デート、になるのかな?
城下にお忍びデート(*゜ー゜)
次の日、いつも通りに起きて着替える。城下に出掛けるので、前と同じディアンドルの様な服装だ。今回はスカートが濃い緑、裾にレースが着いていて白い刺繍が入っている。前回同様、ブラウスは胸元が大きく開いているので、腰が引き絞られて胸が盛り上がっていた。
「フラン、エリーゼ。これ、どうにかならない?僕、こんなに胸が開くのはちょっと…」
「何を言ってるんですか、イオリ様。こんなに白くて大きくて形のいい胸、強調しないと損ですよ!」
「ええ、とっても似合ってらっしゃいますわ。」
伊織が谷間を手で隠し、頬を染めながら言うも取り合ってもらえない。基本的に身に着けるモノの事については、伊織に選ぶ権限がなかったりする。
結局面白がるようにさらに胸の谷間に垂れるネックレスを付けられ、ヴィルフリートの前に出る事になった。
「…イオリ…いや、何でもない。」
ヴィルフリートが伊織の姿に何か言い掛けるも、途中で止めて溜め息を吐いた。伊織の後ろにはフランツィスカとエリーゼが満足気に笑っていて、ヴィルフリートが2人を一瞥して伊織を抱き上げる。
「…次は、もう少し肌の露出を抑えろ。」
ヴィルフリートがフランツィスカとエリーゼに溜め息混じりに言って、居室に向かって踵を返す。今日は朝は軽食で済ませ、すぐに城下に行く予定だった。伊織がお茶をしたいと言ったので、15時にお茶をしてから神殿にアニエッタとリタのお見舞いに行く事にする。
「どこに行きたいのだ。」
朝食を食べ終わってお茶をしていると、ヴィルフリートが伊織に問い掛ける。
「んと、お茶するのは大通りから一本入った所にお菓子の美味しいお店があるんだって。ハイジが兄さんに連れて行ってもらったって言ってた。」
「…余は甘味は食わんぞ…」
ヴィルフリートが眉を寄せてお茶を飲む。伊織はくすくす笑って、手を振った。
「ハイジがお茶も美味しいって言ってたから大丈夫。それに、甘いの苦手な人でも食べれるお菓子もあるって言ってたよ。」
ヴィルフリートは伊織の言葉を聞き流し、お茶を飲み上げてソファの肘掛けに肘をついて足を組む。その格好が様になりすぎていて、伊織は思わずヴィルフリートをぼうっと見詰める。
「イオリ、少し休んだら出るが…どうかしたか。」
「…ううん。何でもない!」
「…顔が赤いが。」
伊織が頬を染めながら笑って誤魔化すのを、ヴィルフリートが訝しげに見る。ヴィルフリートからすると、伊織が顔を赤くしているのは割とある事なので、眉を寄せながらも引き下がる。
伊織がお茶を飲み終え、フランツィスカに髪や化粧を整え直してもらう。ヴィルフリートはギルベルトから剣を受け取り、腰に差して伊織の準備を待っていた。
「では、行ってくる。」
「お土産買ってくるね!」
ギルベルトとフランツィスカ、エリーゼが頭を下げるのを見ながら、ヴィルフリートが転移魔法を使う。伊織はヴィルフリートにギュッとしがみ付いて目を閉じた。
ヴィルフリートに背中を叩かれて、そっと目を開く。転移した場所は前と同じ場所で、そこで外見に変化の魔法を掛ける。
今回は伊織の髪色はブルネット、瞳は鳶色。ディーゲルマン家は長男以外似たような色らしい。ヴィルフリートは前回と同じく、茶髪に青い瞳だ。
「まず、どこから向かうのだ。」
「アニーが教えてくれたお茶の専門店!好きに調合してくれるんだって。」
流石に抱き上げられての移動はおかしいので、肩を抱かれて並んで歩く。ヴィルフリートの誘導で、アニエッタに聞いた大体の位置を伝えながら、大通りから少し歩いて目的の店に辿り着く。
伊織がお茶を好みに合わせ、試飲しながら調合してもらう。その間にヴィルフリートも好みのものがあったようで、何やら店主と話していた。伊織が近付いて行くと、店主が伊織にも試飲させてくれる。コップに入った液体は黒っぽい色をしていて、伊織は恐る恐る口に入れる。中身はコーヒーの様で、いつもコーヒーをカフェオレにして飲む伊織にはブラックは苦く、思わず眉が寄る。
「…イオリの口には合わないようだな。」
「嫌いじゃないよ?砂糖とミルクいっぱい入れて飲む方が好きだけど。」
ヴィルフリートの指摘に伊織が唇を尖らす。その様子に店主が笑い、小さな飴をくれた。
「口直しにどうぞ。カフィは苦手な方も多いようですので。…砂糖とミルクをたくさん入れると確かに飲みやすくなりそうですね…。」
「うん。濃い目に入れて、ミルクと半々ずつ入れると苦味が気にならなくなるんだよね。」
「ほうほう…」
店主が伊織の話にメモを取っていて、伊織も思わず饒舌になる。ヴィルフリートはコーヒーがよほど気に入ったのか、椅子に座ってゆっくり味わっていた。
「それにしても、お詳しいのですね。シリバリス出身ですかな?」
「うぅん。…僕も、教えてもらったの。」
店主の問い掛けに慌てて否定して、誤魔化す。伊織のお茶の調合が終わったようで、店員が調合した紅茶とコーヒーの入った紙袋を持ってきた。ヴィルフリートも立ち上がり、購入した袋を持つ。支払いを済ませて店主に手を振り、店を出た。
「…次はどこに行きたいんだ?」
「冒険者ギルド!見るだけ見たい~!」
ヴィルフリートの眉がピクリと跳ね、伊織の表情が曇る。
(やっぱり、ダメだったかなぁ…?)
伊織が歩きながらがちらちらとヴィルフリートを窺っていると、ヴィルフリートが溜め息を吐いた。そのまま大通りに向かう路地に入る。
「…声を掛けられても無視する様に。」
「うん。ありがと、ヴィルさん」
伊織が顔を綻ばせてヴィルフリートにお礼を言い、上機嫌に足取りを弾ませた。
ギルドに着くと、伊織はきょろきょろと周りを見渡す。ギルドは意外と清潔で、窓口が6つある。冒険者は怖い人が多いのかと思っていた伊織は意外に思った。市役所に似た感じかもしれない。
「意外と、綺麗なんだねぇ…。」
「帝都だからな。地方だともう少し荒れているかも知れないが。」
「…ふぅん。」
壁の掲示板に貼られている依頼書をまじまじと眺める。伊織の姿は完全にイレギュラーなのでとても目立っているが、ヴィルフリートの威圧感が凄く、誰も声を掛けて来なかった。
(…流石に、一回魔物、見たいとか…無理だよねぇ。)
伊織はヴィルフリートをちらりと見て考える。
ヴィルフリートが伊織の後ろから掲示板を見ていて、伊織は意を決して声を掛けようと口を開く。
「ヴィルさ「ダメだ。」
何か言うより先に否定され、伊織がムッと眉を寄せる。ヴィルフリートは伊織を見て、目を細めた。
「まだ何も言ってないのに。」
「大方、魔物が見たい、もしくは依頼を受けてみたい、と言ったところか。」
伊織がぶすりとして顔を背ける。ヴィルフリートは譲る気がないらしく、憮然と伊織を見下ろした。
「…お二人さん。依頼が見たいんだが…」
伊織とヴィルフリートが掲示板の前に立っていた所為で、依頼が見えなかったのか男が話し掛けてくる。男は強面の大男で、背中に大きな太刀を背負っていて、額に2本の角があった。背もヴィルフリートより高く、体格はバルトロメウスと同じくらいありそうだ。
「…鬼人が国から出るとは珍しい。」
「…鬼人?」
ヴィルフリートが伊織の肩を引き寄せて、場所を開けながら呟く。伊織が問い返すと、男がカラカラと笑った。
「拙者、修行中の身でな。世界を回っているのだ。」
「ほう。なぜ帝国に?」
「パリスリミラに渡りたかったんだが、ギルドランクを上げて来いと言われてしまってなぁ」
男が頭を掻きながら豪快に笑う。顔は強面なのに、笑うと愛嬌がある。
「腕には自信があるんだがなぁ…」
「ほう…。…俺に勝てば、許可をしてもいい。」
男の、腕に自信があるという発言にヴィルフリートの目が光る。伊織は2人のやり取りを見ながら、笑いそびれた頬がひくりと引き攣る。
(…ヴィルさん、皇帝なのに…大丈夫かなぁ…?)
ヴィルフリートさんが楽しそう。




