ちゃんとデートしてます?
デート!デート!!
「どれくらい食べる?」
「拙者、随分魔力を使ったのでな。5人前ほど頼む!」
食堂に移動して食事を注文する。
食堂はギルド長が教えてくれた猫の足音亭と言うところで、やはり2階から上が宿屋になっていた。ギルド長がおいしいと言っていた通り、食堂内は人が多くてあちこちで冒険者らしき人が食事をしている。
ウエイトレスの女の子が注文を取りに来て、ヴィルフリートに見惚れていて、伊織は心の中でムッとしながら乱吹に問い掛けた。
「注文を伺います」
「適当に20人前くらいお願い。飲み物は…僕はお酒じゃないのがいいなぁ。果汁をお願い。…2人は?」
伊織が2人を問い掛ける為に見ると、乱吹が驚いた顔をしている。何かあったのかと伊織が首を傾げる。
「いや、よく食うのだな!…そうだな、拙者は麦酒にしてくれ!」
「では、同じものを。」
乱吹が笑いながら注文して、ヴィルフリートもウエイトレスの女の子に告げる。ウエイトレスの女の子は再びぽうっとして、そしてすぐ頭を下げて下がっていった。その際、伊織の姿をちらりと見て。
(なにあれぇ~!いくらなんでも、あからさますぎるよ!)
伊織が内心憤慨していると、すぐに飲み物が運ばれてくる。
運んできたのは先程の女の子じゃなく、背が高くて筋肉質のおじさんだった。おじさんの耳には垂れた犬耳がある。
獣人を初めて見た伊織は、思わずガン見してしまう。
「お嬢さん、すまんね。あの子は男前に目がなくてなぁ。」
「…いえ、気にしてません。…こっちこそごめんなさい、じろじろ見て…。」
男性に声を掛けられ、ハッとして慌てて謝った。おじさんは気にしていない様に笑って、軽くつまめる様な料理をテーブルに置く。
「獣人は初めて見たのかな?…獣人より珍しい、鬼人と一緒の様だけど。」
「こりゃ一本取られた!確かに拙者の方が珍しいな!」
乱吹が思わずといったように笑い、伊織もそれにつられて笑った。
ウエイトレスの女の子が料理を持ってきて、獣人の男性に向かって頬を膨らませた。
「ちょっと、マスター?働いて下さいよ!ここは私が十分にサービスしますのでっ」
ウエイトレスの女の子がヴィルフリートを見て、サービスと言った部分でウインクした。ヴィルフリートは女の子に目もくれないで麦酒を飲んでいて、伊織はほっと胸を撫で下す。別の客から呼ばれ、女の子が口を尖らせてそちらに行く。
マスターが申し訳なさそうに苦笑いした。
「悪い子じゃないんだけどねぇ。自分の欲求に正直すぎるのが玉に瑕なんだよ。」
「…視線が煩わしい。」
ヴィルフリートが眉を顰めてポツリと呟き、おもむろに隣に座る伊織の肩を抱き寄せる。その瞬間、伊織に多数の視線が集まった気がして、ぞくりと背中を震わせた。
「…確かに、視線が痛い…」
「拙者も視線を感じるな!珍しいとよく見られるのでもう慣れたが!」
乱吹が豪快に笑って場が和む。先程からこの男の笑い声に和ませてもらっている気がして、伊織は心の中でお礼を言った。
獣人の男性が厨房に戻っていき、入れ替わりで女の子が料理を運んでくる。伊織が先に来た料理を食べていると、ぶすっとした顔の女の子に睨まれた。
(うへー…。僕、何もしてないじゃん?)
ヴィルフリートが伊織を女の子の視線から遮る様に、空いた皿を女の子に差し出す。女の子は反射的にそれを受け取って、ぷりぷりしながら戻っていく。
「…確かに料理はうまいが、また来ようとは思わんな。」
「色男は大変だな。拙者とは無縁な話だ!」
その後、寄せられる視線を悉く無視して、適当な会話をしながら食事を終えた。
食べ終わった時には伊織は疲れ切って、早く食堂から出たくて仕方がなく、獣人の男性に挨拶もそこそこに先に食堂から出る。
「…疲れた…」
「そんな疲れてるなら、俺等と休憩にお茶でもしない?」
壁に背中を預けて寄りかかり、俯いていると急に声を掛けられた。伊織が顔を上げると、冒険者らしき男性が2人いて、2人ともそこそこ顔がいい。もちろんヴィルフリートほどではないが、きっとモテるのだろう。
「結構です。連れがいるので。」
「そんなこと言わずに。もしよかったら、その一緒の子も…」
「ほう?…それはいい。」
「あ、ヴィルさん。」
伊織の腕を引いて抱き寄せ、ヴィルフリートが横から声を掛ける。2人は顔を蒼くして、何事かを謝りながら走って逃げていった。乱吹が食堂から出て来て、笑っている。
「2人がいると暇になりそうにないな!それより、馳走になった!」
「いい。それより、ギルドに戻るのだろう。ギルド長に適当に挨拶して置いてくれ。」
「縁があれば、また会う事もあるだろう!達者でな!」
乱吹とその場で別れ、ヴィルフリートが伊織の肩を抱いて踵を返す。
広場に向かう大きな通りに入り、伊織がヴィルフリートの服を引く。
「ヴィルさん、可愛い雑貨のお店があるらしいんだけど…」
「どこにあるか、聞いて来たか?」
「貴族街に行く途中らしいんだけど、解る?」
伊織の説明でヴィルフリートが路地を曲がり、店先の商品を見たりしながら目的の雑貨店に向かう。雑貨店に着いた時には、手に紙袋が2つ増えていた。
「むー。持ち手がないから持つの困る。」
「…イオリの世界では、紙袋には持ち手が付いているモノなのか?」
「基本的についてるよ。結構頑丈だから、繰り返し使えるし。…戻ったらどんなのか説明する?」
伊織の提案にヴィルフリートが頷き、雑貨の店に入る。中はいかにも女の子向けなファンシーな造りになっており、ヴィルフリートが嫌でも目立つ。
ヴィルフリートは他の客にちらちらと見られながらも我関せずと言ったように、伊織の買い物に付き合ってくれた。
「ねね、こっちとこっち、どっちがいいかな?」
「両方買えば良かろう。」
「お土産だから、片方でいいの!…こっちにしよ。」
これはアニエッタ、これはフランツィスカ、と次々に雑貨を手に取る。伊織も自分用にあみぐるみ用の糸やレースを購入した。雑貨店を出る頃には紙袋が4つになっていて、両手が塞がってしまう。
ヴィルフリートがさり気なく物陰に近付き、物陰にいた人物に紙袋をすべて預けた。よく見るとギルベルトの補佐の侍従で、伊織とヴィルフリートに頭を下げる。
「ねぇ、ヴィルさん。あの人、ギルベルトさんの補佐の人だよね。付いて来てたの?」
「ギルベルトが気を回したのだろう。ギルベルトの予想通り、荷物が多かったな。」
侍従は伊織達がその場を離れた後に馬に荷物を付けて、城に戻っていった。
伊織とヴィルフリートも身軽になったので、そのままアーデルハイトおすすめのお菓子の店に行く事にする。ヴィルフリートは店から漂う甘い香りに眉を寄せていたが、伊織は機嫌よく店に入る。
店には先程の雑貨店と同じく女性が多く、ヴィルフリートは浮いているような気もした。
「これ美味しそう…!あ、これも…うーん、悩むなぁ…」
「全部注文すれば良かろう。」
「…僕が太ったらどうするの?」
伊織が困惑してヴィルフリートに尋ねる。ヴィルフリートは伊織を眺めて、喉で笑う。
「イオリは少し太った方が、抱き心地が良い。…それに、今のままでは抱き潰さぬか、気懸りだ。」
「な、なっ…何言って…!」
ヴィルフリートの声を潜めて囁かれた言葉に、伊織の頬が赤く染まる。
店員が来るのが見えて、伊織は慌てて顔を仰いだ。
「…この私に、商品が売れないとおっしゃるの!?…貴方達、私が誰か知っていて言っているのかしら!?」
何かあとがきで書こうと思ってたのに忘れちゃいました←




