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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
紫水晶の鍵
44/94

追跡。(ヴィルフリート視点)

3章終了(*ÒωÓ)

次から4章入りまーす!


伊織の気配を感じた気がして振り返る。窓の外には宵闇が広がっており、当然ながら足場もない場所に人などいる筈もない。それでもそこに伊織が居た様に思い、窓の外を見続けた。

伊織の足取りは未だ掴めぬまま、もう日が落ちてしまっている。


「…陛下、如何なさいましたか?」


「…いや。気の所為の様だ。」


いつの間にかギルベルトが部屋に入り、ヴィルフリートを窺っていた。いつもならば入って来る時に気付くが、どうやら随分注意力を失っているらしい。ヴィルフリートは手許の書類に目を通す。伊織を誘拐した者に関する報告書で、途中経過が記されている。

報告書に依れば未だ犯人は突き止めていないが、伊織に扮したフランツィスカが王国方面に移動中の様だ。そういえば王国にはヴィルフリートより4つ下の王女がいた筈だ。


「次から次へと…煩わしい。」


目頭を押さえてゆるゆると揉む。伊織の肌に触れたのは一昨日(いっさくじつ)の筈なのに、もう随分前のように感じられる。ホラント・リーネルの一件が片付いたと思ったら、次は伊織の行方不明とは笑えない冗談だ。


「陛下、イオリ様が心配なのは解りますが…今日はもうお休みになられては如何です。食事を用意させましょう。」


「いらぬ。…良い、部屋に戻る。」


立ち上がって、もう一度窓の外を見る。遠くに白く輝く竜が見えた気がしたが、一瞬の事で見間違いだとすぐに窓から離れた。

部屋に戻ってもそのまま休む気にはなれず、一番強い酒を手に居室のソファに座る。ギルベルトがグラスを用意し、前に置くのを視線の端で捉えた。飲む前に瓶ごと()て付かせ、冷やす。


「…もう下がって良い。」


凍て付く瓶とグラスを手に立ち上がり、窓を開ける。バルコニーに置いてあるテーブルに大きな布の包みが置いてあるのが見え、ギルベルトを呼んだ。


「如何なさいましたか?…それは…」


ギルベルトが早足で近づいて、ヴィルフリートから瓶とグラスを受け取る。ヴィルフリートが包みを開くと、中には伊織に探して欲しいと頼まれていた紅い石の錠の付いた小さな箱と見た事もない果実が10個入っていた。


「…イオリ、か…?…余から、離れる心算か。」


目の前が怒りに紅く染まる。ヴィルフリートは己を律する為に掌が傷付くほど拳を強く握る。冷静に努めていると、箱と共に入っていた果実に目が行った。

先程竜が見えたと思った方角に視線を向ける。方角は北東の方で、確かその方角には神の山があった事を思い出す。この果実がもし神の山で採られたモノならば、この果実1つで国宝級の価値を持つ。


「…ギルベルト、この果実は生命の樹のモノだと思うか。」


「この形状、色、共に伝承の通りでございますが…神の山からイオリ様が採って来られたのでしょうか?ですが、あの地は竜王が守護しているはずでは。」


ギルベルトの言葉に腕を組む。もし伊織がこの果実を持ってきたのなら、伊織の居場所は解ったも同然だ。だとしても、場所が悪すぎる。

少なくとも、転移で行ける場所ではない。


「…厄介な。すぐに迎えに行く事は叶わぬな。転移で一番近い街に…そこからシリウスで行ったとしても半月は掛かるか…」


ヴィルフリートが腕を組んで考え込む。頭の中にあるのはどうやって執務を半月抜けるかである。


(…全く…、余を傾国の愚帝にする心算か。…戻った暁には、このような事が起こらぬ様仕置きをせねばな。)


ヴィルフリートは深々と溜め息を吐き、酒を飲む気も失せて居室に戻るとソファに座り込む。


「ギルベルト、果実は保管しておけ。もし生命の樹の果実なら腐らぬ筈だ。…それから遣いを出し、明日ニコラウスに登城する様にと伝えよ。下がって良い。」


「畏まりました。」


ギルベルトが果実を布で包み直し、頭を下げて部屋を出て行くのを横目で見て送り、右手で目を覆ってソファの背凭れに体重を掛ける。


「…余から離れるなど…赦さぬぞ、イオリ…」


左手の中で小箱を触りながらポツリと呟く。仄暗い感情に囚われる考えから目を背け、ただ今後の事だけを考える。半月間留守にするのなら、やる事はいくらでもあった。伊織の居場所は解った事は収穫である。

少なくとも今夜は眠れそうになかった。



----------------------------------------------------------------



夜明けと共にソファから起き上がり湯殿に向かう。結局1刻の仮眠をとったが目を閉じたのみで眠気は訪れなかった。少し熱めの湯を被り、睡眠不足を飛ばす。湯殿から出て適当な衣服を身に着け、再びソファに座る。テーブルの上には多数の書類が散らばっており、急ぐ物だけ端に寄せた。

控えの部屋からノックの音がし、ギルベルトが入ってくる。手にはワゴンが引かれており、片手で摘まめる様な軽食と紅茶が乗っている。


「失礼致します。…少しだけでも食べられては如何ですか。」


「…ああ。ニコラウスからの返事はあったか?」


ギルベルトがテーブルの上の書類を片付け、紅茶を淹れてテーブルの上に置いた。ヴィルフリートが前に置かれた皿から軽食を手に取りながら問い掛ける。


「はい。本日8刻に来られると連絡を受けております。」


「解った。ここに通せ。余が出立するまでは余の不在は秘匿する。」


「畏まりました。」


軽く食事を済ませ、ギルベルトに書類を持ってこさせる。テーブルには書類が積み上げられ、急ぎの物はギルベルトが持ってきた書類と引き換えに持っていく。

しばらくして部屋にノックの音が響く。入室を許可すると、ブルネットの髪に赤紫の瞳の初老の男が入って来る。


「…ヴィル坊、俺の娘がどうなったって?」


「ヴィル坊と呼ぶでない。」


入って来て早々ソファにどっかりと座り、鋭い視線を向けてくる。ヴィルフリートはすぐに本題には入らず、とりあえず伊織の置いて行った果実の話をする事にした。


「…その事なんだが、イオリが生命の樹の果実を持って来た。どんな傷も病も、魔力すら即座に快癒させる神の果実だ。それを10個。」


「じゅっ!?…おい、何かの冗談か?」


ニコラウスがヴィルフリートを愕然とした顔で見てくる。ヴィルフリートはニコラウスに首を振る。ヴィルフリートがギルベルトに目配せすると、ギルベルトが果実をひとつテーブルに乗せる。


「…神の果実と言えば、食べ続ければ不死になるとまで言われる霊薬じゃねぇか…」


「…1個で帝国の1年分の国家予算だな。それでだ…今イオリは神の山にいる。」


ヴィルフリートの言葉に、ニコラウスが今度こそ絶句して固まる。ヴィルフリートが珍しいその姿を眺めながらお茶を飲んでいると、正気に戻ったのか自分の髪を両手で掻き混ぜた。


「だぁぁぁ!訳わからん!上手くいってたんじゃなかったのか!?」


ニコラウスはヴィルフリートの意図を正確に読み取ったのか、呆れた目で見てくる。ヴィルフリートは些か眉を寄せて、鋭い視線で見返した。


「ニコラウス、余の所為ではないぞ。…大方、イオリの考え過ぎだろうな。」


「ニコラウス叔父様と呼べ。…バルトから聞いてる。想像力が逞しくて、予想できないらしいじゃねぇか。」


ヴィルフリートの鋭い視線を平然と受け流し、ニヤニヤしながらお茶を飲んでいるニコラウスにヴィルフリートの眉間の皺が深くなる。


「それで?迎えに行ってる間、ヴィル坊の仕事をしろって?」


「…連れ戻した暁には、イオリを邸に遊びに行かせても良い。」


「よし!いつ行くんだ?今日か?」


喜びを隠そうともしないニコラウスを苦々しく見て溜め息を吐く。

ニコラウスは既に戻ってきたイオリに自分の事を何と呼ばせるか、ヴィルフリートにしつこく話しかけてくる事に再度一段と深い溜め息を吐いた。


(…本当に留守にしても良いものか…?)


張り切ってヴィルフリートの部屋を出て行ったニコラウスを眺め、一抹の不安を感じた。とにかく、これで半月間留守にする事が出来る。

出立は明後日(みょうごにち)に定め、自分のしなければならない仕事を終わらせた。


「…イオリ、余から逃げるのなら…今度こそ逃げれぬ様にしてくれる。」


出立の前夜、バルコニーから北東に向けて呟く。

その瞳は気の高ぶりからか、真紅に染まり狂気を宿していた__。

5/10 山から街までの距離がえらいことになってたので訂正しました。

ひと月→半月


ヤンデレ風味なヴィルフリートさん(。-艸-。)

実行できる環境だから怖いですよね_(:3 」∠)_


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