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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
紫水晶の導
29/94

生理的に無理。

後半に不快な描写が出てきます。注意。

2日の更新ストップすみませんでしたー!

また今日から更新して行きます。

館の前にはホラント・リーネルとその妻、それに娘のエディト・リーネルと思われる人物が立っている。息子もいるが、現在は語学留学と言う名目で他国にいるらしい。

ホラントはでっぷりとした肥満体に薄い頭皮、ゴテゴテと成金趣味の服を着ている。ヴィルフリートに握手を求める手にもジャラジャラと装飾品がついている。

その妻らしき女は神経質そうな顔にけばけばしい化粧をして、うっとりとヴィルフリートを見ている。

娘のエディトも美人で豊満な肉体だが、身体線がしっかりと出る胸元の大きく開いたドレスに、派手な化粧をしている。エディトもうっとりとヴィルフリートを見つめている。


(うわぁ、派手な家族。…て言うか、リーネル伯爵ってあんななんだ…やだー。)


伊織は頭を下げながらばれない様にちらりと見て、思った以上のリーネル一家に内心辟易する。むしろ顔に出さない様に必死で引き締め、笑わない様に手の甲をつねる。


「…出迎えご苦労。」


「いえいえ。態々お越し下さいまして有難く思います。」


ヴィルフリートがいかにも沈んだ様子で挨拶している。伊織が亡くなったという情報をカルラが差し出した証拠の髪によってホラントは知っているはずだが、流石におくびにも出さない。それどころか気遣わし気にさえしている。


「陛下、何かあったのですか?」


「…いや。余の個人的な事だ…すまんな、気をつけよう。」


ヴィルフリートが瞳を伏せて溜め息を吐いたのを見て、エディトが目を細めるのが見えた。


(ヴィルさん演技上手いなー。あ、今あの人絶対笑いそうになったよね。)


ヴィルフリートが館に入ったのを皮切りに護衛は一緒に中に入り、伊織始め侍女とギルベルト他侍従が一斉に荷物を降ろす。と言っても、伊織は筋肉が殆どないので軽い物を運んでいるフリという感じだが。


「イオリ様、後はもういいのでこのままここの部屋でお休みくださいませ。」


アニエッタがこっそりと耳打ちしてくる。伊織は有難く休憩する事にして、荷物を運ぶフリをして部屋に入った。

同行しているのは侍従ばかりで、侍女はアニエッタとフランツィスカ、一応伊織の3人で、もちろん伊織がいなければ侍従のみで構成されていたはずだ。

部屋は予想通りに成金趣味でソファの花柄がけばけばしい。侍女や侍従は他に部屋が与えられているが、侍従はギルベルトだけしか作戦に参加していない為、伊織がサボるのは控えの部屋では都合が悪い。


(うーん、自由に行動もできないし…)


伊織はとりあえずはおとなしく部屋で待機する事にして、誰かが来ても大丈夫な様に奥の寝室に行く。何もする事が無いので、居室と同じ花柄生地の椅子に座る。ぼーっとしていると少ししてヴィルフリートが来た。


「イオリ、ここに居たか。…ホラント・リーネルが今、サロンにいる。余が手袋を置いて来た。余に頼まれたと言って取って取りに行けばよい。娘と妻は余が引き付ける。マナーは分かるな?」


「ようするに、顔見せて来ればいいんだね。大丈夫。行ってくる!」


立ち上がってヴィルフリートの脇を通る。通り抜ける時に腕を引かれて抱き寄せられた。


「あまりにも遅い場合は助けに入る。くれぐれも奴には触れさせぬ様にな。」


ヴィルフリートに頬を撫でられて頷く。気を引き締めて、部屋を出てサロンに向かう。

サロンの扉の前に着き、深呼吸してからノックする。中から声が聞こえたのを確認して扉を開け、頭を下げた。


「失礼致します。陛下が手袋をお忘れになったそうですので、取りに参りました。」


「ああ、そこに置いてあるからとっとと持って行くんだな。」


「はい。失礼致します。」


伊織が顔を上げて置いてある手袋を手に取り、もう一度頭を下げる。


「…待ちなさい。君はいくつなのかな?」


(…かかった…!)


「今年で15となりました。」


声が掛けられて早くなる鼓動を抑え、伊織がなるべく平静を装い頭を下げたまま返答する。


「顔を上げなさい。…随分若いのに侍女をしているんだね。」


「…伊織様の、侍女として来たのですが…っ…」


(きもいきもいきもいきもい!!)


頭を上げると思ったより距離を詰められていて、後退(あとずさ)りしない様に必死で耐える。ついでに哀しそうに瞳を伏せて涙眼を作り、ホラントの顔が視界に入らない様にした。

ホラントとの距離は2歩くらいだ。


「 …君の名前は?」


ホラントが1歩距離を詰め、名前を聞いて来た時にノック音がした。ホラントは顔を顰めて伊織から距離を取りながら応えた。


「失礼致します。…ここに居たのですか。魔法車の清掃を頼もうと思っていたのです。リーネル伯爵様、彼女が失礼致しました。」


ギルベルトが入って来て頭を下げ、伊織の姿を見つけると再度頭を下げて言う。ギルベルトの後ろで伊織も頭を下げて、ギルベルトと一緒にサロンを出る。扉が閉まるとホッとして吐息が漏れた。


「魔法車で休まれて下さい。夕食後、今度は少し長い時間気を引いてもらうことになります。」


ギルベルトに小声で指示されて、そのまま外に向かった。庭ではヴィルフリートとリーネル夫人、エディトがお茶をしている。目立たない様に裏庭に置いてある魔法車に入った。既にアニエッタとフランツィスカが居て、伊織がソファに座るとお茶を淹れてくれる。


「…あの人、生理的に受け付けない…。ちょっと近付かれただけで背中がぞわっとしたもん。」


「お疲れ様ですわ。蝶者が既にカルラとその他の人を見付けたそうですから、夜には決着がつきますわよ。」


伊織がだらしなくソファに凭れ掛かっていると、フランツィスカが教えてくれた。


「そうなんだ。早いね〜。」


「カルラに探索魔法を掛けておりましたし、陛下とイオリ様が上手く気を引いてくれたお陰で随分捗ったそうですわ。」


フランツィスカがくすくす笑っているのに首を傾げる。どうしてそんなに詳しく知っているのか。


「…フランが調べてるの?」


アニエッタをちらりと見て、変化がない事を確認してからフランツィスカに聞く。


「アニーにはイオリ様に話した後に話しましたよ。ちなみに、情報源は兄ですわ。」


フランツィスカが悪戯っぽく笑って言う。伊織は脱力して、ソファに横になる。


「なんだぁ〜、フランが危ない事してるのかと思って焦ったじゃない」


「それは失礼致しましたわ。」


伊織が起き上がってお茶を飲んでいると、バルトロメウスが連結してある魔法車から来た。様子を見る限り、何か問題があった訳ではなさそうだ。イオリの正面に座る。


「サボりに来た。ヴィルフリートは伯爵と夫人、娘と話してる様だが…機嫌が悪くてな。」


「もうあと2時間もすれば食事だよね。そろそろ証拠も揃った?」


バルトロメウスが苦笑いしながら言った内容に、首を傾げてフランツィスカに確認する。フランツィスカは両手で耳を覆い、目を閉じている。兄と連絡を取っている様だ。


「…はい。重税によって得た差額を記す帳簿と他国との密輸の品目帳が出て来た様です。…お茶会ももう終わりますので他の証拠集めは晩餐会の間にするとの事ですわ。」


「なるほど、カロッサ家の者か。それなら、そろそろ俺も準備しないとな。公爵家の次男兼伯爵として晩餐会に誘われてな…」


バルトロメウスがめんどくさそうに肩を落とした。バルトロメウスがここに来たのはサボりだけでなく、伊織の様子を見に来たのだろう。自分の晩餐会の用意のついでだろうが。


「夕食後、ヴィルフリートと女共は1刻ほどサロンで酒を飲むそうだ。その間、伯爵の気を引くのが嬢ちゃんの仕事だな。だが1刻は長いからな。4半刻ほど足止めしてもらえれば救出可能だそうだ。」


バルトロメウスはお茶を1杯飲んで準備しに行ってしまった。伊織はまだ出番がないので、暇を持て余す。暇になると考えないようにしてた事が頭に思い浮かぶ。


(ヴィルさんってやっぱりモテるよね。…ハイジもエディトさんも美人だし…)


悶々と悩みながらソファに転がる。最近暇になるとヴィルフリートの事ばかりが思い浮かぶ。


(…ハイジが言う通り、僕がヴィルさんの事…好き?…ヴィルさんが僕を気に掛けてくれるから…とかじゃないよね…)


ソファにうつ伏せになり、クッションに顔を埋めてぶつぶつ呟く。アニエッタもフランツィスカも伊織が悩む時は大抵その恰好なので、最近では放って置いてくれるようになった。


(…それに、僕なんか色々忘れてるような気がするんだよなぁ…。)


この世界に来てから何度か夢を見たような気がするのだ。それはとても大切な夢のようなのに、伊織が思い出そうとしても泡沫(うたかた)の様に消えてしまう。他にもある。この世界に来る前に、伊織はいつも何かと一緒にいた。その何かが分からない。思い出せなくて不安になるのに、どうして不安になるのかも分からない。


__私はいつもイオリを見守っているからね。


(…僕は…何かとても大切な事を忘れて…)


考えながら横になっているとその内に眠ってしまったようだ。アニエッタが食事の時間に起こしてくれ、用意された食事を食べる。

いよいよだ。バルトロメウスがホラントを引き留め、そこに伊織が行ってバルトロメウスに用事を頼まれる事になる。そこから伊織が移動して、ホラントが伊織のいる場所に現れれば伊織の役目は8割方終わりである。そこで伊織が今職場の不満と主人(伊織)を亡くしたから仕事をやめようと思っている、とホラントを釣る。


「じゃ、気合入れて行ってくるー!」


「はい、ちょうど食事が終わって陛下は食堂を出られたそうですわ。」


フランツィスカが拳を握って応援してくれる。アニエッタにいざという時の為に、と謎の薬品を渡された。伊織は急いで裏口から1階にある食堂に向かう。バルトロメウスが入口でホラントを引き留めているのを見て、深呼吸してゆっくり歩く。


「ちょうどよかった。これをランドドラコに持って行ってくれないか。今日のメシをやり忘れててな…」


「はい。畏まりました。」


ホラントの前で用事を言いつけられ、大量の野菜と肉が乗っている植物の蔓で編まれた大きな籠を渡されて、重さによろけそうになるのを踏み止まる。ランドドラコ3匹分のエサなので随分大量にあるようだ。ランドドラコが繋がれているのは裏庭の魔法車の隣にある厩舎なので、伊織は来た道を戻る。


「…おも、い…」


20キロはありそうな肉と野菜を両手で持ち、早歩きで厩舎に向かう。腕全体で支えるように持っていた所為で、厩舎に着いた伊織の腕には籠の縁の網目がくっきりと痕になっていた。ランドドラコにエサをあげる時に痕に気が付き、蒼褪める。


(…痣になってる…バルト兄さんが危ない…!)


過去の経験から、城に帰ったらバルトロメウスはヴィルフリートの魔法の実験台になりそうだ。心の中で自分の貧弱さをバルトロメウスに謝罪しながらランドドラコにエサをやっていると、厩舎の入り口が開いた音がした。どうやら予想通りホラントが釣れたらしい。


「伯爵様、どうなされたのですか?」


伊織は振り返って驚いたフリをし、慌てて頭を下げる。


「顔を上げなさい。…君の名前は何というのだね。」


ホラントが近付きながら話し掛けてくる。伊織は顔を上げて、込み上げてくる嫌悪に耐える。背中がぞわぞわする。


「…イレーネでございます。」


顔や態度に嫌悪している様子が出ないように気を付けながら、あらかじめ決めていた帝国に多い名前を告げる。ホラントは昼と同じように2歩ほどの距離まで近付いてランドドラコに興味があるフリをしながら伊織を見てくる。


「陛下に聞いたよ。寵姫が護衛騎士をしていた者に殺されたと…君は何か困った事はないかな?」


「…実は侍女をやめようと思っております。伊織様は亡くなられたし、お城の仕事は大変ですので…実家に帰って家業を手伝おうかと。」


伊織はホラントから顔を背けて俯き、エサを食べるランドドラコを見詰めて言う。もう少ししたらバルトロメウスがホラントを呼びに来るはずだ。


「では、ここで働かないかね?…いや、働かなくてもいい。」


ホラントが急変し、腕を掴まれる。伊織は嫌悪に腕を振り解こうと抵抗するが、両腕を掴まれて動きを封じられる。両手を紐の様な物で纏められ、奥に引き摺られる様に連れて行かる。


「誰か!誰か助けて!!」


厩舎の外にいるアニエッタとフランツィスカに聞こえる様に声を上げる。だが恐怖で声が震え、大きな声が出せなかった。

厩舎の裏口を出たところにある小屋に連れ込まれる。ホラントの手際はよく、伊織がいくら抵抗しても縛られた手を小屋の壁にある金具に括り付けられた。


「何すんだよ!やめろよ!!」


「大人しくしておいた方がいいぞ。痛いのは嫌だろう。」


ホラントが服に手を掛け、エプロンの紐が解かれてスカートが捲り上げられる。嫌悪と羞恥と恐怖で涙が出てきた。縛られた手が痛い。


「いや!!ヤダヤダ!!助けて!!」


「うるさい。」


頬を叩かれて口の中が切れる。ポケットから出したハンカチを細くし、口に咥えさせられ頭の後ろで結ばれる。恐怖で身体が硬直し、視界が涙で滲んで首を振るくらいしかできない。


(いや!助けて…ヴィルさん!!)




描写をだいぶシボりました(◦`꒳´◦)

不愉快になった方、すみません。

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