反省してるから…
お説教(๑ↀᆺↀ๑)
思ってたのと違う←
ヴィルフリートの不穏な発言を聞かない事にして首元にしがみ付く。
「まあ良い。覚悟せずとも、結果は変わらぬ。」
ヴィルフリートが歩き出し、来た道を戻る。城に転移してからも伊織はヴィルフリートの機嫌の取り方を必死に考えているが、いい案は思い浮かばない。
伊織は魔力を使用した為空腹だが、まだ夕食までは時間がある。とりあえずヴィルフリートの機嫌を取りながら軽食とお茶でもしようと、ヴィルフリートの顔を見た。
「ねぇ、ヴィルさん。僕お腹が空いたなぁ…今から執務に戻っちゃう?」
伊織は機嫌を取る為に、小首を傾げて甘える。ヴィルフリートは伊織の行動にピクリと眉を動かし、伊織の顔をまじまじと見た。
「…いや。明後日まではニコラウスが執務を代行する事になっている。」
「じゃあ、お茶にしよ!」
ヴィルフリートの返事を聞いて、伊織の顔が輝く。とにかく、なんとなくヴィルフリートの機嫌は取っておかないと危険な気がする。ちょうどヴィルフリートの部屋について、中に入る。ギルベルトが中で待っていて、ヴィルフリートと伊織の姿に頭を下げた。
「お帰りなさいませ。いかがでしたでしょうか?」
「快癒した。失明したであろう眼も、切断した足も、伝承の通りに元通りだ。…それより、軽食と茶を。」
「それは良う御座いました。すぐ用意いたします。」
ギルベルトが頭を下げて控えの部屋に下がっていく。ヴィルフリートはソファに座り、いつもとは違い伊織を向かい合わせで座らせた。伊織はドキドキしながらも大人しくされるがままになり、ヴィルフリートの顔色を窺う。
「さて、イオリ。解っておろうな?」
「…はい、ごめんない。…でもヴィルさんが嫌いになって逃げたんじゃないよ…?」
ヴィルフリートの視線が思ったよりも静かで、伊織は素直に謝る。ヴィルフリートが溜め息を吐き、伊織の髪をサラリと梳いた。
「…余の妃は、厭か?」
「そうじゃない!…そうじゃないよ…僕が、勝手にヴィルさんにはいい人がいるって決めつけて…うぅん、ヴィルさんの所為にしちゃいけないよね。…僕が…責任から逃げたかっただけなんだと思う。」
僅かに傷付いたような光が瞳に走った様な気がして、伊織は慌てて否定する。心臓にツキツキと痛みを感じ、伊織は胸の前で服をきゅっと握った。
ヴィルフリートは未だ伊織の事を静かな瞳で見ていて、伊織は落ち着かなさに目を伏せて身じろぐ。
「…伊織が余から離れさえしなければ、妃などに成らずとも良いのだ。…だが、離れると言うのならば…」
ヴィルフリートが伊織の髪を梳いていた手で、伊織の後頭部を持って視線を合わせる。ヴィルフリートの瞳は怖いくらいに真剣で、そして激情を孕んでいる。
伊織の背にぞくりとした何かが走る。それは、歓喜なのか、それとも恐怖なのか、解らなかった。ただ、ヴィルフリートの瞳から目が逸らす事が出来ない。
「…余を、狂わせるな。」
ヴィルフリートの雰囲気に呑まれ、伊織は瞳を見つめたままこくりと頷いた。ヴィルフリートの手が後頭部から外れ、今度は伊織の顎にかかる。
「では、説教だ。…ギルベルト、入って良い。」
「え!?今ので終わりじゃないの!?」
ヴィルフリートが伊織の言い分に、眉を顰めた。
伊織の顎から手が外され、ギルベルトがワゴンを押して部屋に入ってくる。
ギルベルトは手早くテーブルの上にセットし、頭を下げて直ぐに下がってしまう。その間、伊織の視線に気が付いているはずなのに、一度も視線は合わせてもらえなかった。
伊織を膝から下ろし、ヴィルフリートが向かいのソファに座る。
「イオリの言い訳は聞いてやっただろう。…これは、イオリの立場に対する話だ。」
「…僕の、立場…?」
伊織が首を傾げる。ヴィルフリートは頷いて、お茶を一口飲んだ。ヴィルフリートに軽食の皿を差し出され、伊織は手にとって食べる。正直なところ、先ほどからお腹と背中がくっつきそうだった。
伊織がもぐもぐと口を動かしていると、ヴィルフリートの瞳が剣呑に細められる。
「もし、あのままイオリが戻らなかった場合だが…其方の侍女、護衛は責任を取る事になる。例え非はなくとも、な。」
「…なんで!?」
ヴィルフリートの言葉が信じられず、口に入った食べ物を慌てて飲み込んだ。ヴィルフリートの顔はなんでもない事の様に無表情で、伊織は不安気に窺う。
「攫われたとしても、逃げたとしても…侍女や護衛が気付かぬ事に問題がある。…それから、其方への見せしめの意味も持つ。イオリが咎を受ける事はないが、代わりに他の者が咎を受ける事となる。」
ヴィルフリートの淡々とした口調に、薄ら寒く思う。伊織は蒼褪め、ヴィルフリートを縋る様な瞳で見た。
「…今回は温情を与える。が、もし次同じ様な事があれば…誰かが、イオリの代わりになると思っておくが良い。」
「…はい。」
伊織が蒼褪めたまま、反論も出来ずに頷く。ヴィルフリートの表情は全くと言っていいほど変わらず無表情で、伊織は反論する気もなくなる。
ヴィルフリートが吐息を吐き、お茶を手に取る。その様子は先ほどまでと違い、随分気を緩めていて、伊織もホッと無意識に入っていた肩の力を抜いた。
緊張していたにもかかわらずお腹は減ったままで、次々と食べ物を平らげる。
「…いつもより、腹が膨らまぬか?」
「うん。なんか全然、足りない気がする。」
食べ物を全て食べ上げても微妙に感じる空腹感に、伊織は首を傾げる。ヴィルフリートの分も食べたので、軽食だけでいつもの食事と同じくらい食べていた。
ヴィルフリートがギルベルトを呼ぶ。
「如何なされましたか?」
「マルクスに夕食の量を何時もの倍に増やす様、伝えよ。魔力を随分使った様だ。」
「畏まりました。」
ギルベルトが一度退出した後、再び戻って来て伊織の前に焼き菓子を置く。優しげに微笑んで直ぐに下がっていった。
「…美味かったか?」
「うん!…でもまだ足りないかも。」
「もう1刻もすれば、夕食だ。」
伊織が焼き菓子も食べ尽くし、お茶も飲み干す。それでも感じる空腹感に腹を押さえた。ヴィルフリートもお茶を飲み干し、伊織の所に来る。伊織が欠伸を咬み殺していると、ヴィルフリートが伊織を膝に乗せて背中を撫でた。
「寝るのなら、夕食時に起こすが。」
「…うん。ちょっと眠い…。」
今までの寝不足が祟り、目を擦りながらヴィルフリートに身を預ける。すぐに訪れた睡眠に、意識を手放した。
「イオリ。食事の時間だ。」
ヴィルフリートに揺り起こされて目を覚ます。短時間でも寝た事によって、頭はスッキリしている。
ヴィルフリートが伊織を抱き上げて食堂に連れて行ってくれ、何気ない行動に帰って来た事を実感した。
食事を終えてもヴィルフリートと離れる気になれずに、ヴィルフリートの晩酌に付き合う。
不意にヴィルフリートが顔を上げ、伊織を見て目を細める。伊織は嫌な予感を感じ、さり気なく視線を逸らしてヴィルフリートのグラスに酒を注ぐ。ヴィルフリートはその酒をグッと一気に飲み干した。
「…仕置が、まだであったな。」
伊織の悪い予感が当たり、ヴィルフリートが獲物を前にした獅子の様に、酒で濡れた唇を舐めた。
「…僕、入浴しなきゃー…」
伊織が逃げる様にヴィルフリートの膝の上から降り、慌てて部屋の扉に向かう。
「イオリ。余から逃げられると思わぬ様に、な。」
背後から聞こえた声を無視して自室に戻る。
待ち構えていたフランツィスカと、アニエッタの代わりと言う臨時の侍女に浴室に追いやられた。
否を言う間もなく裸に剥かれ、全身綺麗に洗われる。
「あら。イオリ様、以前よりお肌が綺麗になりましたわね。スベスベですわ。」
「本当にスベスベで…羨ましいですわ。」
入浴後は入念にマッサージされ、寝間着を着せられ、ガウンを身体に巻かれて部屋を追い出される。
(…僕の部屋なのに…)
仕方なくとぼとぼとヴィルフリートの部屋に向かう。
イオリがノックする前に内側から扉が開き、ギルベルトが出てきた。ギルベルトはイオリの姿を認めて通路を譲り、中に促す。伊織は隠れる間も無く矢面に立たされて、恐る恐る中に入った。
そういえば毎日お昼前に「暴れん坊将軍」がやってるんですが、毎回将軍様の「余の顔を見忘れたか?」と言う言葉に笑ってしまう秋雨です(。-艸-。)