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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
紫水晶の鍵
42/94

時既に遅し(ヴィルフリート視点)

今日は何とか間に合った(*ÒωÓ)

そう言えば、設定の方に作者の下手な絵を載せました( ꒪⌓꒪)

イメージが破壊されるとかがありましたら、作者の方に連絡下さい。

速攻下げますので!

――主よ、実に久しいではないですか。


「話は後だ、緊急の用がある。」


厩舎の一番奥に入ると、シリウスが話し掛けてきた。シリウスは巨大な狼で、フェンリルと呼ばれる種族だ。突然変異で黒い毛皮を持ち、群れから見放されていた所を父が拾ってきてヴィルフリートの騎獣となった。知能が高く鼻も利く上に身体能力も高い。目立つ為、滅多に乗らないが。

シリウスが伏せた横からギルベルトが騎乗具を取り付ける。と言っても、首輪に手綱を付けるだけで終わるので、すぐに騎乗できる状態になった。


「南西へ向かえ。…この匂いを追うのだ。」


伊織の作ったという人形をシリウスに嗅がせ、背中に飛び乗る。シリウスが身体を起こすと鼻をひくひくと動かした。


――血の臭いがする。…追うのは娘ですね。


「血の臭いとはなんだ。」


シリウスが走り出しながら再びに鼻を動かす。


――人ではない…馬ですね。結構出血しているようだ。血の臭いがきつくて、娘の匂いが分からないです。


「…解った。まずそこに向かえ。」


シリウスが城下に下り、滑るように駆け抜けていく。人々が唖然と見ていたようだが、ヴィルフリートは気にも留めずに門に向かう。騎士がヴィルフリートの姿を見て慌てて門を開く。ぶつかる直前で門が開き、開かなければブチ破るつもりだったヴィルフリートの瞳が真紅に染まっていた。


――主、急ぎ過ぎではないですか?小生の足だと4半刻ほどで着きますよ。


「もう既に3刻近く経つ。無駄口を訊く前に最高速で走るのだ。」


能天気なシリウスを叱咤する。シリウスの言う通り、4半刻もせずに、放置された馬車と馬が座り込む場所に着く。そこには血が広がっているが馬には怪我がない様だ。


――何があったか話すのだ。


シリウスが馬に話を聞いているようで、馬が嘶く。シリウスが耳を傾け、時折鼻を鳴らす。話を聞き終えたのか、シリウスが馬に繋がれた馬車の連結具を爪で破壊した。


――主、ここで男2人が馬車を捨てて娘を連れて行ったようです。馬の怪我は娘が直してくれたと言っていますね。娘はその後、魔封じの魔道具を付けられたようです。


「どっちに行ったと言っている?」


ヴィルフリートが幾分イライラしながら問う。シリウスが馬に聞いて森の奥に向かって鼻を動かした。


――この先ですが、水の匂いがしてそこで途切れてますね。…微かに娘ではない人間の匂いがします。


「…どういう事だ。ここまで、普通の馬で1刻程。馬車でも2刻もすれば着く筈だが。まぁ良い、そこに行け。」


シリウスが再び走り出す。

程なくして川に突き当たり、そこから上流に向けて走って行くと破壊され尽くして板切れと化した木材と男2人が対岸にいた。伊織の姿は見えず、男達は気絶している様だ。

ヴィルフリートはシリウスに対岸に行く様に指示し、剣に手を掛ける。

シリウスが軽く跳躍し、男達のすぐ脇に着地した。ヴィルフリートはシリウスの背から降り、バルトロメウスに風魔法で伝言を送る。


「シリウス、1人だけ起こせ。」


周囲に結界を張り、シリウスに命令して剣を構えた。シリウスが低く唸って脚で軽く蹴る。男が飛び起きて辺りを見渡した。

ヴィルフリートは起きた男の首に剣を突き付ける。


「…大人しく、喋るのが身の為だ。」


首を軽く剣先で突き、男を脅す。男は状況が理解出来たようで、両手を上げて溜め息を吐いた。


「おかしいと思ったんだぜ。城と言う割には警備が薄くてよぉ。…あんたが皇帝、ヴィルフリート・リーツ・ヴェルディルードね。あんたが相手だから、あの程度の警備な訳か。」


「御託はいい。イオリはどうしたのだ。」


剣を持つ手に力が入り、剣先がわずかに皮膚に食い込む。血が流れるが、男は平然とヴィルフリートを見ている。


「死にたいらしいな。」


「…あの女なら、ここにはいないぜ。川に落ちて消えたからな。」


男がふてぶてしくヴィルフリートを睨み付け、舌打ちした。嘘は吐いていないようで、シリウスが頷く。


「消えたとはどう言うことだ。」


「…知るかよ。急に光ったと思ったら、どこにもいなかった。…そのあとはこの様だ。あの女は余程精霊に好かれてるらしい。」


男が顔を背ける。その際に首の剣がかすり、傷が横に広がったが気にする様子はない。シリウスに指示してもう一人も起こす。起きた男はヴィルフリートを見て、喚き始めた。


「てめぇ!何しやがる。殺すぞ、クソが!」


「煩い。おい、黙らせろ。」


「…やめろ、ラルフ。俺達じゃこいつには勝てねぇ。」


ラルフと呼ばれた男がヴィルフリートが剣を突き付ける男を見て、イライラと舌打ちした。


「…ロルフ、こいつはどう言うことだ!」


どうやらこいつはロルフと言うらしい。ロルフが溜め息を吐いた。


「見てわかんねぇのかよ。失敗したんだ。」


「…こいつくらい、俺らで殺すくらいできるだろうがよぉ!」


尚も吠えるラルフにヴィルフリートが一気に距離を詰め、蹴りを入れる。ラルフが派手に飛び、結界に衝突してずり落ちた。


「口を慎め。貴様を殺すくらい、10秒あれば事足りる。」


「…て、めぇ…」


ラルフが起き上がって、剣を抜く。ロルフが立ち上がるのが見えたが、シリウスが唸って牽制した。


「…抜いたな?貴様は余程死にたいらしい。」


「やめろ!ラルフ!」


「どうせ、ここで死ぬか処刑されるかの差だろ?」


ロルフがシリウスの牽制を振り切ってラルフの前に立ち、ヴィルフリートに向き直った。


「こいつはバカだ。無視して欲しい。…女が消えた時、光が東に向かったように見えた。…俺達は雇われただけだぜ。」


「それだけの手掛かりで、余が赦すと思うておるのか?そもそも、侯爵以上の親族を害するのは死罪だ。イオリは公爵令嬢。その事を知らぬ訳ではあるまい?」


ヴィルフリートの言葉にロルフが気色ばむ。ラルフは意味がわかっていない様で、首を傾げている。


「成る程。何も知らされずイオリを攫ったのか。大方、余を誑かす女を捕らえて来れば金を払うとでも言われたのだろう。」


「…その辺りだぜ。俺達は約束の場所で女と金を引き換えにする予定だった。それが無理なら、女を殺せば金を貰える手筈だった。依頼してきた奴は知らねぇ。マジだぞ!」


「その者達を利用いたしましょうぞ。」


ロルフがめんどくさそうに口を開く。ラルフはやっと状況が理解出来たらしく、剣を捨てて不貞腐れていた。そこにバルトロメウスとコンラート、イグナーツが来て、結界の外から声を掛けて来る。


「受け渡し場所に来るものを付ければ、誰が依頼したか分かりましょう。」


「イオリ様の代わりは、フランに変化を掛ければ何とかなるでしょう。…それに、この者達は殺すには少しばかり惜しいです。ドーレス兄弟と言えば、こっちの世界では有名なので。」


「成る程。利用価値はあると言うことか。だが、裏切らぬ保証はあるまい?」


ヴィルフリートの問い掛けにロルフが慌ててラルフの頭を抑えて跪いた。コンラートがその様子に腕を組み、何か考え込む。


「…裏切りはないでございましょうな。心配でしたら、カロッサの秘術を施しましょう。」


「丁度、我が一族としても王国の動向が気になっていましたので。」


コンラートもイグナーツも殺すのは反対の様で、一様にラルフとロルフを庇う。ヴィルフリートが溜め息を吐いて剣を納めた。


「…好きにしろ。イオリが戻れば、それで良い。余は先程の作戦には参加せぬ。城に戻る。」


「はっ!必ずや、作戦は成功させて見せます。」


ヴィルフリートが疲れた様に投げやりに言い捨て、結界を解くと身を翻した。背後からコンラートが声を掛けて来る。ヴィルフリートは返事は返さず、シリウスに跨った。


(…余は、また待つしかないのか…。)




ヴィルフリートさんのイライラしたところを書きたかっただけ←

あと、活動報告にいろいろ書いてますのでもしよければ覗いて見て下さい♡

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