嫌われたくなかっただけ
投稿時間を12時にずらそうかなー、と考えてる秋雨です。
0時と12時、どっちがいいんですかねぇ?
どっちがいいとかありましたら気軽に教えてくださいねー!
伊織の目が泳ぐ。これを言っても、ヴィルフリートは変わらないだろうか。
伊織は不安に駆られて泣き出しそうな目でヴィルフリートを見た。伊織のあまりにも悲愴な表情に、ヴィルフリートが背中を撫でる。
「例えどんな秘密であろうと、余は伊織を糾弾などしない。」
「…じゃあ、嫌いになったりも…しない…?」
伊織が俯いて小さく問い掛け、ヴィルフリートの服をきゅっと掴む。旋毛に口付けが落とされ、肯定する様に背中が優しくぽんぽんと叩かれた。
「イオリが心配せずとも、余はイオリを離す事はない。…イレーネと言うのは、神鎮めの姫か。」
「…うん。多分そうだと思う…夢に出てきて…」
ヴィルフリートの言葉に少しだけ落ち着き、ぽつぽつと説明を始める。ヴィルフリートはずっと背中を撫でてくれていて、伊織はヴィルフリートの首元に身体を預けた。
「…僕はイレーネの生まれ変わりらしくって。こっちの世界に来たのは、初代皇帝陛下にこのブレスレット…腕輪を貰った事が関係してるんだって。」
「…貰ったとは?初代皇帝は2000年も過去の人物だが…」
ヴィルフリートが思わずと言った様に伊織に問い掛ける。その声が僅かな苛立ちを含んでいて、伊織は口元を緩めた。
「…小さい時にね、この世界に迷い込んだ事があるんだ。その時に、僕がイレーネの生まれ変わりだって、気が付いた初代皇帝陛下がくれて…それからずっと、その事も思い出せなかったんだけど、この世界に来てからは夢にイレーネが出て来る様になって…」
ヴィルフリートは静かに聞いていて、伊織が言葉に詰まる度に優しく背中を叩いてくれる。
伊織は頭の中で話を整理しながら、何とか説明しようと考えた。説明自体が難しい。
「僕ね、信じてもらえないかも知れないけど、前世の記憶があって…イレーネが言うには、最近まで封印されてたんだって。なんでか分かんないけど…それで、前世の記憶を思い出した僕に、イレーネが箱を探してって言ったから…」
「探してたという訳か。…姫そのものという訳ではないのだな?」
ヴィルフリートの問い掛けに肩が跳ねる。
伊織は伊織だ。どう頑張ってもイレーネにはなれない。
伊織は無意識の内に服を握り締めていた。視界が歪んで、瞳を閉じる。
「…僕は、僕だよ…?」
答えた声は涙声になっていて、情けない自分に滲んでいた涙が頬を伝った。
「何か勘違いしている様だが、余に初代皇帝の記憶があろうがなかろうが…イオリは余のモノだ。」
伊織が驚いて顔を上げる。ヴィルフリートに目元を指で拭われ、額に口付けられた。
「記憶はきっかけではあったが…イオリがあの泉に突然現れた時には、余はイオリに狂っていたのかも知れぬな。」
「…ちょっと待って…ヴィルさんにも、記憶があるの?」
ヴィルフリートの聞き捨てならない発言に、伊織の眉が寄る。
ヴィルフリートに記憶がないと思っていたから、伊織は好かれているのだと思ったのだ。ヴィルフリートに記憶があるなら、伊織の考えは全くの勘違いと言う事になる。それに、記憶があるのなら、ヴィルフリートが執着しているのはイレーネではないのか。
(…ヴィルさんの執着しているのがイレーネだとしたら、僕はどうすればいいの…?)
「…良からぬ事を考えている様だが、余は記憶などには惑わされておらぬぞ。そもそも、余がイオリを神鎮めの姫の代わりと思っておるなら、口調や仕草を真似させると思わぬか。」
「…ヴィルさん、エスパー?…何で僕の考えてる事が分かるの…。」
伊織が驚いてヴィルフリートの顔をまじまじと見る。ヴィルフリートは溜め息を吐いて、伊織の頬を軽く摘まむ。
「…考えている事が全て顔に出ておる。難しい顔をしていると思えば、急に蒼褪め…大方余の想いが神鎮めの姫に向いておって、イオリに気を掛けていると思っているのだろう。」
「…うん。…違うの?…僕で…いいの?」
摘ままれた頬に手を当てて、上目遣いにヴィルフリートを窺う。再度、ヴィルフリートは先程よりも深い溜め息を吐いて、伊織の目元に口付けた。
「言ったであろう。イオリを見初めたのは、泉で不安気に余に縋って来た時。本能的な感覚に従いはしたが、イオリを想ったのは記憶が戻る前だ。…余が愛欲に狂うのは、其方のみ。」
ヴィルフリートの手が伊織の頭に添えられ、視線を合わせる。伊織を写す瞳が怖いほど澄んでいて、目が離せない。暫く見つめ合っていると、ヴィルフリートの視線が伊織から逸らされ、扉に向けられた。
「…ごほん!」
「早く帰れ。」
「気付いてるならさっさとイオリから離れろ、ヴィル坊!」
ニコラウスが扉から入った所で仁王立ちしていて、伊織は慌ててヴィルフリートの膝から降りようとするも、ヴィルフリートの腕の中に囲われる。ニコラウスが更に眦を釣り上げていて、居た堪れなくなって俯いた。
「…い、あ、あの…い、いつからいたんですか…?」
伊織がしどろもどろになりながらニコラウスに問い掛ける。
もしかして、ヴィルフリートとの会話を聞かれたんじゃないのか、と混乱して挙動不審になった。
ニコラウスの眉がピクリと動き、ヴィルフリートに向けていた視線が伊織に向けられる。その途端、相好が崩れた。
「…ニコラウスなら、今し方来た所だ。」
「ぬぅう、ヴィル坊め!俺がイオリと話す機会すら奪うのか!」
「其方がなかなか答えぬから、代わりに答えてやったのだろう。」
ヴィルフリートが呆れた眼差しをニコラウスに向ける。ニコラウスの眉が寄り、ヴィルフリートを再び睨んだ。
「陛下もニコラウス様も、その辺りになさいませ。イオリ様が困っておいでですよ。…ニコラウス様、報告があったのではなかったですかな?座られたらどうです。」
間に挟まれて困惑していた伊織に、控えの部屋から入ってきたギルベルトから助け舟が出される。ニコラウスが不承不承、正面のソファに座った。
ギルベルトが3人前にお茶を出し、ヴィルフリートに書類を渡してソファの後ろに控える。
「して、報告とは何だ。」
「コンラートから、イグナーツに連絡があった。件の黒幕は、どうやら王国の王女だそうだ。」
「やはりな。以前より再三、余の妃にと王より遣いがあったが…」
ヴィルフリートが鼻で笑い、面白くなさそうに書類をギルベルトに渡す。
「それで、どう処理するつもりなんだ?」
ニコラウスがお茶を飲みながら、ヴィルフリートに尋ねた。ヴィルフリートが伊織をチラリと見てから、お茶に口を付ける。
「…そろそろ、牢から逃走した事がバレる頃だな。…裏ギルドに、イオリに関する依頼はイグナーツの他に受けさせない様に通告しておけ。…それから、ラウレンツが王国にいるだろう。王女の近辺を探らせろ。」
「畏まりました。」
「めんどくせぇ事になってやがるな。いっそ舞踏会でも開いて、そこで大々的にイオリの公表でもすりゃあいいんじゃね?」
ニコラウスが疲れた様に足を投げ出して、一緒に出されていた焼き菓子を口の中に放り込む。ヴィルフリートがニコラウスの言葉に思案顔をしている。伊織は大人しくヴィルフリートの膝に抱えられながら、内心溜め息を吐いた。
(…発表って、誰に対して、何の事を…)
「…確かに、その案は使えるな。要は、イオリに危険が及ばぬ様、内外に示せば良いのだからな。」
ヴィルフリートとニコラウス、ギルベルトの視線までもが伊織に集中する。伊織はタジタジになって身を小さくした。伊織に向けられる視線は三者三様で、ヴィルフリートは満足気に、ニコラウスは嫌そうに、ギルベルトは憐憫に近い。
「…な、何…?」
最近ヴィルフリートさんの甘さがデフォルトになってきました←
伊織ちゃん以外には辛いんですよ!っと言ってみる。




