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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
紫水晶の記憶
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現状確認

やっと伊織以外の名前判明。


目覚めると精巧な彫刻が施された見知らぬ天井が見えた。

寝転んだまま視線だけで辺りを見渡してみる。

人が余裕で3人は眠れるほど広いベッドの四方に綺麗な彫刻の施された柱、薄い布が囲っている。

どうやら天蓋付きのベッドに寝かされていた様だ。


「…ここ…何処…」


「お気が付きになられましたか?」


布の向こうから聞こえてきた声にビクリと身体が跳ねた。


「だ、誰…?」


「アニエッタと申します。…寝所の布を開けさせて頂いても宜しいでしょうか。」


「は、はい。」


布の向こうの人影が頭を下げるのが見え、慌てて身体を起こして返事をする。

布が開かれて柱に固定されると、正統派メイド服に身を包んだ、茶金髪に翠の瞳の20歳前後の綺麗な女の人が頭を下げた。


「おはようございます。お身体の方は大丈夫でございましょうか?」


「は…い?大丈夫です。」


混乱してどうにかなりそうだ。

そもそも伊織はどうしてここで寝ていたのか。

混乱する伊織にアニエッタは微笑みながらコップに入った水を差し出してくれた。


「それは良うございました。昨日より丸一日お眠りになられておりましたので。ではお目覚めをお知らせして参りますので、もう少しお身体をお安め下さいませ。」


受け取った水を飲んでいると、アニエッタが頭を下げて踵をかえした。


「ちょっと待って…!ここ何処ですか?!」


「ヴェルディルード帝国、帝都ヴェルクランのヴェルディクラン城でございます。」


(べ…ヴぇ、るでぃ…くらんじょう…城!?お城!?)


伊織が反芻して混乱している間にアニエッタはもう一度頭を下げて部屋から出て行ってしまった。

とりあえず持っていたコップをサイドテーブルに置いて、もう一度ベッドに倒れ込む。


「…もう、訳分かんない…。」


確かにアニエッタとしゃべってる間にここに来た経緯は思い出した。

もう一度起き上がり、さり気なく自分の身体を見て胸があるのを確認した後、恐る恐る股間に手を伸ばした。


(…やっぱりない!)


触った途端にパッと手を引いて、自分の身体の変化に涙が零れた。

それに着ていた服は着替えさせられているし、持っていたブレスレットもなくなってる。

小説なんかで見たような事が、実際自分の身に起きてる事態に、嗚咽が漏れる。


「何故泣いている。」


突然声を掛けられた事に驚いて、涙を拭くのを忘れて声が聞こえた方を見れば、気絶する前に話した男が立っていた。


「如何して泣いているのだ。」


「…ぐすっ…色々、許容…範囲の限界、で…わ、けわかん…なくて…。ふ…ぅ…」


再度掛けられた問いかけに目元を擦りながら返事をすると男がベッドに座って、擦っていた手を掴む。


「擦るな。赤くなる。」


憮然とした声のわりには涙を拭いてくれる手が優しくて、思わず手に縋ってしまった。


「女、お前の名は。」


「…いおり。…し、のはら、いおり…」


声を詰まらせながら答えるも、男は眉間に皺を寄せた。


「イオリが名か?」


「…すん。伊織が名前で、篠原が家族名…。」


話してる内にどんどん落ち着いてきて、恥ずかしくなって握っていた手を放して俯く。


「余はヴィルフリート・リーツ・ヴェルディルード。好きに呼ぶが良い。」


「…び、ヴぃる…ヴぃるふりーと…さん」


発音に詰まってしまい、上目遣いでヴィルフリートの顔色を窺うと小さくため息を吐かれた。


「ヴィルで良い。それより、なぜ泉で石に閉じ込められていた。」


「…わかりません。そもそも何故自分がここにいるのかも分からないのに、閉じ込められて、いたことなんか分かんない…!」


話してる内にまた涙が目尻に溜まってきて慌てて下を向いて堪えた。

宥める様に長くなった髪を梳かれ、強張っていた身体の力が抜けてそっとヴィルフリートを見ると、前髪をくしゃくしゃにされた。


「泣くな。どこから来たか始めから話してみろ。」


くしゃくしゃになった前髪を整えられて、促すように目元を撫でられた。


「…っ、日本って国から来て…家族で出掛ける予定で、着替えて鏡の前に立ったら…母さんがブレスレットを渡してきて「幸せになりなさい」って、母さんに後ろから鏡に向かって突き飛ばされて…。気が付いたらあの泉の上で浮いてた。…混乱してる内にヴィルさんが…。」


目元を優しく撫でられて羞恥で顔を赤く染めながら思い出した事をなるべく詳しく話す。


「…ニホンという国はこの大陸にはない。持っていた装飾品は魔道具か?」


腕を組んで考えながらヴィルフリートが答えた。

伊織は首を振って、泣きそうになるのを叱咤してシーツを握りしめる。

魔道具、という言葉が出てきた時点でここは伊織が住んでいた世界ではないらしい。


「…僕のいた世界には魔道具なんてなかった…。」


「魔法や魔道具がないならどうやって生活しているんだ。」


「…んーと…、電気っていう動力を使ったいろんな道具とガスっていう気体に火をつける道具があって…ぬー。とにかく魔法に代わるものがあるです。」


訝しげに問いかけられて、説明に困りながら口を開く。うまく説明できなかったが。


「なるほど。とりあえずはイオリが持っていた装飾品を魔法研究所で調べているから、結果が出るまで待つんだな。」


「でもその間どうすれば…。」


ヴィルフリートが調べてくれるのは有難いが、伊織はその間住む所もなければ仕事もないし、衣食住に不安がありすぎる。そう思い、伊織が言いよどむとヴィルフリートは眉を顰めた。


「何を言っている。お前は牢に入れられないだけで監察対象だ。城下に行く事を許可することも出来ない」


「…え、じゃあここで働けばいいの?」


言われた内容がいまいち理解できず、首を傾げながらヴィルフリートの顔をまじまじと見た。

顰められた眉が先程よりも寄って、眉間に深い皺が刻まれる。どうやらそうではないらしい事をヴィルフリートからの様子で分かるが、それにしても伊織にはどうすればいいのかわからずおろおろする。


「…そうではない。とりあえずしばらくはこの部屋で生活してもらう。扉の前に騎士が立っているから、逃げようなどとは考えぬ事だな。何かあれば侍女に言うがいい。」


ヴィルフリートの感情を抑えたような低い声を聞き、伊織は困惑しながらも頷く。

どうやら自分の発言が不興を買ったらしい。

伊織の首が縦に振られるのを見て、幾分か機嫌が直ったのか、ヴィルフリートは鷹揚に頷いた。

その時、ノックの音のすぐ後に扉が開き、泉でヴィルフリートに付き従っていた男が入ってきた。アッシュグレイに白髪が少し混じった髪に薄水色の瞳の40歳半ばくらいの男だ。


「陛下、そろそろお時間でございます。」


男がきっちりと頭を下げながら、口を開いた。


「…へいか…?」


「ヴェルディルード帝国、ヴィルフリート・リーツ・ヴェルディルード皇帝陛下でいらっしゃいます。」


伊織を一瞥し、淡々と男が告げる。男の告げた内容に驚いて、ヴィルフリートと男を交互に見ていると、ヴィルフリートが溜め息を吐いた。


「イオリはヴィルと呼ぶが良い。ギルベルト、余計な事を教えるな。…この男は侍従長のギルベルトだ。」


「ギルベルト・アウラーでございます。」


ギルベルトが伊織に向かって綺麗なお辞儀をした。伊織もベッドの上で深々と頭を下げて自己紹介する。


「篠原伊織です。伊織が個人名で篠原が家族名です。」


その様子にヴィルフリートが喉の奥で笑い、伊織の顎に手を添えて頭を挙げさせた。


「侍従や侍女に頭を下げるで無い。お前は監察対象だが、立場上は客人にしているからな。さて、余はまだ執務があるから戻るが、イオリはもう休むが良い。」


「それでは失礼をいたします。何かございましたら侍女に申し付け下さい。」


言うだけ言って、ヴィルフリートとギルベルトはさっさと部屋から出て行ってしまった。入れ替わりにアニエッタと焦げ茶色の髪に青い瞳の可愛い、同じ歳くらいの女の人が部屋に入って来て頭を下げた。


「改めまして、貴女様の身の回りの世話をさせて頂きます、アニエッタ・ブルームでございます。どうぞアニーとお呼び下さいませ。」


「同じく身の回りの世話をさせて頂きます、フランツィスカ・カロッサでございます。フランとお呼び下さいませ。」


反射的に頭を下げ返しそうになるが、先程言われた事を思い出して止まり、ぎこちない笑顔を浮かべた。


「篠原伊織です。伊織って呼んで下さい。」


「では、イオリ様。私どもに畏まった言動は不要にございます。それから、空腹ではありませんか?食事の用意がございますが。」


アニエッタが優しく微笑みながら、起き上がっていた背中のスペースにクッションを詰めて背もたれを作ってくれた。


「…ありがとう。頂きます。」


言われた内容を反芻して、ぎこちなく笑いながら頷いた。


それからすぐに食事を用意してくれ、食べ終わった後に入浴も済ませ(断るも押し切られて全身綺麗に磨かれ、入浴後にマッサージもされた)ベッドに入って脱力した。


(…つ、疲れた…。女の子って大変なんだな…。)


今迄の怒涛の時間を思い出しながら目を閉じれば、驚くほど早く睡魔に意識を持って行かれる。完全に寝入る直前に、ヴィルフリートの顔がふと頭に過る。


(…ヴィルさんに、お礼言わなくっちゃ…)


もっと思い悩む心情とか色々書こうと思いましたが、だらだらと長くなるのは頂けないのでさっくりさせました。

変な様ならまた編集します…

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