女の戦いに口を出しちゃいやん
誤字脱字は遠慮なく教えてくださいね!
おかしな言い回しなんかも教えていただけると嬉しいです!
あれ?この人何言ってるの、的な空気が流れて、流石に可哀想になってきた。
アーデルハイトはどんどん顔が赤くなって、それに比例する様に伊織に向けている扇子も力なく下がっていく。
「…えっと…勝負って何の?」
助け舟のつもりで聞いて見ると、何も考えていなかったのかキョトンと首を傾げて、ぱちぱちと瞬きを繰り返している。その様子が昔、伊織が飼っていた猫に似ている。
(…何この可愛い生き物!)
「何も考えてなかった…とか?」
再度確認の為問いかけて見るが、十中八九何も考えていないだろう。伊織が問うと、言葉が出ないのか口をパクパクと開閉し、その間にも先ほどに増して顔が真っ赤に染まって来る。
ちょっと苛めすぎたかな、と伊織は反省した。
「っ…ど!」
「ど?」
「ど、どどちらが陛下に相応しいか勝負ですわ!」
どもりながら言うアーデルハイトに首を傾げる。つまり如何言うことだ。
「どうして相応しいかを僕達で決めるの?最終的に選ぶのはヴィルさんでしょ?」
伊織はアーデルハイトの言っていることがいまいちよく分からなかった。伊織の言葉にアーデルハイトが目尻を吊り上げてツカツカと早足で近付き、伊織に顔を寄せた。
「…そう言う所がますます気に入りませんわ。私など相手にならないと高みの見物かしら。」
地を這う様な低い声がアーデルハイトから聞こえ、伊織は女性からこんなに低い声が出る事に感心した。そもそもアーデルハイトが言っている内容が理解出来ないのだ。
「イオリ様、ローゼンクランツ様は陛下をお慕いして、イオリ様に勝負を挑まれているのではないかと…」
全く状況を理解していない伊織にフランツィスカが助言する。そこまで至ってやっとどういう状況か理解した伊織は、今度は勝負出来ないと首を振った。
「僕、ヴィルさんとそう言う関係じゃないから、アーデルハイトさんと勝負する理由がないんだけど…」
「何を言っておりますの!?陛下の愛称を呼びながら図々しい!」
アーデルハイトがさらに目を吊り上げてにじり寄ってくる。美人は怒ると凄い迫力だな、と他人事の様に考える。伊織は押しに弱く、女性が苦手だが、先程からアーデルハイトの事を猫にしか見えなくなっていた。血統書付の気位の高い猫。そうして現実逃避していると口許が弛んでいたらしい。
「何を笑ってますの!?」
アーデルハイトがカッと頭に血が上ったのか手を振り上げた。伊織は反射的に目を閉じたが、いつまで経っても衝撃はない。そろそろと目を開けると、顔面蒼白のアーデルハイトとアーデルハイトの腕を掴むヴィルフリートがいた。どうやら誰かが報せたらしい。
「何の騒ぎだ。」
「何にもないよ。」
伊織は即答して、アーデルハイトの腕を引いて前に出た。アーデルハイトは蒼白のまま、伊織に引かれるまま後ろに下がった。
「余にはローゼンクランツ嬢がイオリに手を上げている様に見えたが。」
「僕が言っちゃいけないこと言ったから。彼女は怒って当然だよ」
ヴィルフリートを怒らせてはいけないと思っていたが、蒼白のアーデルハイトを見捨てることが出来ずつい庇ってしまった。
ヴィルフリートは眉を顰めて伊織を睥睨する。伊織はヴィルフリートの迫力に脚が震えそうになるのを堪えて、見つめ返した。
「お、女の争いに、男が口を出すと、余計にややこしくなるんだよ」
みっともなく震える声に、ヴィルフリートの睥睨する迫力に、涙が溜まる。
ヴィルフリートは溜め息を吐いて、伊織の目尻に溜まった涙を指で拭いた。
「…そうか。悪かった。」
それだけ言うと、ヴィルフリートはギルベルトを連れてさっさと行ってしまった。
ホッとして後ろを振り返るとアーデルハイトが声も出さずにぼろぼろと涙を流して泣いていた。
「な、何で泣いてるの…」
「わ、わた、わたくし…へ…へいかに、…きら、きらわれて、しまいましたわ…ひっく…」
ぼろぼろと止まる様子のない涙に、アニエッタが近付いてきてアーデルハイトの肩にそっと手を添えて部屋に促す。
「とりあえず部屋で落ち着かれては如何ですか?」
優しい声音で話し掛け、目線で指示を出して騎士に扉を開けさせた。
伊織とフランツィスカも後に続いて部屋に入り、アーデルハイトをアニエッタから引き取ってソファに座らせ、伊織も隣に座る。
フランツィスカがタオルを手渡し、アニエッタはお茶の用意をし始めた。その間もアーデルハイトはしゃくり上げながら泣き、伊織は背中を撫で続けた。
丁寧に入れられたお茶が目の前に置かれた頃にはアーデルハイトも随分落ち着いていた。
「大丈夫?」
伊織はフランツィスカから受け取った冷えた濡れタオルを目元に当ててやりながら問いかける。
「…すんっ、大丈夫、ですわ」
アーデルハイトが強がっている事に気が付き、苦笑いする。髪が乱れるのも構わずくしゃくしゃと撫でた。
「な、何するんですの!」
「何でもない。でも、怒ったら元気出たでしょ?元気が出たら、甘いものが欲しくなるから、はい。」
伊織はアニエッタが用意してくれた焼き菓子をアーデルハイトに渡して、自分もぱくりと食べる。
「で、甘いもの食べると、喉乾く。」
お菓子をもぐもぐ、ごくん、と飲み込んでお茶に口をつけた。アーデルハイトがお菓子を食べたのを見て微笑んだ。
「喉が潤ってお腹が膨れたら、小さい事なんてどうでもよくならない?」
「…貴女って変な人ですわね。」
アーデルハイトがお茶を一口飲んで、ポツリと呟いた。伊織は頬を膨らませる。
「変だなんて失礼な。それにさっきのだって僕の姉の受け売りなんだから!」
「だったら、お姉さまが変なんですわね。」
伊織の顔を見て、アーデルハイトがくすくす笑う。伊織はもう一つ焼き菓子を食べて、アーデルハイトにも無理矢理食べさせる。
「やっと笑った!やっぱり女の子は笑顔が一番可愛いんだよ!」
もごもごと口を動かすアーデルハイトに笑い、お茶を一気に飲み干す。アーデルハイトもお茶を飲み干して立ち上がる。
「迷惑を掛けましたわね。もう帰りますわ。」
「あれ、もう帰っちゃうの?」
立ち上がったアーデルハイトを見上げて首を傾げると、アーデルハイトはキッと伊織を睨みつけた。
「恩を売ったと思わないで下さいまし!一つ借りですわ!私はまだ貴女を認めてなくってよ!」
急に元気になったアーデルハイトに驚く。
「で、でも…庇って頂いたのも、励まして頂いたのも感謝してますわっ!」
アーデルハイトは言うだけ言って逃げる様に帰ってしまった。呆気にとられたが、じわじわと笑いが込み上げてくる。
「…リアルツンデレだ…」
アーデルハイトはやはり猫の様だな、と思いながらアニエッタにお茶のお代わりをお願いする。
(いつか懐いてくれるかな〜)
ツンデレアーデルハイトさん。
伊織ちゃんは母と姉によって女性の怖い部分をばっちり教わっているので女性に変な幻想は持ってません(笑)
ちなみに現時点でヴィルフリートさんは伊織ちゃんにとって、恩人以外の何者でもなく、赤面しちゃうのはイケメンだからです。