表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫水晶の回帰  作者: 秋雨
紫水晶と石榴石
52/94

反省してるから…

お説教(๑ↀᆺↀ๑)

思ってたのと違う←

ヴィルフリートの不穏な発言を聞かない事にして首元にしがみ付く。


「まあ良い。覚悟せずとも、結果は変わらぬ。」


ヴィルフリートが歩き出し、来た道を戻る。城に転移してからも伊織はヴィルフリートの機嫌の取り方を必死に考えているが、いい案は思い浮かばない。

伊織は魔力を使用した為空腹だが、まだ夕食までは時間がある。とりあえずヴィルフリートの機嫌を取りながら軽食とお茶でもしようと、ヴィルフリートの顔を見た。


「ねぇ、ヴィルさん。僕お腹が空いたなぁ…今から執務に戻っちゃう?」


伊織は機嫌を取る為に、小首を傾げて甘える。ヴィルフリートは伊織の行動にピクリと眉を動かし、伊織の顔をまじまじと見た。


「…いや。明後日(みょうごにち)まではニコラウスが執務を代行する事になっている。」


「じゃあ、お茶にしよ!」


ヴィルフリートの返事を聞いて、伊織の顔が輝く。とにかく、なんとなくヴィルフリートの機嫌は取っておかないと危険な気がする。ちょうどヴィルフリートの部屋について、中に入る。ギルベルトが中で待っていて、ヴィルフリートと伊織の姿に頭を下げた。


「お帰りなさいませ。いかがでしたでしょうか?」


「快癒した。失明したであろう眼も、切断した足も、伝承の通りに元通りだ。…それより、軽食と茶を。」


「それは良う御座いました。すぐ用意いたします。」


ギルベルトが頭を下げて控えの部屋に下がっていく。ヴィルフリートはソファに座り、いつもとは違い伊織を向かい合わせで座らせた。伊織はドキドキしながらも大人しくされるがままになり、ヴィルフリートの顔色を窺う。


「さて、イオリ。解っておろうな?」


「…はい、ごめんない。…でもヴィルさんが嫌いになって逃げたんじゃないよ…?」


ヴィルフリートの視線が思ったよりも静かで、伊織は素直に謝る。ヴィルフリートが溜め息を吐き、伊織の髪をサラリと梳いた。


「…余の妃は、(いや)か?」


「そうじゃない!…そうじゃないよ…僕が、勝手にヴィルさんにはいい人がいるって決めつけて…うぅん、ヴィルさんの所為にしちゃいけないよね。…僕が…責任から逃げたかっただけなんだと思う。」


僅かに傷付いたような光が瞳に走った様な気がして、伊織は慌てて否定する。心臓にツキツキと痛みを感じ、伊織は胸の前で服をきゅっと握った。

ヴィルフリートは未だ伊織の事を静かな瞳で見ていて、伊織は落ち着かなさに目を伏せて身じろぐ。


「…伊織が余から離れさえしなければ、妃などに成らずとも良いのだ。…だが、離れると言うのならば…」


ヴィルフリートが伊織の髪を梳いていた手で、伊織の後頭部を持って視線を合わせる。ヴィルフリートの瞳は怖いくらいに真剣で、そして激情を孕んでいる。

伊織の背にぞくりとした何かが走る。それは、歓喜なのか、それとも恐怖なのか、解らなかった。ただ、ヴィルフリートの瞳から目が逸らす事が出来ない。


「…余を、狂わせるな。」


ヴィルフリートの雰囲気に呑まれ、伊織は瞳を見つめたままこくりと頷いた。ヴィルフリートの手が後頭部から外れ、今度は伊織の顎にかかる。


「では、説教だ。…ギルベルト、入って良い。」


「え!?今ので終わりじゃないの!?」


ヴィルフリートが伊織の言い分に、眉を顰めた。

伊織の顎から手が外され、ギルベルトがワゴンを押して部屋に入ってくる。

ギルベルトは手早くテーブルの上にセットし、頭を下げて直ぐに下がってしまう。その間、伊織の視線に気が付いているはずなのに、一度も視線は合わせてもらえなかった。

伊織を膝から下ろし、ヴィルフリートが向かいのソファに座る。


「イオリの言い訳は聞いてやっただろう。…これは、イオリの立場に対する話だ。」


「…僕の、立場…?」


伊織が首を傾げる。ヴィルフリートは頷いて、お茶を一口飲んだ。ヴィルフリートに軽食の皿を差し出され、伊織は手にとって食べる。正直なところ、先ほどからお腹と背中がくっつきそうだった。

伊織がもぐもぐと口を動かしていると、ヴィルフリートの瞳が剣呑に細められる。


「もし、あのままイオリが戻らなかった場合だが…其方の侍女、護衛は責任を取る事になる。例え非はなくとも、な。」


「…なんで!?」


ヴィルフリートの言葉が信じられず、口に入った食べ物を慌てて飲み込んだ。ヴィルフリートの顔はなんでもない事の様に無表情で、伊織は不安気に窺う。


「攫われたとしても、逃げたとしても…侍女や護衛が気付かぬ事に問題がある。…それから、其方への見せしめの意味も持つ。イオリが(とが)を受ける事はないが、代わりに他の者が咎を受ける事となる。」


ヴィルフリートの淡々とした口調に、薄ら寒く思う。伊織は蒼褪め、ヴィルフリートを縋る様な瞳で見た。


「…今回は温情を与える。が、もし次同じ様な事があれば…誰かが、イオリの代わりになると思っておくが良い。」


「…はい。」


伊織が蒼褪めたまま、反論も出来ずに頷く。ヴィルフリートの表情は全くと言っていいほど変わらず無表情で、伊織は反論する気もなくなる。

ヴィルフリートが吐息を吐き、お茶を手に取る。その様子は先ほどまでと違い、随分気を緩めていて、伊織もホッと無意識に入っていた肩の力を抜いた。

緊張していたにもかかわらずお腹は減ったままで、次々と食べ物を平らげる。


「…いつもより、腹が膨らまぬか?」


「うん。なんか全然、足りない気がする。」


食べ物を全て食べ上げても微妙に感じる空腹感に、伊織は首を傾げる。ヴィルフリートの分も食べたので、軽食だけでいつもの食事と同じくらい食べていた。

ヴィルフリートがギルベルトを呼ぶ。


「如何なされましたか?」


「マルクスに夕食の量を何時もの倍に増やす様、伝えよ。魔力を随分使った様だ。」


「畏まりました。」


ギルベルトが一度退出した後、再び戻って来て伊織の前に焼き菓子を置く。優しげに微笑んで直ぐに下がっていった。


「…美味かったか?」


「うん!…でもまだ足りないかも。」


「もう1刻もすれば、夕食だ。」


伊織が焼き菓子も食べ尽くし、お茶も飲み干す。それでも感じる空腹感に腹を押さえた。ヴィルフリートもお茶を飲み干し、伊織の所に来る。伊織が欠伸を咬み殺していると、ヴィルフリートが伊織を膝に乗せて背中を撫でた。


「寝るのなら、夕食時に起こすが。」


「…うん。ちょっと眠い…。」


今までの寝不足が祟り、目を擦りながらヴィルフリートに身を預ける。すぐに訪れた睡眠に、意識を手放した。



「イオリ。食事の時間だ。」


ヴィルフリートに揺り起こされて目を覚ます。短時間でも寝た事によって、頭はスッキリしている。

ヴィルフリートが伊織を抱き上げて食堂に連れて行ってくれ、何気ない行動に帰って来た事を実感した。

食事を終えてもヴィルフリートと離れる気になれずに、ヴィルフリートの晩酌に付き合う。

不意にヴィルフリートが顔を上げ、伊織を見て目を細める。伊織は嫌な予感を感じ、さり気なく視線を逸らしてヴィルフリートのグラスに酒を注ぐ。ヴィルフリートはその酒をグッと一気に飲み干した。


「…仕置が、まだであったな。」


伊織の悪い予感が当たり、ヴィルフリートが獲物を前にした獅子の様に、酒で濡れた唇を舐めた。


「…僕、入浴しなきゃー…」


伊織が逃げる様にヴィルフリートの膝の上から降り、慌てて部屋の扉に向かう。


「イオリ。余から逃げられると思わぬ様に、な。」


背後から聞こえた声を無視して自室に戻る。

待ち構えていたフランツィスカと、アニエッタの代わりと言う臨時の侍女に浴室に追いやられた。

否を言う間もなく裸に剥かれ、全身綺麗に洗われる。


「あら。イオリ様、以前よりお肌が綺麗になりましたわね。スベスベですわ。」


「本当にスベスベで…羨ましいですわ。」


入浴後は入念にマッサージされ、寝間着を着せられ、ガウンを身体に巻かれて部屋を追い出される。


(…僕の部屋なのに…)


仕方なくとぼとぼとヴィルフリートの部屋に向かう。

イオリがノックする前に内側から扉が開き、ギルベルトが出てきた。ギルベルトはイオリの姿を認めて通路を譲り、中に促す。伊織は隠れる間も無く矢面に立たされて、恐る恐る中に入った。




そういえば毎日お昼前に「暴れん坊将軍」がやってるんですが、毎回将軍様の「余の顔を見忘れたか?」と言う言葉に笑ってしまう秋雨です(。-艸-。)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆★やる気スイッチ★☆

★☆ポチッとな☆★

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ