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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
紫水晶の導
32/94

探し物。

はじめだけヴィルフリートさん視点です(`ω´)キリッ


あと1話増えました。短めですが!


目の前の伊織の身体が倒れる。咄嗟に腕を伸ばし支えたが、その顔は人形の様に色がない。伊織にとってこの泉は何かあるのだろうか。


「…部屋に戻る。呼ぶまでは誰であろうと入るな。」


くたりと力なく下がる腕に焦燥感が込み上げる。


「…また、余を置いていくのか。」


思いがけず口から零れた呟きが自分の耳に入る。

ふとした時に蘇る前世での記憶。色のない世界と腕に抱く亡骸。そして死して尚、世界の為にその遺体すら遺る事のなかった女性(かのじょ)

ヴィルフリートは自分の部屋の寝室に戻ると伊織をベッドに寝かせ、伊織の頬を撫でて薄紅色の唇に口付けを落とす。


「…早く…早く目醒めて、余の名を呼ぶのだ…」



----------------------------------------------------------------



伊織はまた、何もない真っ白い空間に立っていた。


(また…?前にも来たことが…ある…)


頭がずきずきと疼く。自分はどうしてここにいるのだろう。最後の記憶は泉の水に触れたところで途切れている。

以前、確かにここに来たことがある。それはいつだっただろう。


__封印した記憶が、戻ってしまった…。


後ろから声が聞こえて振り返る。やはり以前見た事のある綺麗な女性が立っている。


(…封印って何の為に…?)


__記憶が戻っても…同じにはならないのに…。


女性が哀しげに目を伏せて微笑む。自分に言い聞かせる様に言い、胸の前で指を組んだ。


__現世のあの人が望むのは、貴方だから…大丈夫よ、愛しい子。


女性がそっと両手を握り、微笑んでくれる。伊織も手を握り返し、微笑み返す。


__紅い宝石の錠が付いた箱を探して…。


「…それはどこにあるの?」


至近距離にある紅い瞳を見詰めながら言う。女性が首を振る。


__ごめんなさい。分からないの…。あの箱の中には、あの人の……


女性の身体が薄くなり、握っていた手の感覚がなくなる。


「待って!まだ聞きたい事があるのに!イレーネ!!」


__もう目が醒めるわ。その名前を呼んでくれてありがとう…愛しい子(イオリ)


伊織がイレーネに手を伸ばすがイレーネが光の粒になり、伊織の心臓辺りに消える。前回と同じように突如襲われた眠気に抗えずに、伊織は意識を手離した。



----------------------------------------------------------------



「…イレーネ…待って!」


伊織が勢いよく手を伸ばして身体を起こすと、すぐにヴィルフリートに抱き締められた。


「…ヴィルさん…?」


込められた腕の力が強く、少し苦しい。伊織がヴィルフリートの背中を叩くが、ヴィルフリートは一向に腕の力を緩めない。むしろ先程より込められた力に、伊織は再び意識が遠退き掛けて慌てて強く背中を叩いた。やっと腕の力が弛められ、伊織が荒く息を吐く。


「…し、死ぬかと思った…」


「…もう一度、余の名前を呼ぶのだ。」


「ヴィルさん?…どうかしたの?」


ヴィルフリートの意外な言動に伊織が首を傾げる。ヴィルフリートの背中越しに見える窓の外はすっかり夕暮れに染まっている。随分長い間気を失っていたようだ。


「心配かけて、ごめんなさい。」


ヴィルフリートの首に腕を回し、小さい声で謝る。ヴィルフリートの肩がピクリと動き、顔を上げた。伊織の顔を見詰める顔に、先程思い出した記憶の男性が重なる。込み上げる切なさはイレーネの記憶によるモノなのか、それとも伊織の自覚したヴィルフリートへの想いによるものなのか。


(…確かに、同じな様で…違うよね…)


ゆっくりと近付いてくる顔に目を閉じる。唇に掛かる吐息と、直後に感じる温もりに涙が一筋零れる。言葉にならない程の感情が伊織の内側から迸る。前世でも現世でも、きっと来世もこの魂を持つ人に恋するのだろう。


「…イオリは、よく泣く。」


頬を指で拭われ、目元に口付けられる。どうしてこの人はこんなにも伊織に優しいのだろう。伊織にはイレーネの記憶がある。けれど、ヴィルフリートを好きになったのはイレーネの記憶を思い出す前だ。もしヴィルフリートに前世の記憶があって伊織に優しくしているのなら、それは伊織ではなくイレーネを愛しているのではないか。


(でも…僕、ヴィルさんに記憶の話した事ない…)


「…ヴィルさんは、どうして僕に優しくしてくれるの?」


ヴィルフリートがもしも伊織の事を想っている訳ではないのなら、伊織はどうすればいいのだろうか。ドキドキしながらヴィルフリートの顔を見詰める。


「…言葉が欲しいのか。」


「だって…ヴィルさんには僕に優しくする理由がないし…」


問い返されて急に恥ずかしくなり、俯く。ヴィルフリートが伊織の顎に手を掛け、顔を上を向ける。


「解らぬか?…確かに、初めは子供としか見ていなかったが…子供相手にこんな事もするまい。」


下唇を軽く食まれる。先程から羞恥で赤くなっている伊織の顔がさらに赤くなる。外はすっかり暗くなり、室内もベッド脇に置いてある間接照明の微かな明かりしかない。にも拘らず、伊織の顔が真っ赤に染まっている事はヴィルフリートにもはっきり判る。


「これでは、手が出せぬな。…腹が空いているだろう。食事にしよう。」


「待って!…あ、あの…僕…ヴィルさんになら、何されても…いいよ…?」


身体を離したヴィルフリードの服の裾を引っ張り、真っ赤な顔のまましどろもどろに言い切る。伊織の視線はヴィルフリートに向いておらず、うろうろと彷徨って、最終的には閉じてしまった。


「ククッ…焦らずとも、ここまで待ったのだ。いつまで待ってもあまり変わらぬ。だが、一度手を出したら、覚悟して貰わねばな。…服が皺になっておるが、本日は居室で食事としよう。」


ヴィルフリートが魔道具を使い、ギルベルトを呼ぶのを横目に見ながら起き上がって皺になったドレスを伸ばす。今更気が付いたが、結構際どい位置まで捲り上がっていた。アニエッタとフランツィスカに朝言われた事も思い出して、伊織の顔の熱が引かない。このままだと、ギルベルト達が来てしまう。伊織が自分の手で顔をぱたぱたと扇ぐ。


「イオリ、今更だと思わぬか。其方がすぐに顔を赤くするのは誰もが知る事だと思うが。」


「…気持ちの問題なの!」


伊織が唇を尖らして拗ねていると、ヴィルフリートに頭を撫でられた。


(また子供扱い…でもさっきまでの雰囲気はなくなったから複雑だなぁ…)


ヴィルフリートに頭を撫でられてブスッとした顔でいる伊織にヴィルフリートが微苦笑している。部屋にノックの音が響き、ギルベルトとアニエッタ、フランツィスカが入って来て頭を下げる。伊織が起きている事に一様に喜んでいる様で、顔には笑顔が浮かんでいる。


「食事の用意を。居室に持って来る様。」


「畏まりました。」


ギルベルトが代表して発言し、頭を下げて部屋を出ていく。伊織とヴィルフリートも隣の部屋に移動してソファに座る。当然とばかりに、いつも通りにヴィルフリートの膝の上に乗せられ、伊織は溜め息を飲み込んだ。ヴィルフリートは好きだが、それとこれとは別だと思う。


(…過保護なのか…甘やかされてるのか…うーん。)


十中八九、過保護の方だろう。そんな事をつらつらと考えている内にギルベルトがワゴンを押して戻って来て、アニエッタとフランツィスカも一緒に料理を並べる。食事中は流石に食べにくいので、ヴィルフリートに降ろしてもらった。


食事も入浴もいつも通り終わらせる。いつも通りじゃないのは伊織の心情と寝間着の露出度だろうか。

アニエッタとフランツィスカが嫌がる伊織に着せたナイトドレスは、半袖で肩が出る胸の下をリボンで絞られた物で、胸から下の生地がうっすら透けるほど薄い。仕方がないのでナイトガウンを着て、紐をしっかり結ぶ。

ヴィルフリートの部屋で晩酌に付き合う事になったので、伊織は弱い酒をさらに薄めて飲む事にした。


「…イオリ、どうかしたのか。」


先程から挙動不審な伊織にヴィルフリートが尋ねる。ヴィルフリートの膝から何度も降りようとして阻止されている。


「ななな、なん…なんでもない!」


吃って上擦った声でなんでもないなんて何かあると言っている様なものだ。

伊織は手に持つグラスの中身を、ヴィルフリートが止める間も無く飲み干す。一息吐いて、しばらくは何ともなかったが、そのうち頭がふわふわしてくる。


「イオリ、酔っているだろう。」


「…酔ってないよ!」


伊織が若干怪しい呂律で言い切る。ヴィルフリートは溜め息を吐いて、自分の飲んでいたグラスの中身を飲み干し、伊織を抱えたまま立ち上がる。


「もう寝るが良い。」


ヴィルフリートが伊織をベッドに乗せて、酒とグラスを居室に持って行った。


(あ、そういえば…イレーネが言ってた箱、探してもらわなきゃ。)


戻って来てベッドに座ったヴィルフリートの腕に、伊織がぴたりとくっつく。


「ヴィルさんに、お願いがあるんだけどね。…えっと、紅い石の錠が付いた箱をね、探して欲しいの…」


上目遣いに袖を引いて首を傾げる。酒を飲んだ所為で目は潤んで、頬は上気している。ヴィルフリートは視線を逸らして溜め息を噛み殺した。


「…解った。」


伊織が満足気に頷いて、寝る為にナイトガウンを脱いで布団に入る。ヴィルフリートは視線を逸らしていたので、伊織の寝間着は見られずに済んだ。

伊織が布団に入って眠ったのを見て、ヴィルフリートが溜め息を吐く。


「…試練か…」



----------------------------------------------------------------



伊織は実際は寝たふりをしていた。お酒に付き合ったのも素面ではいられなかったから。

ヴィルフリートが布団に入って、伊織を抱き締めた。しばらくして寝息が聴こえ始めた。伊織は目を開けて、ジッとヴィルフリートを見詰める。


(…触っても、大丈夫かなぁ…)


「眠ったフリ、か」


「!?ヴィルさ…起きて…っ!」


頬に触れた手を取られ、指を口に含まれる。


「お互い様ではないか。…酔ってはいるが、意識はあるな。」


ヴィルフリートが悪びれる様子もなく、伊織の指を1本1本唇でなぞる。


「…夜は、まだ長いと思わぬか?」




この後の話をお月様に上げております。

「裏・紫水晶の回帰」で検索、もしくは作者名が同じですのでそっちからどうぞ(*ÒωÓ)

一応R18なので、そこんところ注意を!


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