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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
紫水晶と石榴石
54/94

嫌われたくなかっただけ

投稿時間を12時にずらそうかなー、と考えてる秋雨です。

0時と12時、どっちがいいんですかねぇ?

どっちがいいとかありましたら気軽に教えてくださいねー!

伊織の目が泳ぐ。これを言っても、ヴィルフリートは変わらないだろうか。

伊織は不安に駆られて泣き出しそうな目でヴィルフリートを見た。伊織のあまりにも悲愴な表情に、ヴィルフリートが背中を撫でる。


「例えどんな秘密であろうと、余は伊織を糾弾などしない。」


「…じゃあ、嫌いになったりも…しない…?」


伊織が俯いて小さく問い掛け、ヴィルフリートの服をきゅっと掴む。旋毛に口付けが落とされ、肯定する様に背中が優しくぽんぽんと叩かれた。


「イオリが心配せずとも、余はイオリを離す事はない。…イレーネと言うのは、神鎮(かみしず)めの姫か。」


「…うん。多分そうだと思う…夢に出てきて…」


ヴィルフリートの言葉に少しだけ落ち着き、ぽつぽつと説明を始める。ヴィルフリートはずっと背中を撫でてくれていて、伊織はヴィルフリートの首元に身体を預けた。


「…僕はイレーネの生まれ変わりらしくって。こっちの世界に来たのは、初代皇帝陛下にこのブレスレット…腕輪を貰った事が関係してるんだって。」


「…貰ったとは?初代皇帝は2000年も過去の人物だが…」


ヴィルフリートが思わずと言った様に伊織に問い掛ける。その声が僅かな苛立ちを含んでいて、伊織は口元を緩めた。


「…小さい時にね、この世界に迷い込んだ事があるんだ。その時に、僕がイレーネの生まれ変わりだって、気が付いた初代皇帝陛下がくれて…それからずっと、その事も思い出せなかったんだけど、この世界に来てからは夢にイレーネが出て来る様になって…」


ヴィルフリートは静かに聞いていて、伊織が言葉に詰まる度に優しく背中を叩いてくれる。

伊織は頭の中で話を整理しながら、何とか説明しようと考えた。説明自体が難しい。


「僕ね、信じてもらえないかも知れないけど、前世の記憶があって…イレーネが言うには、最近まで封印されてたんだって。なんでか分かんないけど…それで、前世の記憶を思い出した僕に、イレーネが箱を探してって言ったから…」


「探してたという訳か。…姫そのものという訳ではないのだな?」


ヴィルフリートの問い掛けに肩が跳ねる。

伊織は伊織だ。どう頑張ってもイレーネにはなれない。

伊織は無意識の内に服を握り締めていた。視界が歪んで、瞳を閉じる。


「…僕は、僕だよ…?」


答えた声は涙声になっていて、情けない自分に滲んでいた涙が頬を伝った。


「何か勘違いしている様だが、余に初代皇帝の記憶があろうがなかろうが…イオリは余のモノだ。」


伊織が驚いて顔を上げる。ヴィルフリートに目元を指で拭われ、額に口付けられた。


「記憶はきっかけではあったが…イオリがあの泉に突然現れた時には、余はイオリに狂っていたのかも知れぬな。」


「…ちょっと待って…ヴィルさんにも、記憶があるの?」


ヴィルフリートの聞き捨てならない発言に、伊織の眉が寄る。

ヴィルフリートに記憶がないと思っていたから、伊織は好かれているのだと思ったのだ。ヴィルフリートに記憶があるなら、伊織の考えは全くの勘違いと言う事になる。それに、記憶があるのなら、ヴィルフリートが執着しているのはイレーネではないのか。


(…ヴィルさんの執着しているのがイレーネだとしたら、僕はどうすればいいの…?)


「…良からぬ事を考えている様だが、余は記憶などには惑わされておらぬぞ。そもそも、余がイオリを神鎮めの姫の代わりと思っておるなら、口調や仕草を真似させると思わぬか。」


「…ヴィルさん、エスパー?…何で僕の考えてる事が分かるの…。」


伊織が驚いてヴィルフリートの顔をまじまじと見る。ヴィルフリートは溜め息を吐いて、伊織の頬を軽く摘まむ。


「…考えている事が全て顔に出ておる。難しい顔をしていると思えば、急に蒼褪め…大方余の想いが神鎮めの姫に向いておって、イオリに気を掛けていると思っているのだろう。」


「…うん。…違うの?…僕で…いいの?」


摘ままれた頬に手を当てて、上目遣いにヴィルフリートを窺う。再度、ヴィルフリートは先程よりも深い溜め息を吐いて、伊織の目元に口付けた。


「言ったであろう。イオリを見初めたのは、泉で不安気に余に縋って来た時。本能的な感覚に従いはしたが、イオリを想ったのは記憶が戻る前だ。…余が愛欲に狂うのは、其方のみ。」


ヴィルフリートの手が伊織の頭に添えられ、視線を合わせる。伊織を写す瞳が怖いほど澄んでいて、目が離せない。暫く見つめ合っていると、ヴィルフリートの視線が伊織から逸らされ、扉に向けられた。


「…ごほん!」


「早く帰れ。」


「気付いてるならさっさとイオリから離れろ、ヴィル坊!」


ニコラウスが扉から入った所で仁王立ちしていて、伊織は慌ててヴィルフリートの膝から降りようとするも、ヴィルフリートの腕の中に囲われる。ニコラウスが更に眦を釣り上げていて、居た堪れなくなって俯いた。


「…い、あ、あの…い、いつからいたんですか…?」


伊織がしどろもどろになりながらニコラウスに問い掛ける。

もしかして、ヴィルフリートとの会話を聞かれたんじゃないのか、と混乱して挙動不審になった。

ニコラウスの眉がピクリと動き、ヴィルフリートに向けていた視線が伊織に向けられる。その途端、相好が崩れた。


「…ニコラウスなら、今し方来た所だ。」


「ぬぅう、ヴィル坊め!俺がイオリと話す機会すら奪うのか!」


「其方がなかなか答えぬから、代わりに答えてやったのだろう。」


ヴィルフリートが呆れた眼差しをニコラウスに向ける。ニコラウスの眉が寄り、ヴィルフリートを再び睨んだ。


「陛下もニコラウス様も、その辺りになさいませ。イオリ様が困っておいでですよ。…ニコラウス様、報告があったのではなかったですかな?座られたらどうです。」


間に挟まれて困惑していた伊織に、控えの部屋から入ってきたギルベルトから助け舟が出される。ニコラウスが不承不承(ふしょうぶしょう)、正面のソファに座った。

ギルベルトが3人前にお茶を出し、ヴィルフリートに書類を渡してソファの後ろに控える。


「して、報告とは何だ。」


「コンラートから、イグナーツに連絡があった。(くだん)の黒幕は、どうやら王国の王女だそうだ。」


「やはりな。以前より再三、余の妃にと王より遣いがあったが…」


ヴィルフリートが鼻で笑い、面白くなさそうに書類をギルベルトに渡す。


「それで、どう処理するつもりなんだ?」


ニコラウスがお茶を飲みながら、ヴィルフリートに尋ねた。ヴィルフリートが伊織をチラリと見てから、お茶に口を付ける。


「…そろそろ、牢から逃走した事がバレる頃だな。…裏ギルドに、イオリに関する依頼はイグナーツの他に受けさせない様に通告しておけ。…それから、ラウレンツが王国にいるだろう。王女の近辺を探らせろ。」


「畏まりました。」


「めんどくせぇ事になってやがるな。いっそ舞踏会でも開いて、そこで大々的にイオリの公表でもすりゃあいいんじゃね?」


ニコラウスが疲れた様に足を投げ出して、一緒に出されていた焼き菓子を口の中に放り込む。ヴィルフリートがニコラウスの言葉に思案顔をしている。伊織は大人しくヴィルフリートの膝に抱えられながら、内心溜め息を吐いた。


(…発表って、誰に対して、何の事を…)


「…確かに、その案は使えるな。要は、イオリに危険が及ばぬ様、内外に示せば良いのだからな。」


ヴィルフリートとニコラウス、ギルベルトの視線までもが伊織に集中する。伊織はタジタジになって身を小さくした。伊織に向けられる視線は三者三様で、ヴィルフリートは満足気に、ニコラウスは嫌そうに、ギルベルトは憐憫(れんびん)に近い。


「…な、何…?」






最近ヴィルフリートさんの甘さがデフォルトになってきました←

伊織ちゃん以外には辛いんですよ!っと言ってみる。

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