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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
紫水晶と石榴石
55/94

説得されました。

今日はちょっと遅れてしまいました。

待っていた方がいましたら、ごめんなさい( *゜ェ゜)*_ _))ペコ



「もう!ちゃんと説明してってば!」


伊織が唇を尖らせて拗ねると、ニコラウスが口元を緩めて伊織に手を振って来る。伊織はニコラウスからツンと顔を背け、ヴィルフリートの服を引く。

ヴィルフリートがニコラウスに向かって鼻で笑って、伊織の髪を梳いた。


「ちがーう!喧嘩してないで、説明だってば!せ・つ・め・い!!」


「ヴィル坊!お前の所為でイオリに怒られたじゃねぇか!」


「自業自得だ。大体…」


再びヴィルフリートとニコラウスが言い争いを始め、伊織は遠い目になった。どうにもヴィルフリートはニコラウスで遊んでいる節があり、いつもは伊織が頼めばすぐしてくれる事も、なかなかしてくれない。

伊織は溜め息を吐いて、ヴィルフリートの隙を突き、膝から降りる。ヴィルフリートとニコラウスの座るソファの間にある、一人掛けのソファに座って腕を組んで鼻を鳴らす。


「さっきからヴィルさんもパパも説明する気ないじゃん!じゃれ合う前に説明!して!」


ヴィルフリートが仕方ないという様に溜め息を吐き、ギルベルトをちらりと見る。自分で説明する気はないらしく、お茶に口を付けた。ギルベルトがコホン、と咳をして言い難そうに伊織を見る。


「…陛下は、イオリ様を陛下の婚約者として、世界に発表する為に舞踏会を開催するのがいいのではと考えておられるようです。」


「こんやくしゃあ!?…ちょっと待って、世界って…」


「…言葉通り、世界だ。」


驚愕に固まる伊織に、ヴィルフリートの眉がピクリと動く。


(…え、ちょっと待って!?…なんか僕がヴィルさんと結婚するって事になってるない…!?)


「…僕、ヴィルさんに結婚していいって言ったっけ…?」


ヴィルフリートの視線が伊織から逸らされ、ニコラウスが笑い出す。ヴィルフリートが笑うニコラウスに鋭い視線を送り、ギルベルトが苦笑いしている。


「…とにかく、僕に勝手に話進めないで。」


伊織がジトリとした目でヴィルフリートとニコラウスを見て、いつもより低い声を出す。ヴィルフリートが渋々頷いて、ニコラウスは苦笑いした。


「…俺が言うのもなんだが、ヴィル坊ほどの優良物件はないと思うんだがなぁ…」


「…それとこれとじゃ、話が別なんです!パパは黙ってて!」


「お、おう…」


伊織の剣幕に押されて、ニコラウスがタジタジになって頷く。伊織が一度決めたら頑固な事が解っているヴィルフリートは溜め息を吐いた。


「…ニコラウス、執務に戻れ。ギルベルトも下がるが良い。」


ヴィルフリートがギルベルトに顎でしゃくり、ギルベルトが半ば無理やりニコラウスを連れて部屋を出ていく。

ヴィルフリートが部屋から2人が出て行ったことを確認してソファを立ち上がり、伊織の前にしゃがんで視線を合わせる。伊織は拗ねて唇を尖らせ、そっぽを向いた。

ヴィルフリートの手が伊織の頬を優しく撫でる。伊織はちらりとヴィルフリートを見て、すぐに視線を逸らした。


「イオリ、其方の安全の為だ。余の后となれば、誰にも手出しが出来なくなる。」


「…でも…僕の心の準備ができるまで、待ってくれるって…ヴィルさん言ったじゃん。」


伊織がヴィルフリートの方を向き、小さい声でぽつぽつ呟く。ヴィルフリートがフッと笑い、伊織の頬に掛かる髪を耳に掛ける。


「…だが、余が別の者を娶るのは嫌なのだろう?…余も皇帝だからな、后はいずれ娶らねばならん。」


「…でもっ!…でも…ヴィルさん、僕が嫌なら…結婚はしなくていいって…」


「それはイオリに危険がない場合だ。相手は他国の王女。身分だけで言えば彼方(あちら)が上だ。」


ヴィルフリートに諭すように言われて、伊織の勢いがどんどん萎む。結婚するのが嫌な訳ではない。ただ、結婚する事によって変わってしまうかも知れないのが嫌なのだ。


「余の伴侶になるのは、厭ではないのだろう?…何を(おそ)れる。立場か?心変わりか?それとも…いずれ元の場所に帰る恐れがあると言う危惧か。」


「…っ!」


伊織はヴィルフリートの言葉に息を呑む。

ヴィルフリートはちゃんと伊織が后を嫌がる理由を正確に解っていた。その事が嬉しい反面、とても切ない。伊織が元の世界に帰るかもしれないと、解っていて伊織に求婚してくれているのだ。


「…ヴィルさんは、僕が元の世界に帰ったら、どうするの…?」


「たとえイオリが嫌がろうと、必ず連れ戻す。」


ヴィルフリートがきっぱりと淀みなく言い切る。伊織の顔が泣きそうに歪んで、ヴィルフリートの視線から逃れる様に俯く。


「…僕が、元の世界では…男でも?またこの世界に来ても、女の子にならないかもしれないよ?そうなると、后にはなれないよね…。」


俯いて反応を待つが、ヴィルフリートは何も言わず、伊織は恐る恐る顔を上げる。ヴィルフリートが伊織を見て苦笑いしていて、伊織はきょとんとした。


「そんな事で、余の求婚が断られるとは、な。」


「そ、そんな事って!すごく重要な事じゃん!!…子供も産めないかもしれないんだよ!?」


伊織がヴィルフリートに噛み付くが、ヴィルフリートは取り合うつもりはない様で、立ち上がって伊織を抱き上げた。そのまま身を反転させて、ソファに腰掛ける。


「確かに跡継ぎは重要だが、そこまでの問題でもない。余に後継ぎが出来ても、出来なくとも、皇帝は皇族の中から一番血の濃い者を選ぶ。現在一番血が濃いのは余だが、余の子供であっても血が薄ければ皇帝にはならぬ。…よって、イオリが女である必要もない。」


ヴィルフリートの言葉に伊織が絶句する。だからと言って后が男なのはどうなのかという突っ込みすら出て来ないほど、伊織の頭は混乱していた。

ヴィルフリートが伊織の瞼に口付けて、喉で笑う。


「異界から呼び寄せる方が難題だと言うのに、今更余が性別を気にするとでも思うたか?」


「…普通は、気にすると思うけど…」


伊織がせめてもの反論、と口を開く。その言葉も一笑に付されて、伊織は既にお手上げ状態だ。


「さて、問題がなくなったが…まだ余の后は厭か?」


「…もう、好きにして…」


伊織が不貞腐れてヴィルフリートの胸元に寄り掛かる。ヴィルフリートが旋毛に口付けを落とした。


「そうと決まれば、まずは手配せねばな。」


ヴィルフリートがテーブルに置かれた魔道具でギルベルトを呼ぶ。ギルベルトはすぐに控えの部屋からノックして中に入って来た。

ギルベルトが伊織の機嫌が直っている事を見て、表情を和らげる。伊織は心の中でギルベルトに謝り、にこりと笑う。


「イオリを公式に発表する。各所に通達し、準備を進めろ。」


「畏まりました。」


ギルベルトが頭を下げて部屋を出て行く。ヴィルフリートが伊織の髪を梳いて、顔を覗き込む。


「まだ怒っておるのか。」


「…別に、怒ってない…けど…僕でいいのかなって…」


「イオリが、良いのだ。」


伊織が不安気に顔を上げてヴィルフリートを仰ぎ見る。ヴィルフリートは伊織の背中を撫でて、宥めた。


「そういえば…黒幕が分かったから、明日城下に行けるんだよね!?」


「ああ、そういう約束であったな…どこか行きたいところがあるのか?」


途端に声の弾んだ伊織に、ヴィルフリートが訝しげに問う。


「前はあんまり見れなかったし、今回はハイジやフランにいっぱいお店聞いてるんだ~。」


「…あちこちを回るのは良いが、あまり浮かれ過ぎぬ様にな。」


はしゃぐ伊織に、ヴィルフリートが釘を刺す。が、伊織には通じず、鼻歌混じりに紅茶を飲んでいて、ヴィルフリートは溜め息を吐いた。頭上から聞こえた溜め息に伊織がヴィルフリートを窺う。


「どうかしたの?」


「…いや。…イオリは、案外后に向いているかもしれぬと思うてな。」


ヴィルフリートの発言に首を傾げて、ヴィルフリートの口元に焼き菓子を差し出す。ヴィルフリートはぱくりと菓子を食べ、その甘さに眉を顰める。


「向いてるかどうかは別として、何とかやってみるね?」


伊織がヴィルフリートの眉の顰めた顔を見て笑い、自分の口にも焼き菓子を放り込んだ。

簡単に説得されちゃう伊織ちゃん←


そういえばお月様に、この間のお月様の話の続きをアップしました。

浴室での話ですが。

18禁ですので、その事を踏まえて自己責任でご覧くださいね。

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