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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
紫水晶の鍵
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ピンチ!

うわあああああ!

クオリティひくいかも…元々低いけど!

いつも以上に…

「……〜〜〜っこうに起きないが、大丈夫なのか?」


「別に薬の量は間違ってねぇよ。効きやすい体質だったんじゃねぇか?」


(…頭、痛い…)


薬の影響か、それとも何処かでぶつけたのか、頭がガンガンと痛む。ついでに下腹部もつきつきと痛い。朝に飲んだ薬茶はまだ効いている様だが、それもすぐに切れるかもしれない。

今が一体何時なのか、ここはどこなのか。それから…アニエッタとリタは自分を裏切ったのか。


(…でも…僕、アニーの声もリタの声も聞いてない…)


話しかけても返事はなかったし、部屋の前でも頭を下げられただけだ。いつもは会話があるのに、珍しく黙っていた上に道が違ったから不安になったのだ。

伊織がうっすらと目を開けると、中肉中背の目つきの鋭い男がいた。話し中の様で伊織には意識は向いておらず、御者と話している。

起きた事がばれない様に、視線だけで見渡す。どうやら馬車の荷台の様で、木枠に布が張ってある。先日乗った馬車とは違い、ガタガタと揺れる。振動にあちこちが打ち付けられて身体が痛い。もしかしたら痣になっているかも知れない。先日から痛い事ばかりのような気もする。


(…2人相手じゃ…逃げられないよね…)


「そっれにしても、金額の割りには呆気なく拉致れたよな〜。侍女と護衛に化けただけで付いて来てくれて、楽だったぜ。」


「あぁ、前金に1人100万フィロ、成功時に200万フィロだもんな。失敗しても殺せば50万フィロはくれるっつってたし。」


伊織はまだ意識が戻っていないふりをして、聞き耳を立てる。話の内容を聞く限り、アニエッタとリタに変化していたのだろう。道理で喋らなかった訳だ。


「…なぁ、いっそこの女マワさないか?」


「確かに皇帝がハマる程の上玉だが、200が50になるのはな…」


男たちの会話にぎくりとする。つい先日の一件を思い出し、無意識に身体が震えた。馬車の振動もあり、気が付かれないだろうが思わず掌をギュッと握る。その時急に馬車が大きく揺れ、速度が上がった。道から外れたようで、振動も酷くなる。伊織は腰を打ち付けて呻き声を上げた。


「おい!どうなってやがんだ!ちゃんと制御しろ!!」


「わかんねぇ!急に暴れだした!おい、やべぇぞ!!」


男達が(にわ)かに騒ぎ出す。男の舌打ちが至近距離で聞こえ、驚いて目を開けてしまった。男は伊織が起きたのを見ると、にやりと笑う。馬車が急に止まる。


「おい、今ので女が起きたぞ。」


「そうか。こっちもやっと大人しくなった。ちっ!もうちょっとで乗換地点に着くってのに。」


男が伊織を小脇に抱えて馬車から降り、御者台の方に回った。馬が2体横向けに倒れ、怪我をして大量の血を流している。止める為に傷つけた様で、放って置けば死んでしまうだろう。


「…酷い…!」


伊織ががむしゃらに暴れ、男の手を引っ掻いたり脚を蹴る。男は舌打ちして伊織を持つ手を離した。急に手を離され、そのまま落ちてペシャリと地面に這い(つくば)る。自分の手や膝には構わず馬に近寄ると、馬が伊織を見た気がした。

首をそっと撫でると弱弱しく鳴く。振り返って男を睨み付け、怒りに耐えるのに唇を噛みしめた。


(…ひどい、ひどい、ひどい!どうして傷付けるんだ!)


もう一度馬の方を向いて手をかざす。一度も使用した事がないが、伊織には治癒の適性があると教師のゲルダが言っていた。


『彼の者が持つ大いなる治癒の力よ。我が魔力を糧とし、彼の者を癒せ。』


何とか集中して手に魔力が集まるが、加減が分からず金色の光が溢れ出す。馬の傷は見る見るうちに治り、ほっと息を吐いた直後に手首を吊り上げられた。


「…こんな治癒見た事ねぇ。引き渡すよりこの女売った方が高くつくんじゃないか?」


「それもそうだな。こんだけ上玉で治癒まで使えるとなれば、いったいいくらになるだろうな。…その前に客に売れるかどうか、味見しねぇと。」


男達が下品な笑いを浮かべ、伊織を嘗め回すようにねっとりとした目付きで見る。伊織の身体がガタガタと震え、喉から引き攣った声が出た。

2人いる男の御者をしていた男が肩を掴んで止める。2人並んで気付いたが、御者の男も伊織の腕を掴んだ男もよく似た顔をしている。双子なのかもしれない。


「おい、後にしろ。引き渡すにしても、売るにしても一度隠れ家に戻るぞ。」


腕が離されてホッとしたのもつかの間、腕と首に枷を付けられた。身体が急に重くなった様に動きづらくなった。


「魔封じの魔道具だ。これを付けている限り、うまく魔力は使えねぇ。」


「身体が重い気がするだろ。これの効果だぜ。…行くぞ。」


御者をしていた男が伊織を肩に担ぎ上げ、そのまま走り出す。男が1歩前に進む度にお腹が圧迫されて、苦しい。それに加えて、薬による頭の重みと下腹部痛で脂汗が滲み出て来た。

まだ起き上がれない様だが、馬が顔だけ上げて伊織を見ている。馬が嘶き、励まされた様な気がした。


(…大丈夫、きっとヴィルさんが助けてくれる…)


伊織は祈る様に枷の付けられた両手を組む。紫水晶のブレスレットが付いたままになっているのを見てハッとする。


(…魔封じって言ってたよね…やっぱり使えないかな…?)


ヴィルフリートがこのブレスレットには転移の能力があると言っていたから、もしかすると使えるかもしれない。もし1人になれたら、一か八か使って見ようか。

伊織は歯を食いしばって決意し、ブレスレットを撫でる。紫水晶が微かに光ったような気がした。

男達が止まり、伊織を降ろす。目の前には川があり、小船があった。どうやらこの小舟に乗って移動する様だ。


『水よ。我が呼び掛けに応え、我を助けよ。』


男が宙に魔力で文字を書き、詠唱する。水が渦巻いて魔力の文字を掻き消し、すぐに何事もなかったかの様に、穏やかになった。


「…おい、どうなってやがる。ロルフ、お前魔力足りてんのか?」


「当たり前だろ。精霊を使役する為に襲撃はお前がしたじゃねぇか。」


男が再度先ほどと同じ手順を踏むが、やはり水に掻き消された。伊織の視界に映る、小さい水色の人型が男に向かって舌を出している。


「…くそっ!どうすんだよ!」


「…さっきからおかしいと思わないか?馬が暴れたり、精霊が使役に応じなかったり。…この森に入った直後には、木が急に倒れて来たり。」


ロルフと呼ばれた男が思案しながら、もう1人の男に問い掛ける。男はわかっていない様で、イライラと地面を蹴った。


「おい、どういうことだよ!」


「…その女、特殊な加護とか持っていたりな。」


ロルフが伊織を顎でしゃくる。男が伊織の首を持って、つま先立ちになるまで持ち上げる。気道を塞がれて息苦しさに呻く。


「このクソアマ!」


「おいやめろ、ラルフ。加護ならその女がやった事じゃねぇ。」


ロルフが止めに入り、急に手が離されて一気に入った空気に咳込む。ラルフと呼ばれた男が舌打ちする。


「とりあえず船に乗れ。行けるとこまで行くぞ。」


ロルフが伊織を担いで船に乗り、伊織を降ろしてオールを持つ。オールは2本あり、1本をラルフに渡した。


「加護持ちに精霊が危害を加えたりしねぇ。この女が船に乗ってる限り、妨害はあっても転覆はないだろ。」


「…くそ、ここまで予定の時間の3倍はかかってるんだぞ!このままじゃ隠れ家に着く前に捕まんだろ!」


ラルフが苛立たし気にオールを漕ぐ。どうやら口調こそは同じだが、性格は正反対と言っていいほど違うらしい。


「文句言ってないで漕げ。まだ方角までは突き止められてないはずだ。」


(…飛び込んで泳げば…少しは時間を稼げる…?)


伊織は男の気が逸れるのを待って、大きく息を吸い込んで船から落ちる。水色の人型が伊織を船から遠ざける様に流してくれ、伊織は流れに身を任せた。呼吸が苦しくなった時、ブレスレットが光り、伊織の意識は光と共に消えた。

一応詠唱あったんですよ。文字数増えちゃうのでカットしてただけで…。

ちなみに精霊に頼む精霊魔法は自分が適性のある属性しか使えませんが、魔力消費は普通の魔法より少ないです。

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