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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
紫水晶の鍵
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危険対策?

ちょっと短め…切りがなかなか宜しくなくて!

うーん。文章って難しい。

(…ヴィルさんの…妃…?…僕を?)


確かに離れ難いが、そうなると話は変わってくる。何と言っても相手はこの国の皇帝陛下だし、伊織は公爵家の養女とは言え元々一般市民。そもそもリアルに住む世界が違う。伊織が元の世界に帰った場合、皇妃がいなくなると言う事態になる。


「…僕…まだ覚悟、できないよ…」


「返事をすぐにとは言わぬ。これは余の勝手だ。」


瞳を困惑に揺らして呟く伊織に、ヴィルフリートが自嘲気味に笑う。

ヴィルフリートが皇帝陛下でなければ、もしかしたらすぐに返事をしていたかもしれない。それほど惹かれているのに踏み出せない自分を、浅ましく思う。


「イオリ、気にしなくて良い。もう起きる時間だ。支度しよう。」


「…うん。…ヴィルさん…僕、ちゃんと返事するから…」


支度に伊織の元から離れようとするヴィルフリートの手を握り、上目遣いに窺う。ヴィルフリートが伊織の手を握り返し、離して部屋を出ていった。

入れ替わりで入って来たアニエッタとフランツィスカによって支度をされ、いつもの通り朝食をとった。

朝食後、ヴィルフリートに促されて執務室に行く。

珍しくヴィルフリートの膝の上でなく隣に座らされ、逆に緊張する。それから間もなくノックの音がして、ロマンスグレーの髪に薄茶色の瞳の男性が入って来た。

男性はギルベルトにソファに促されて伊織の正面に腰を掛け、まっすぐ伊織を見詰め、微笑んだ。


「ふむ、君が噂の姫君だの。私はライヒアルト・グリュンマー。神官長をしている。そして、君の後見人だ。」


「は、初めまして。イオリ・ディーゲルマンです。」


優しげに笑うライヒアルトに伊織が慌てて返答する。

年齢を感じさせず、まっすぐに伸びた背筋と優しさの中にある鋭さに緊張して喉が渇いた。

ギルベルトが3人の前にお茶を置き、壁際に立ったのを皮切りにライヒアルトがヴィルフリートに視線を向ける。


「…さて、陛下。今回ばかりはちゃんとした返事を返して貰いますぞ。…不穏な行動にはお気付きでしょう。」


「…議会で既に決まった事であろう。イオリには何の落ち度もない。」


ヴィルフリートが無表情にお茶を手に取りながら、ライヒアルトに視線を返す。ライヒアルトの眉が僅かに動き、口元も横に結ばれた。


「…どこの馬の骨かも分からぬ者が寵姫なのは問題ではないかという声も出ておりますぞ。」


「言わせておけば良い。そもそも、皇妃を貴族から娶らねばならないという決まりはない。それどころか過去の皇帝の内、平民から皇妃を娶った皇帝も少なくないではないか。」


ライヒアルトの発言に眉を寄せ、鋭く睨み付ける。ライヒアルトが腕を組んで唸った。伊織はハラハラしながらなるべく気配を消して、様子を窺う。ライヒアルトがちらりと伊織を一瞥した。


「…イオリ様は、今のままで良いのですかな?普通の貴族令嬢はもっと自由ですぞ。」


「ライヒアルト。騒いでいる者達に伝えるが良い。文句があるのならば余が議会で直接聞くとな。」


ピリピリとした空気に、伊織は不安気にヴィルフリートとライヒアルトを見比べる。ヴィルフリートが伊織の肩を抱いた。


「…其方の立場も解っておる。イオリが心配な事も。だが、余に直接言う度胸もない者達に気を使う事もあるまい。」


「そうは言いますがの、陛下に直接言える者も中々いないでしょうぞ。この様に愛らしいイオリ様に被害が行かぬかも心配だしの。」


ライヒアルトが溜め息を吐き、ヴィルフリートに呆れた様な視線を向ける。ヴィルフリートが鼻で笑い、伊織の肩を引き寄せる。伊織が体勢を崩し、ヴィルフリートの胸にしな垂れる形になった。伊織が慌てて腕を突っ伏そうとするが、腕力の差にビクともしない。


「…仮にも、後見人の前ですぞ。…イオリ様、やはりこの爺の邸に住まないですかのぅ…」


ライヒアルトが伊織に名残惜し気に話し掛け、伊織はヴィルフリートの顔を見る。ヴィルフリートは眉を寄せて、伊織を抱き寄せる腕の力を強めた。


(…自分が危ないかもしれないのに…嬉しいなんて、不謹慎だよね…)


つい嬉しくて口元を緩めてしまい、ばれない様に引き締め直す。向かいのライヒアルトが溜め息を吐いた。


「…無理そうだの…。それにしても殿下、変わりましたな…」


「…もう殿下ではない。」


心なしかムスっとしたヴィルフリートにライヒアルトが苦笑いを零す。


「どうやら、私は未だに好かれておらん様だ。そうは思わんか?」


ライヒアルトが茶目っ気たっぷりに伊織に向かってウインクする。伊織は目をぱちぱちとさせて首を傾げる。どうやらあまり触れたくない話題らしく、ヴィルフリートが咳払いをした。


「兎に角、伊織は城で住まわせる。護衛も付けた事だ、まず間違いはなかろう。…城に入る人物は徹底的に騎士に調べさせる。」


「…イオリ様に会えただけ良しとしますかな。…じゃがそろそろ、ニコラウスが限界ですぞ。」


ヴィルフリートが溜め息を吐き、ライヒアルトから視線を逸らす。


「…ニコラウスに来れば良いと伝えておけ。」


「承知しましたぞ。さて、私はもう(いとま)するとしようかの。」


ライヒアルトが冷めてヌルくなったお茶を一気に飲み干し、立ち上がって一礼した。伊織に微笑んで、扉に向かう。


「…ニコラウスに甘いものが好きだと伝えるが良い。」


ギルベルトが扉を開け、去ろうとするライヒアルトにヴィルフリートが話し掛ける。ライヒアルトはふぉふぉっと笑って了承し、軽快な足取りで帰って行った。

ヴィルフリートが疲れた様に吐息を零し、伊織を膝に乗せた。


「…あの者は余の教育係だったのだ。余の事をよく知っておる分、やりにくい。」


「そうなんだ。優しそうな人だよね。」


伊織の発言にヴィルフリートの眉間に皺が寄る。


「…食わせ者だが、な。」


ヴィルフリートがお茶を飲み干したのを見て、伊織は膝から降りる。

話も終わった事で、執務があるだろうと伊織はヴィルフリートに声を掛けて部屋を出た。執務室の前ではアニエッタとリタが待っており、伊織の姿を見て頭を下げる。

リタが斜め前を歩き、アニエッタは斜め後ろを歩いた。部屋に向かう道がいつもと違う事に気付き、首を傾げてアニエッタを振り返る。


「ね、アニー。こっちって僕の部屋の方に行くっけ?」


アニエッタは答えず、薄ら寒い笑みを浮かべる。伊織が驚いて足を止めると、後ろから何かで口を塞がれた。もがいて腕を解こうとしている内に、段々と目が掠れて頭に霞が掛かる。


(…助けて…ヴィルさ…)


力の抜ける腕を前に向かって伸ばしたところで、伊織の意識は途切れた。




ライヒアルトさんがやっと出てきました。

そして波乱だらけの伊織ちゃん!


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