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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
紫水晶の鍵
43/94

決意。

伊織ちゃんのターン!ドロー!3章次で終了!


一応当初は4章までだったんですけど、終わらせるの無理そうです(´-ι_-`)

「…ほんとに貰ってもいいんですか?」


「…うむ。約束じゃからな。…それにしても、()に美しく輝いておるのぅ…」


光物に目がないと言った通り、アナスタシアの視線は伊織の手元に釘付けになっている。名残惜しそうに箱を一撫でして目を逸らした。箱とブレスレットの光は、伊織の手に収まってしばらくして消える。


「…そういえば、盗品って…盗んだんですか?」


「妾は何もしておらぬえ?盗賊共がこの山を通る際に、盗んだモノを山に持ち込むなら通行料を払えと脅しただけの事じゃ。」


アナスタシアがころころと笑い、何気なく言い切った。伊織はその言葉にぎょっとし、そして山、という言葉に反応する。


「ここって山なんだ…どのあたりにあるの?」


「アンブロシュ王国とガルシア共和国、ユハナ連邦の間にある神の山と呼ばれるヨウィス山じゃ。遥か昔、神が怒り狂った際にここで怒りを鎮めたと言われておるのじゃ。」


アナスタシアがよくぞ聞いてくれた、と得意気に教えてくれる。質問やお願いをされるのが好きらしく、先程から伊織と会話するのを喜んでいるように感じられた。


「シアさんは、ずっとここにいるんですか?」


「妾が何処かの国に住めば、その国は力を求めるじゃろう。妾を得ようと争うのは間違いない。帝国ほどの強国には関係ないじゃろうが、な。…妾はもう争いは嫌なのじゃ。」


アナスタシアが淋しそうに顔を伏せる。そのすぐ後にヴァジムに視線を向けて微笑んだ。


「それに今はヴァジムがおるのじゃ。…妾とあの人の子はこの子だけなのじゃ。」


「…帝国なら、シアさんが住んでも問題ないの?」


微笑んでいるのにその顔がどこか淋しそうで、伊織がアナスタシアに問い掛ける。アナスタシアは驚いた顔をして伊織を見て、そして微笑んで首を振った。


「イオリの申し出は有難いのじゃが、ここを守らねばならんでの。確かに帝国ほどの強国なら問題ないのじゃが、希代の賢帝と言われる今の皇帝が許すかのぅ…」


「ヴィルさんなら、きっと大丈夫!いつも優しいし!」


「…はて?今の皇帝は氷の様じゃと聞いていたんじゃがのぅ。」


アナスタシアが首を傾げる。伊織もアナスタシアの氷の様、というヴィルフリートの印象が噛み合わずに首を傾げた。


ぐぅぅ。ぐー。


その時、伊織のお腹が空腹を訴えて鳴る。伊織が赤面しながらお腹を押さえ、アナスタシアがころころと笑った。


「果実で良ければ人でも食べられるものがあるぞえ。…話は食事をしながらにするのじゃ。」


アナスタシアが踵を返して歩き出す。ヴァジムは飛び疲れたのかアナスタシアの肩にしがみつき、伊織の方を向いて手招きした。

先程の大きな樹の所まで戻って、草の上に座る。どうやらここは樹を中心に湖が樹を円形に囲み、更に高い崖に覆われていた。

ヴァジムが樹の上の方にぱたぱたと飛んで行き、果実を5つ採ってきてくれる。果実はメロン程の大きさで、下の方は白く、グラデーションになって上の方は橙色で、甘い匂いがした。

ヴァジムは身体よりも大きな果実を器用に5つも持っている。伊織の元におりて来ると、きゅっ、と一声鳴いて伊織に果実を差し出す。伊織はお礼を言って受け取り、少し表面を拭いてからかぶり付いた。


「…甘い!何これ、すごい美味しい!」


「そうじゃろう?この樹の実はすごいのじゃぞ。魔力を回復するのもそうじゃが、腐らぬ。1年中実を付けておる(ゆえ)、イオリが欲しいならいつでもやるのじゃ。どうせ妾達はたまにしか食べぬのでな。」


アナスタシアが自分の事の様に胸を張る。ヴァジムは隣できゅぅ、と同じ様に胸を張って鳴き、伊織はその姿に思わず笑った。

ひとしきり笑って、果実を食べていると肝心な事を思い出して伊織の顔が青褪める。そう言えば自分は攫われ、逃げてここに来たんだった。


「…ねぇ、シアさん。ここから帝都って遠いの!?」


「そうじゃのぅ…帝都まで妾が飛んで半日程じゃが…伊織を乗せるにはちと難しいのじゃ…生身だと耐えれぬでのぅ。高度な結界を張れば可能じゃが。…ゆっくり行けば3日程掛かるのじゃ。」


日数を聞いて手に持った果実を落とす。幸いまだ口をつけていなかったので、無駄にならずに済んだが。伊織が絶句してアナスタシアを見つめるとアナスタシアは首を傾げた。


「そう言えば攫われたと言っておったのぅ。帝都で攫われたのか?…皇帝とも仲が良い様じゃったが…ふむ。噂の姫君と加護の主は同一人物じゃったのか。」


アナスタシアが納得した様に頷いて、伊織の落とした果実を伊織の手に乗せる。固まっていた伊織が正気に戻り、アナスタシアに渡された果実を食べた。食べている内にどんどん不安が込み上げて、涙が出そうになる。ヴァジムが励ます様に伊織の頭に乗った。


「転移すれば良いのじゃ。伊織の魔力なら十分可能ぞえ?」


「…やり方、分かんない…。ヴィルさんには聞いても教えて貰えなかったし…。」


伊織が消沈してぽつぽつと呟く様にアナスタシアに話すと、アナスタシアが腕を組んで唸る。


「…結界が張れれば妾が乗せて行けば良いのじゃが…。妾にも出来なくはないんじゃが、結界は得意じゃないのじゃ…」


「…結界…僕に張れそう?」


「魔力は十分じゃが、妾には教えれぬのぅ…そうじゃ、精霊に頼めば解決じゃ!」


アナスタシアがぽんっと手を叩いて、名案とばかりに頷く。伊織には何の事だかわからないが、どうにか帰れそうだ。


「精霊…って、この周りの子達だよね?頼むって、何を頼めばいいの?」


伊織が浮いている薄緑の小さな人型に手を添える。人型が伊織の手の上でくるくると回った。


「そうじゃ。結界を張らずとも、精霊を身に纏えば効果は同じ故。」


「身に纏うって…どうするの?」


伊織にはさっぱり理解出来ずに首を傾げる。


「頼めば勝手にやってくれるのじゃ。…自然を統べる者達よ。我が呼び掛けに応え、我を助けよ。と言うのじゃ。1つずつ魔力で文字を書く故、全部で7つぞえ。…精霊文字は解るかのぅ?」


「うん。習ったから大丈夫。…じゃあシアさんが連れて行ってくれるの?ここを留守にしてもいいの?」


伊織がアナスタシアに尋ねると、アナスタシアは頷いて胸を張った。


「妾に任せるが良いぞ。ここは少し留守にするくらい大丈夫なのじゃ。この山に来るのに、1番近い街からでも馬車で5日は掛かるでのぅ。山はさらに険しい故、この場所まで8日は掛かるのじゃ。イオリを送って行くくらい問題なかろう。」


(…これで、帰れる…?)


伊織はほっと胸を撫で下ろす。ここ数日間に立て続けで色々ありすぎて、ヴィルフリートと穏やかに過ごした日々がもう何ヶ月も昔に感じられた。

ヴィルフリートは伊織が攫われた事に気が付いただろうし、探してくれていると思う。

でももしかすると、伊織が帰らなかったら綺麗なお嫁さんを貰うかも知れない。帰らない方がいいのか、葛藤する。きっと自分はヴィルフリートとは釣り合わない。異世界の男子高校生だっただけの、ただの女だ。男の気を引く方法なんてわからないし、駆け引きなんかも出来ない。

そもそも、伊織が男のままこちらの世界に来ていたら、ヴィルフリートは伊織に構わなかったかもしれない。初めの時点で伊織は投獄させられていたかもしれないし、少なくとも愛される事はなかった。


(…それに、ヴィルさんに前世の記憶がないのなら…僕はただ突然現れただけの、不審者…)


自分の言葉が胸に突き刺さる。ヴィルフリートにはもっと相応しい女性がいるのではないか。一度でも身体を合わせた事を思い出に、このまま逃げてしまおうか。

伊織はギュッと拳を握りしめ、俯いて首を振る。


(…でも…、会いたい…。会って、声が聴きたい。…声を聴くと、きっと触れたくなる…。)


半日、たった半日離れただけでこんなにも恋しく想うのに、永遠に会えないなんて考えられない。

深刻な表情で考え込む伊織の手を、アナスタシアが包むように触れる。


「何を思い悩んでおるのじゃ?…愛する者のおらぬ世界は、身を裂かれるより辛いものじゃ。」


「…でも、ヴィルさんには僕より相応しい人がきっといるから…。」


言葉にした途端、涙が頬を伝う。やはり自分は随分と泣きやすくなってしまったようだ。元の世界にいた時は、殆ど泣いた事などなかったのに。そんな事を頭の端で考えながらも、流れる涙は止められない。


「…ならばここで、妾達と暮らすかえ?ここならば…神の地故、皇帝には手出しが出来ぬのじゃ。」


(…ヴィルさんと、離れて…僕は、本当に大丈夫?)


自問自答しても答えは出ない。でも、もし叶うのなら離れる前に一目見たい。


「…気づかれない様に、帝都に行って…そのまま帰ってくるとか、ダメ?」


「…イオリがそれで良いのなら、妾は構わぬえ。光と闇の精霊に頼めば、姿を消す事も可能じゃ。」


(…これで、ヴィルさんを見るのは…最後…。元の世界に帰る方法を探さなきゃ…。)


アナスタシアが伊織を痛ましげに見ている視線には気付かないまま、巨大な樹を見上げて流れる涙もそのままに目を閉じた。


(…箱、せっかく見つけたし…何処かに置いて来よう…)


「行くかえ?」


「…うん。…あ、この果実持って行っていい?皆に食べさせたいんだ。」


アナスタシアの返事を聞く前にヴァジムが果実を取りに行く。今度は器用に10個も一気に持って降りてきた。


「ヴァジム、ありがとう。…運ぶ為の入れ物とかない?」


「布ならあるのじゃ。ヴァジム、持って来ておくれ。イオリは精霊を纏うのじゃ。」


ヴァジムが果実を置いて布を取りに行く間に、伊織は気を落ち着かせる。深呼吸をして、宙に文字を次々と書いて行く。7つ全部書いた所で口を開く。周囲に青や緑などの光が漂う。


『自然を統べる者達よ。我が呼び掛けに応え、我を助けよ。』


伊織の周りに風や水、炎や土が揺らめきながら融合して行く。光と闇がそこに融け込み、最後に透明の人型がその融け込んだモノの周りを覆って、伊織を包む。

伊織の周りを淡い光が包み、僅かに地面から浮いている。


「流石、全属性完璧なのじゃ。さて、果実を包んで、行こうかのぅ。」


伊織が初めての感覚に戸惑っている間にヴァジムが戻ってきて、アナスタシアが果実を布で包む。

アナスタシアが変化を解き、どんどんと大きくなって竜の姿に戻る。伊織が恐る恐る背中に乗ると、ヴァジムが果実の入った布を持って伊織の隣に座った。その布の中に箱をそっと入れる。


――では、出発なのじゃ。


アナスタシアの翼の羽ばたきと共に、ぐんぐんと地面が遠くなって行く。巨大な樹を超えてからは、どんどんと速度が上がり雲の上に出た。尚も上がる速度に目を開けているのが怖くなり、目を閉じる。風も寒さも感じないのに、景色はあり得ない速度で流れて行く。目を閉じると眠気が訪れ、今度は目を開けようと瞬きした。


――イオリ、眠っていてもいいぞえ?精霊を纏っておれば落ちる事もないしのぅ。


「…うん。ちょっと疲れてるみたい…。」


伊織はそのまま目を閉じ、堕ちていく意識に身を任せた。



----------------------------------------------------------------



――イオリ、もう着くのじゃ。


直接意識に話しかける様な声に目が覚め、目を擦りながら身体を起こす。辺りはもう薄暗くなっており、眼下には街の明かりが灯っていた。


「…どうやって降りればいいの?」


――ヴァジムに連れて行って貰うと良いのじゃ。


ヴァジムがキュウっと鳴いて、伊織の背中にしがみ付く。果実と箱の入った布を伊織が抱えると、ヴァジムがぱたぱたと城に向かって飛ぶ。


「ちょ、ちょっと待って。僕…見えてる?」


――大丈夫だえ。ちゃんと見えぬのじゃ。


アナスタシアの言葉にホッとしてヴァジムに声で場所を教える。ヴィルフリートが見れればいいので、執務室に行く事にした。


(…いるかなぁ?)


伊織を探しているのなら、いないかもしれない。こっそり窓を覗き込む。


(…あ、いた…けど、後ろ姿…。)


伊織ががっくりと肩を落とす。窓を叩いたりする訳にもいかず、後ろ姿をじっと見詰める。するとヴィルフリートが勢いよく振り返った。伊織は見えていないと解っていながらも、どきりとして肩が跳ねる。


(…ヴィルさん…赦して…)


止まった筈の涙が溢れてくる。ヴァジムに小さく声を掛け、訝しげにこちらをずっと見ているヴィルフリートの視線から目を逸らして窓から離れた。

ヴィルフリートの部屋のバルコニーに荷物を置いて、アナスタシアのところに戻る。


「…さようなら、ヴィルさん…。」


もう一度城を振り返り、小さく呟く。

アナスタシアに合図して、その場を後にした。





5/10 ちょっと街までの距離が計算したらえらいことになったので、訂正しました!


ぬーん!


あ、是非とも酷評でもなんでもいいので、感想もしくは活動報告にコメントください(*ÒωÓ)

ちょっと交流したい系作者(面倒くさいやつ)なので、テンション上がります(๑ↀᆺↀ๑)

ついでにモチベーションもあがるかも。

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