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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
紫水晶の導
22/94

眠れぬ夜は誰の所為?

そういえば閑話を投稿してます。気付いたかな?

割り込み投稿で入れるので、たまに確認して見て下さいね(。-艸-。)

(…眠れない…ヴィルさんどうしてるかなぁ…)


布団に入ってからずいぶん経ってしまった。一向に訪れない眠気に、何度目になるかわからない寝返りを打つ。このままだと明日アニエッタとフランツィスカを心配させてしまう。それに肌のコンディションが悪いと嘆かれるかも。


「…情けないなぁ」


(こんなに、依存してるなんて思わなかった…)


伊織は起き上がって窓に近付く。空には紅い月が浮かんでいて、稀にしか見ないヴィルフリートの瞳を思い出す。魔力の色が紅い者はすごく珍しいらしい。

窓を開けてバルコニーに出る。夜の暖かな風が髪を靡かせ、伊織を優しく包む。

この国ははっきりとした四季はないらしく、春と秋が長くて夏と冬が短い。今は夏に差し掛かる時期で、夜になっても寒くはなかった。

イオリがこちらに来たのが9月の初めだったから、季節にはズレがあるらしい。

伊織が手摺りに寄り掛かり月を眺めていると、肩に薄いナイトガウンがかけられた。

驚いて振り返ると、フランツィスカが微笑んでいる。


「どうされたのですか?まだ夜半ですよ」


「フランこそどうしたの?僕が起きてるってよく分かったね」


フランツィスカが隣に並ぶ。一緒になって空を見上げていると、フランツィスカが珍しく真面目な顔で伊織に向き直る。


「イオリ様に聞いて欲しいことがあるんです。」


「どうしたの?改まって…」


伊織も首を傾げてフランツィスカに向き直る。フランツィスカが頭を下げる。


「…イオリ様に探査魔法を掛けております。…私の家系は代々国の暗部を担ってまいりました。私はイオリ様を唯一の主としたいと思っております。許して下さいますか?」


「…許すも何も、僕もうフランがいないなんて考えられないよ」


突然の告白に戸惑いながらも巫山戯る気にはなれずフランツィスカの頭を上げさせて、微笑む。

フランツィスカがいつもと同じ様に悪戯っぽく笑った。伊織はいつも通りのフランツィスカにホッとする。


「そういえば、アニーは寝たの?」


「はい。私は明日一応おやすみですので。イオリ様は眠れないのですか?」


フランツィスカの含み笑いに苦笑いする。どうやらどうして眠れないのかばれているらしい。


「陛下の所に行かれたらどうです?まだ起きてらっしゃると思いますよ。」


「でも僕から一緒に寝ないって宣言したのに…それにね、ドキドキして顔見れないし、一緒にいても眠れないかも。」


伊織が月を見上げながら、ヴィルフリートを想う。フランツィスカが伊織の横顔を見詰めてくる。


「…とりあえずお部屋にお戻り下さいな。お身体が冷えてしまいます。」


「…そうだね。」


フランツィスカに促されて中に入る。ベッドに座ると、フランツィスカが居室の方に向かった。伊織がぼーっと座ったまま月を眺めていると、フランツィスカが戻って来て伊織にコップを手渡した。


「ミルクに少しだけ蜜とお酒が入っております。これを飲んでも眠れないなら、大人しく陛下の部屋に行って下さいね。」


「…ありがとう。」


伊織は暖かいコップを両手で包み込んでちびちびと飲む。ミルクはほんのり甘くて、喉を通った後にじわじわと熱くなる。思ったよりもお酒が入ってるらしい。少しだけふわふわした。飲み干すと気持ち良くなる。


「イオリ様?お酒が強かったかしら…大丈夫ですか?」


伊織の反応は薄く、フランツィスカにコップを渡す。心なしか目が据わっている様な気がする。


「イオリ様、もうおやすみになって下さい。」


フランツィスカはナイトガウンを脱がせ、伊織を布団に入れようとするが、伊織は首を振ってよたよたと歩き出した。


「イオリ様、どこに行かれるのですか。」


フランツィスカが慌てて追いかけて、居室で伊織を引き止める。伊織は酔っ払ってしまったらしい。


「ヴィルさんのところ…行って寝るの…!」


フランツィスカの腕を振り払って部屋を出て行ってしまった。フランツィスカは溜め息を吐いた。


「…陛下のところでしたら大丈夫。……かしら?」


心配になって、とりあえず後を追いかけた。



----------------------------------------------------------------



「おや、イオリ様?どうなされたのですか?」


「ヴィルさんのところ行くのー」


よたよたと歩いて部屋の前に行くと、部屋から出て来たギルベルトにあった。ギルベルトは一つ頷くと、扉を開けてくれる。


「陛下はもう寝台にお入りになっておりますよ。」


それだけ言って、イオリを送り出すと扉を静かに閉めた。伊織の後を追いかけて来て居たフランツィスカにギルベルトが苦笑いする。フランツィスカも苦笑いを返した。


「お互い振り回されますね。」


「仕方ありませんわ。」



----------------------------------------------------------------



伊織は寝室の扉を開けて中に滑り込み、覚束ない足取りのままベッドに近付く。


「ギルベルト、何かあったのか。」


ヴィルフリートは布団の中に入り、こちらを見ていない様だ。伊織はベッド脇まで行くと、横からごそごそ潜り込んだ。ヴィルフリートのお腹に突き当たって、布団の外に顔を出す。


「イオリ、どうかしたのか?」


「ヴィルさんはズルい。」


伊織は据わった目でヴィルフリートを見詰めて唐突に言った。


「僕もう一人で眠れないもん。」


伊織がヴィルフリートに抱き付き、ぎゅうっと力を入れる。抱き枕に抱き付く様に伊織の脚がヴィルフリートの片脚を挟み、伊織の胸がヴィルフリートの身体で潰されている。


「…嬉しい事を…だが、余の言った事を全く覚えていない様だな。」


「ヴィルさんの言う事なんかわかんない。…でも、一緒に寝てもいいって思うのはヴィルさんだけ…」


伊織がヴィルフリートの胸に頭を押し付けてぐりぐりと動かす。ヴィルフリートが伊織の頭を撫でると動きを止めた。


「イオリ、味見をしても良いか?」


伊織にヴィルフリートが問い掛けるが、伊織の反応がない。ヴィルフリートは嫌な予感を感じながら、伊織を少し揺する。


「…イオリ?」


伊織からは微かな寝息が聞こえる。ヴィルフリートは溜め息を吐いて、ヴィルフリートにぴったりとくっ付いた伊織を両腕で包んだ。


「…余の忍耐を鍛えておるのか…?」


ヴィルフリートがぽつりと呟いた言葉は夜の闇に消えて行った。



----------------------------------------------------------------



伊織は夢を見た。家族の夢。


「伊織ちゃん、皆元気だから幸せになってね。」


母が洗濯物を干す合間に晴れた空を見上げて言った。


「伊織、パパは伊織の無事を遠くから祈ってるぞ。」


父が仕事の合間にビルの外の空を見て言った。


「伊織!私よりイケメンの彼氏捕まえたら、承知しないんだから!」


藍が海に向かって叫びながら言った。


伊織がこの世界に来たのは偶然じゃないらしい。



----------------------------------------------------------------



(…僕、ちゃんと幸せだよ…)


起きるとヴィルフリートが伊織を覗き込んでいる。伊織の目尻に伝う涙を拭ってくれた。どんな夢を見ていたか思い出せない。でもすごく幸せな夢の様な気がした。


「…ヴィルさん…僕、今すごく幸せ…」


温かい気持ちが胸を満たしていて、思わずヴィルフリートに気持ちを吐露した。

ヴィルフリートが微笑んで額に口付けてくれる。


「…もう少し寝るがいい。本日は共に寝坊するのも良かろう。」


伊織は幸せな気分のまま、ヴィルフリートの腕の中でもう一度眠りについた。

伏線回収ー!

家族の話はそのうちきっちり入れます。ママとパパの名前とかも!



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