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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
赤の彼方と金の此方
70/94

また一波乱ありそうな気がする…

しくじりました←

ちょっとうまく切れない&話が繋がらないので、今回から5章に入ります。

混乱させてしまって申し訳ない(((((゜д゜; )))))

「…目が腫れているな。」


ヴィルフリートが伊織の目元を優しく撫でる。伊織は泣いていた事が恥ずかしくなって、ヴィルフリートから視線を逸らした。

入浴後に薬を塗ってもらって冷やしたが、また泣いた所為で効果がなかったらしい。このままでは明日戻ってくるアニエッタが悲鳴を上げるかもしれない。

ヴィルフリートが伊織から離れ、ベッドから立ち上がる。伊織が不思議に思って見ていると、ベッドの下のナイフを拾い上げて扉に向かった。


「…ヴィルさん、どうしたの?」


「いや、不寝番とはらしくないと思ってな。…なぁ、ニコラウス。」


ヴィルフリートによって扉が開かれ、扉に寄り掛かって座っていたニコラウスが後ろに倒れ込む。多少、後頭部をぶつけた様で、柔らかいカーペットが敷いてあるにも拘らず鈍い音がした。ヴィルフリートの手にあったナイフがそのまま下に落とされる。真っ直ぐに落下したナイフはニコラウスの頭上すれすれに落ちて、突き刺さった。


「おいおいおいおい!殺す気か!」


「死ななかったではないか。運が良いな。」


「ヴィ、ヴィルさん!危ないよ!!」


伊織が慌ててベッドから降り、ニコラウスの頭上のナイフを抜こうとする。ナイフは思いの外、深く刺さっているようで伊織の力では到底抜けなかった。カーペットの下は石の床なのに、ただのナイフを落としただけでどうやってここまで深く刺さるのか。

伊織の奮闘も虚しく、ナイフはヴィルフリートによってあっさりと抜かれる。


「おい、ヴィル坊!お前、ナイフ落とす前に魔力込めてんじゃねえよ!」


「余の眠る周りで、下らぬ事を言っているからだ。」


伊織の何故床に刺さったのかと言う疑問はあっさりと解決し、さらに次の疑問が頭に浮かぶ。


「…ヴィルさん、眠ってる時の記憶があるの?」


「いや、経験とニコラウスの思考に基づいた勘だ。伊織の反応を見る限り、間違っておらぬだろう?大方、ライヒアルトも同じ様にふざけていたのだろう。」


(…やっぱり、ヴィルさんって…エスパー…?)


見てきたかのようにぴたりと言い当てられ、ニコラウスが唸る。ヴィルフリートが溜め息を吐き、ずっと様子を見ていたギルベルトに視線を向けた。


「苦労を掛けた。…医者には何ともないと言っておけ。」


「畏まりました。」


「ヴィル坊、話は終わってないぞ!イオリは婚前だ、連れて行くんじゃない!」


ヴィルフリートが寝室の扉を閉めようとしたところで、ニコラウスが扉を押さえる。2人とも結構な力を入れているようで、扉が軋んだ音を上げた。

伊織は扉が壊れるんじゃないかとハラハラしながら見守る。


「イオリが余と共に就寝する事を、他でもないイオリが認めている事だ。ニコラウス、其方にとやかく言われる筋合いなど無い。」


「婚前交渉は認めんぞ!俺もライトも認めんぞおおおぉぉぉ!」


扉の軋む音が大きくなり、見かねたギルベルトがニコラウスの首筋に手刀を当てる。ニコラウスが気絶して力が抜け、ヴィルフリートの結構な力で押していた扉が急激に閉まる。扉の向こう側からガコンッと言う激しい音が聞こえ、その後部屋を静寂が満たす。


「…まぁ死んではないだろう。明日の朝までは起きないだろうが。」


(…パパ、大丈夫かなぁ…)


伊織は心配しながらも、ヴィルフリートに促されるままベッドに戻る。何だか、稀に見る忙しさだった。立て続けに色んな事がありすぎて、ベッドに入ってすぐに眠気が訪れる。

伊織がうとうとしていると、ヴィルフリートが伊織の額に口付ける。


「明日、イオリの披露目の手配をせねばな。」


「…おひろ、め?」


「ああ。…明日も忙しくなる。ゆっくり眠るが良い。」


「…うん…。」


背中を緩く叩かれて、イオリはすぐに夢の世界の住人になった。




----------------------------------------------------------------




「…イオリ、もう朝だ。」


「…は、ぁい。起きる、よ…」


顔に掛かった髪を払われ、肩を軽く揺すられる。伊織は目を擦りながらむくりと起き上がり、小さく欠伸をした。

ヴィルフリートの方を向き、頭を下げる。


「…おはよぅございます。」


「…寝惚けているな。」


顎を掴まれ、殆ど開いてなかった目がぱちりと開く。至近距離にヴィルフリートの顔があって、伊織は変な声を上げた。


「ヴィ、ヴィ、ヴィヴィルさん…起きた、起きたから!」


朝から心臓に悪い。伊織はドキドキする胸を押さえて、ギュッと目を閉じる。唇の横に軽く口付けられ、すぐに顎の手は離された。

ヴィルフリートの喉で笑う声が聞こえ、伊織の顔が赤くなる。


「…ひどい。普通に起してくれればいいのに。」


文句を言う伊織に、ヴィルフリートが水の入ったコップを差し出す。いつもと変わらない行動に、昨日の事が嘘の様に思えた。

そういえば、あれは初代皇帝だったはずだ。ヴィルフリートは前世の記憶を全部思い出したのだろうか。


「ねえ、ヴィルさん。昨日ね、ヴィルさんっぽくなかったけど…」


「…あぁ、記憶が混濁した。イオリを思い出すまで時間が掛かって、悪かった。」


コップを受け取って水を飲みながら、疑問に思ったまま問い掛ける。ヴィルフリートからはあっさり答えが返ってきて、伊織は拍子抜けした。


「心配せずとも、余は余だ。」


ヴィルフリートが伊織からコップを取り、サイドテーブルに置く。直後に扉が思い切り開かれ、ニコラウスが入って来た。ヴィルフリートはニコラウスを一瞥して溜め息を吐く。


「何の用だ。まだ着替えも終わってないぞ。」


「ヴィル坊め!昨夜はよくも俺に思い切り扉をぶつけてくれたな!見ろ、このコブ!!」


ニコラウスの額は赤くなって腫れており、見るからに痛そうだ。

伊織が顔を顰めるが、ヴィルフリートは飄々と聞き流している。そこにライヒアルトも入ってきて、ニコラウスを引き摺って行った。


「まだイオリ様の着替えが終わってなかろうに。後にするのだ。」


「ライト!引きずるんじゃねぇ!!イオリ!イオリぃぃぃぃぃぃぃ!!」


(…元気だなぁ…)


入れ違いでギルベルトとフランツィスカ、エリーゼが入ってくる。

いつもの通り着替えて、朝食に行く。何もかもいつもと変わりがなく、伊織は不思議に思う。神の山から戻って来たばかりだし、昨日もいつもとは全く違ったのに、いつも通りと思えるのは伊織がこの世界に溶け込んでいる証拠なのか。

食事を終えて、ヴィルフリートの居室のソファに座っていると、ヴィルフリートがギルベルトとフランツィスカを呼んだ。


「さて、仕立屋を呼ぶ。イオリの盛装を作らねばな。期間もそうない。」


「作らなくてもいっぱいあるよ?」


伊織が首を傾げて問い掛けると、ヴィルフリートの顔が横に振られる。

どうやら何か違うらしく、フランツィスカも思いっきり顔を振っていた。


「色を合わせねば。イオリは黒と赤。余は黒と金だ。…お互いの魔力の色と髪の色を使う。」


「そんな決まりがあるんだ。」


「それだけでは御座いません。当日赤を身に着けられるのはイオリ様と各国の王のみ。礼儀として、他の方は身に着けるべきではないのですよ。たとえ、一国の王女であっても。」


伊織が感心していると、ギルベルトから追加で説明が加えられる。後半の言葉はあからさまな棘が含まれていて、誰の事を言っているのかは誰でも解るだろう。


「…陛下が即位されてからの過去の舞踏会、2度とも赤いドレスで来ましたからねぇ…。」


フランツィスカが呆れた様な口調で、伊織に教えてくれる。伊織はギルベルトがこんなに刺々しい理由に納得して、そしてそれを知ってるフランツィスカに向かって首を傾げた。


「フランも舞踏会出席してたの?」


「貴族、及びそれに連なる者は余程の理由がない限り、出席するのが普通なのでな。」


「へぇ!じゃぁ、僕も気が楽そう!」


伊織が手を叩いて喜んでいると、頭上でヴィルフリートが溜め息を吐いた。

ギルベルトも小難しい顔をしていて、伊織はヴィルフリートを仰ぎ見る。


「…イオリは余と最初の1曲踊りを踊り、その後は挨拶をして来る者の相手だな。」


「…見て回ったりとかは?」


「出来ん。」





舞踏会編!

伊織ちゃんのダンスレッスンとか、話し方の矯正とか…書けたらいいなぁ(希望

どうでもいいけど、ヴィルフリートさんが平然としすぎていて困る←

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