これ何て羞恥プレイ?
ふおおお。
ヴィルフリートの返事を聞いて、伊織が肩を落とす。言われた通りに行動するつもりではあったが、まさか自由時間が全くないとは思ってなかった。
「それってもしかして、ずっと座ってなきゃいけない…?」
「ああ。余と並んで座る。イオリの披露目と同時に、余との婚約を発表する場でもある。」
伊織が遠い目をして、ヴィルフリートから視線を逸らす。
もうどう頑張っても逃げられない。ギルベルトの事だから招待状の手配などもほとんど終わっているだろう。今からでも逃げれるだろうか。
(…絶対、無理…!)
伊織がちらっとヴィルフリートを見ると、ヴィルフリートはしっかりと伊織の腰を抱く。伊織が何を考えているか、分からないはずなのに本能的に感じているのか、それとも別に何かあるのか。
(…エスパー…)
「イオリは、自分が分かりやすいとは思わぬのだな。」
「どういう事?」
微妙に笑いの籠った声で言われて、伊織は首を傾げる。伊織は自分が分かりやすい自覚なんてない。
ギルベルトとフランツィスカを振り返っても、2人とも微笑を浮かべているだけで伊織の疑問には答えてくれそうになかった。
「仕立屋さんっていつ来るの?」
「既に遣いは出しましたので、早ければ1刻もすればいらっしゃると思います。」
「…僕、あの仕立屋さん…苦手…」
伊織が渋い顔をして溜め息を吐く。ギルベルトとフランツィスカは苦笑いを浮かべているし、ヴィルフリートも思い当たる節があるのか、伊織に同意して頷く。
その仕立屋と言うのが…
「失礼致しますわぁぁ」
扉の向こうからノックの音に負けない野太い声が響く。ギルベルトが扉を開けに行き、中にその人物を促す。
入って来た人物は体格のいい、所謂オネエと言われる人だ。
仕立屋はウルリヒ・ティルリッツと言う名前で、これでも男爵だ。髪は会うたびに色が違うし、服装こそ普通のドレスだが、着る人物は結構な体格の男だ。
「随分早かったですね。まだ遣いを出してから1刻しか経っておりませんが。」
「んふふ。馬を~飛ばしてきたのぉ~。あら陛下、ご機嫌麗しゅう?今日も素敵ですわね」
語尾にハートマークを付けて、ウルリヒがヴィルフリートに向かってぱちりとウインクを飛ばす。ヴィルフリートはそれを見て顔を背けた。
伊織は寒気を感じて、身体を震わせる。ウルリヒの視線が伊織に向けられ、胸の前で指を組んで身体をくねくねと曲げた。
「んふふふふ、イオリ様。今日もとっても可愛らしいわぁ~。ばっちりなドレス、作ってあげますわねぇ」
伊織のウルリヒが苦手な理由はこれだ。とっても変わった人なので、どう接していいのかわからないのだ。
伊織はウルリヒに無言で頷き、困った顔でギルベルトに助けを求める。
「本日は陛下とイオリ様の盛装を作って頂きたいのですよ。イオリ様のお披露目を兼ねた舞踏会を2か月後に開きます。」
「あら、腕が鳴るわぁ」
ウルリヒの興味がギルベルトに移り、伊織はホッと胸を撫で下ろす。
ヴィルフリートに背中を撫でられて視線を向けると、ヴィルフリートが苦笑いを浮かべていた。
(…あれ?…気のせいかな?)
ヴィルフリートの表情が前より豊かになっている気がして、伊織が首を傾げる。
伊織がヴィルフリートをまじまじと見ていると、ギルベルトの咳払いが聞こえた。
「…色は、陛下が黒と金。イオリ様は黒と赤です。」
「あら、魔力が金色だなんて珍しいですわねぇ。陛下の赤も珍しいけどぉ」
そこに丁度、ノックの音が響く。フランツィスカが扉を開けると、ウルリヒの助手が大きなカバンを持って入って来た。
ウルリヒは早速鞄を開けると、ノートとペンを取り出してさらさらと何かを書き始める。
「ん~、陛下はいつも通りでしょう?イオリ様のドレスを華やかにしようかしらねぇ~」
そう時間の経たない内に1枚描きあがり、それがテーブルに置かれる。描かれたドレスは伊織がいつも好んで着ているシンプルなモノとは違い、フリルやレースをふんだんに使ってある。
続けてさらさらとそれの他に4枚ほど描き上げて、テーブルの上に並べられた。
「あら、今日はあの侍女のお嬢さんいないのね。じゃあ、これは預けておくから、決まったら店に連絡頂戴ね。出来ればサイズも図って置いて頂戴。」
「はい。ご苦労様です。」
ウルリヒはそのまま颯爽と助手を連れて帰っていく。ギルベルトが扉を開け、頭を下げて見送る。来るのも早ければ、帰るのも早く、伊織は唖然としてウルリヒの後ろ姿を眺めた。
ギルベルトが扉を閉めようとした時、ニコラウスとライヒアルトが部屋に乗り込んで来る。伊織がヴィルフリートの膝の上に座っているのを見て、ニコラウスの眦が釣り上がった。
「ヴィル坊ぉぉぉ!何イオリを膝の上に乗せてるんだ!羨まし…じゃなく、けしからん!!」
「ニコラ…説得力の欠片もないぞ…。それに、その事で来た訳ではないだろう。」
ライヒアルトが溜め息をついてニコラウスを窘める。
「…まずは、ご快復お慶び申し上げます。ですが、それとこれとは話が別です。話に聞くところ、イオリ様と陛下は寝所を共にしているそうですが…」
「…それがなんだ。」
ヴィルフリートが眉を寄せてライヒアルトとニコラウスに視線を向ける。
ヴィルフリートが膝から降りようとする伊織を押さえて、ニコラウスとライヒアルトをソファに座るように促す。
「それで?何が言いたい。」
「婚前ですので、先にお子が出来ては外聞によくないですのぅ。」
ライヒアルトのストレートな物言いに、ヴィルフリートの眉が跳ねる。
伊織が口を出せる雰囲気ではなく、なるべく存在感がなくなる様に小さくなって口を閉ざした。
「以前は、誰でもいいからすぐにでも子供を作れ、と言っていたように思ったが。」
「ヴィ、ヴィル坊…まさか…!」
ニコラウスがショックを受けた様に伊織を見て、がっくりと項垂れる。伊織には意味が解らないが、何となく悪い気がして項垂れたニコラウスを困った顔で見た。何故か途轍もなく、親不孝をした気分だ。
困った顔の伊織に、ニコラウスが顔を輝かせる。何やら、勝手に納得したらしい。
「まだなら、まだ間に合うな!ヴィル坊、イオリは連れて帰るぞ!」
「何を勘違いしているかは知らんが、イオリはすでに余のモノだぞ。」
「ヴィィィィルゥゥゥゥ!!」
ヴィルフリートの言葉で伊織も何の事かやっと思い当り、顔を真っ赤にして居た堪れなくなって俯いた。
ニコラウスは頭を抱えて何やら絶叫していて、ライヒアルトが必死で宥めている。ヴィルフリートは我関せずと言う様に、伊織の赤くなった顔を覗き込んでいるし、混沌としているとしか言いようがない。
ライヒアルトが盛大な溜め息を吐いて、ニコラウスの頭を叩く。
「…とりあえず、披露目までは寝所を共にするのはお控え下され。」
「ですが、陛下とイオリ様がご一緒にお休みになられるのは、イオリ様の安定もあるのです。」
「見ず知らずな土地で不安定なイオリ様を支えたのは陛下です。」
フランツィスカとギルベルトからフォローされ、伊織はますます居た堪れない。
(…穴があったら、入りたい…)
今すぐヴィルフリートの膝の上から飛び降り、自分の部屋に帰りたい気持ちを押し殺して、ひたすら小さくなって気配を殺す。ヴィルフリートから顔を隠しつつ、小さく溜め息を吐いた。
「…百歩譲って、寝所を共にするのは仕方ないやも知れぬが…婚前交渉はお止めなされ。」
「確約は出来ぬな。」
「ヴィル坊ぅぅっ!仮にも、伊織の父の前だぞ!将来は義父だぞ!?」
「其方より、余の方が偉い。」
余りにも開けっ広げの会話について行けず、伊織は耳を塞ぐ。羞恥に顔は赤く涙目になって、一刻も早くこの会話が終わる事を切に願った。
暴走気味の後見人'sと不憫ないおりん(*ノェノ)
ニコラウスさんのキャラが最近迷子になってきた気がしなくもない←
そういえば、昨日プロポーズの日だったらしいですね。
ヴィルフリートさんにプロポーズしてもらおうかと思いましたが、そこまでたどり着きませんでした(((((゜д゜; )))))




