた。

コーヒーは飲み終わり、伊織の身分証はとりあえず保留と言う事になった。

ニコラウスとライヒアルトが席を立ち、適当な挨拶をして部屋を出ていく。ニコラウスは来た時とは打って変わって上機嫌で去って行った。ライヒアルトはそんなニコラウスの後を疲れた様子で続く。


「…僕、なんか疲れたかも…」


時間にして1時間程度の事だったのに、濃密すぎて途轍もなく長く感じた。

ウルリヒもニコラウスもライヒアルトも、それぞれに個性が強すぎる。


「…あと2刻もすれば昼だが、何かしたい事はあるか?」


「うぅん。…あ、トランプする?」


「…トランプ?」


ヴィルフリートが訝しげに伊織に問い掛ける。伊織は笑って頷き、フランツィスカに持って来てくれるようお願いした。


「工房に作ってもらったんだ。色んなゲームができる薄いカードでね。1から13まで数字が書いてあって、それが4種類。それからジョーカーっていうのが2枚あるんだけど…。実際にやってみた方が早いかも?」


「ほう。」


フランツィスカが戻ってくるまで、トランプに関して簡単に説明する。フランツィスカはすぐに戻ってきて、伊織にトランプを手渡した。

伊織はヴィルフリートの膝から降り、隣に座る。


「一番簡単なの…神経衰弱でいっか。ギルベルトさんとフランも一緒にしよ?」


2人に座るように促し、カードをシャッフルする。それをテーブルの上に並べて、ヴィルフリートを振り返った。


「同じ絵柄のやつを2枚合わせて、1組できあがりで、出来上がった組数を競うゲームだよ。」


「ふむ。ではやってみるか。」


公平にコインで順番を決め、その順番通りにカードを開いて行く。何ゲームか続けて遊ぶが、結局ヴィルフリートの圧勝だった。

他にもフルハウスやブラックジャック、7カードと続け様にする。運が必要なものは伊織とフランツィスカが強いが、暗記や心理、頭脳戦はヴィルフリートとギルベルトに軍配が上がった。

そうしている内に、昼食の時間になって、ゲームを止める。


「たまにはいいかもしれぬな。他のゲームはないのか?」


「えっとね、いろいろあるよ?将棋、チェス、囲碁、オセロ…とかかなぁ。あ、将棋とチェスは戦略のゲームだったかな。」


「ほう?…ルールは解るのか?」


「うん。囲碁は解んないけど、将棋とチェスは知ってるよ?…下手だけど…」


ヴィルフリートの口元が上がり、何かを思いついたように目が細められる。伊織は何か変な事を言ったのかと口を押さえたが、そうではないらしい。


「良い事を思いついた。」


ヴィルフリートさんが何か思いついたようですぞ。

展開が読めそうだけど(´・ω・`)

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