棚ぼた
つぎはヴィルフリートさん視点予定(*ÒωÓ)
そういえば活動報告の方に伊織ちゃんのイラストを上げてるんですが、設定の方に載せた方がいいでしょうか?
頬に何か温かくぬめりのあるモノが触れたのを感じて、伊織の眉が寄る。過去に経験のあるような感覚で、少し懐かしいような気がする。全身が痛くて、頭も重い。特に薬が切れたのもあるだろうが、身体を冷やした事により下腹部がじくじくと痛い。
「…うっ…いた…い…」
あまりの痛さに呻き声が漏れ、ゆっくりと瞳を開く。そこには白い小さな羽の生えたトカゲが金色の目で至近距離から伊織を見ていた。伊織が驚きのあまり、声にならない悲鳴を上げる。その生物は伊織の驚きを余所に嬉しそうに伊織の頬を舐めた。舐められない様に慌てて身体を起こし、キョロキョロとあたりを見渡す。
(…な、なに!?…ここどこ!?)
――起きたようじゃな。急に現れるから驚いたのじゃ。
急に背後から声がして、恐る恐る振り返る。そこには真っ白な鱗の巨大な身体と羽を持つトカゲが伊織を見下ろしていた。伊織がまたも声にならない悲鳴を上げる。どこからどう見ても伊織の世界では伝説上の生き物とされていた竜である。どうやら自分が転移したところは竜の住処だったらしい。
――さて、お主は何故ここに来たのじゃ?
「…えっと…」
直感的に嘘は吐かない方がいいと思い、伊織はここに来た経緯を始めから詳しく目の前の竜に話した。その間も小さな竜は伊織の膝に乗ったり手にじゃれ付いたり、背中をよじ登ったりしている。だが伊織はそれどころじゃなく、不調すぎて座っているのも辛い。竜も顔色の悪さに気が付いたのか、話の途中から小さな竜を窘めた。
――これ、やめんか。お前は葉を取ってきておくれ。
伊織が話し終え、竜を見上げた。竜は何か考えている様に目を閉じている。
――…お主の話はよう解った。まずその身体を癒すのが良かろう。やれやれ、否に精霊が騒いでおるから何事かと思えば。…おや、持ってきたようじゃな。
竜の視線が伊織から逸れ、伊織の背後を見ている。伊織が竜の視線を辿って振り向くと、そこには3~4歳くらいの小さな男の子が立っていた。伊織に向かって葉っぱを差し出してにっこり笑う。
伊織が困惑して竜を振り返れば、竜がふう、と息を吐いて何事か呟く。すると竜の身体が見る見るうちに小さくなり、美しい女性に変化した。
「…まずはお主の怪我を治癒せねばな。それにその魔道具も外してやろう。服も着替えねば。」
女性がおもむろに伊織を抱き上げて歩き出す。始めは降ろしてくれるよう言っていた伊織だが、呆れた様な視線で歩けないだろうことを指摘され、すごすごと引き下がる。小さい男の子が葉っぱをひらひらさせながら目の前を先行して歩いて行く。
外から光が差し、洞窟だった場所が一転して巨大な樹の生えた場所を湖が取り囲んだ不思議な空間に出た。男の子が持っている葉っぱはあの樹の葉っぱのようだ。女性が伊織を抱いたままトン、っと軽く水の上を飛んで、樹の側に伊織を下ろす。
「ヴァジム、それをおくれ。それからその娘が着る服を持ってくるのじゃ。」
「…あの子って、さっきの小さい竜ですか?」
男の子がこくこくと頷いて足取り軽く来た道を戻っていく。伊織が女性に尋ねると、女性が鷹揚に頷きながら手に持った葉に湖の水を掬う。それを伊織に差し出した。
「飲むのじゃ。傷がたちまち癒えるぞよ。…あの子はヴァジム。妾の子じゃ。」
零れない様に差し出された水に口を付ける。すると途端に痛みがなくなり、立ち上がれないほど痛かった下腹部の痛みもなくなった。
「すごい…!何処も痛くない!」
「それは良かったの。さて、身体を洗うのじゃ。ここの湖で洗えば、痣や傷痕なども綺麗に消え去るぞえ。妾の美しさの秘訣じゃ。」
伊織は促されるまま服を脱ぎ、下着に手を掛けるところで月経になっている事を思い出して女性を見る。
「気にしなくて良いのじゃ。ここの水はこの樹が即座に浄化する。それにお主の血なら害もないのじゃ。」
言われるままにすべて脱ぎ、水に足を踏み入れる。水は少し温めで、入っても寒くはなさそうだ。水が腰上まで浸かる程歩き、手で身体を洗う。思い切って水に潜ると、澄み切った水の中に水色の小さな人型が沢山伊織の周りを泳いでいた。人型が伊織の身体にくっ付くと汚れが落ちていく。息が続かなくなり、水面に顔を出すと、小さな竜のヴァジムがパタパタと羽ばたいて伊織の前にいた。伊織が驚いて体勢を崩すと、水が流れを作って受け止めてくれた。
「これ、ヴァジム。驚かしてどうするのじゃ。さて、もう上がるのじゃ。…ん?なんという名じゃったか?」
「あ、名乗ってなくてごめんなさい。イオリです。イオリ・ディーゲルマン。…あの、貴方は…?」
「妾は、アナスタシアと言うのじゃ。シアで良いぞ」
伊織が水から出ながら女性に答える。女性は伊織に布を差し出してくれた。それで身体を拭き、身体に布を巻いて今まで使用していた下着を湖で洗う。血が湖に広がるが、それは瞬時に色を無くして透明になる。
「さすが、すぐに吸収されたのぅ。どれ、乾かしてやろう。」
洗った下着を横から奪われ、アナスタシアがそれを宙に投げた。アナスタシアが両手をかざすと円を描いて風が吹き、下着がかざされた手の間を舞う。暫くしてふわりと浮きあがり、アナスタシアの手に戻る。伊織に渡された下着は完全に乾いていた。
「ありがとうございます。…どうして僕にこんなに優しくしてくれるんですか?」
「加護があるからじゃ。…まぁ人間には効果が薄いようじゃが、妾達は基本的に本能に従っておるでな。」
「加護…?いったい何の…」
アナスタシアは答えるつもりはないようで、意味深に笑っている。伊織は仕方なく下着を身に着け、渡された服を着た。渡された服はロング丈のワンピースで、太もものところからスリットが入っている。
「さてと。お主はこれからどうするつもりじゃ?そうそう、礼はお主が付けておった紫の石の付いた腕輪で良いぞ。妾は光物が大好きでのぅ。」
「…あれはあげられません。他のじゃダメですか?」
アナスタシアの言葉にぎょっとし、慌てて腕を後ろに隠して首を振る。アナスタシアは残念そうにちらちらと伊織の腕を見るが、諦めたように溜め息を吐いた。
「そうじゃのぅ…そうじゃそうじゃ!お主の魔力を魔晶石に込めてくれんかの。きっといい色なはずじゃ。…そういえばその枷を外さねばな。動くでないぞ。」
アナスタシアは目を輝かせて伊織を見るが、伊織の首と腕に枷が付いているのを見て不快そうに眉を寄せる。枷を両手で左右に引き裂くように力を込めて外してしまった。首も同様に枷が外され、伊織の身体が急に軽く動きやすくなる。
「さぁ、魔晶石に魔力を込めるのじゃ。妾の気に入る色なら、妾のコレクションから一つお主にやっても良いぞ!」
アナスタシアが伊織を抱き上げて湖を飛び越え、降ろすと再び洞窟に入っていく。伊織は後を追いかけて小走りに付いて行った。伊織の後ろをヴァジムがパタパタと羽ばたいて付いてくる。思った以上に好かれている様だ。
先程伊織が倒れていた広間とは別の場所に出る。広間には金銀財宝が所狭しと置かれ、壁に取り付けられた明りに反射してきらきらと光っている。
「あったあった。これが魔晶石じゃ。これに魔力を込めてくれんか。色が変わるまでしっかり込めるんじゃぞ。魔石と違って蓄積容量が多いからのぅ。」
「これって…」
つい最近、見た覚えがある。あれはどこだったか。
(…思い出した!泉の周りに生えてたやつ!…あれって魔晶石っていうんだ…)
「どうしたのじゃ?早く妾に見せてくれんかのぅ…」
アナスタシアに急かされて魔力を込める。中々色は変わらず、伊織の魔力はどんどん石に吸われるのを感じた。これ以上魔力を使ったことがない、と言うところまで吸われ、やっと色が変わる。魔晶石は金色に輝き、アナスタシアが歓声を上げる。
「これじゃこれじゃ!妾の大好きな色なのじゃ!ヴァジム、お主の目と同じ色じゃぞ。…約束通り、ここにあるコレクションから好きなもの1つ持って行っていいのじゃ。」
「…うーん。助けてもらったし、別にいら…あっ!」
伊織が断ろうとした時伊織の腕に付いたブレスレットが輝き、共鳴するかのようにコレクションの山の中から紅い光が漏れて見えた。アナスタシアが首を傾げて山を掻き分ける。中から紅い石の錠が付いた箱が出てきた。
「…ふむ。500年ほど前に王国の奴から奪った盗品じゃな。…綺麗に輝いておるのぅ…これにするのか…?」
アナスタシアが名残惜しそうに伊織に箱を見せた。伊織の腕に付いたブレスレットの石が一層輝き、箱に付いた石と共鳴する。
(…イレーネが言ってた箱…!)
棚ぼたラッキー?




