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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
異世界への旅立ち
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プロローグ

初投稿です。

至らぬ点があると思いますがご容赦ください。


目が覚めたら、ふわふわと宙に浮いていた。

何を言ってるのかわからない、と思うかもしれないけれど伊織にも何が起こっているか分からなかった。

混乱と恐怖と不安でどうにかなりそうな心境のまま下を向くと、驚いた表情の黒の神父のような服を着た人達がこちらを見ながら何かを言っているのが見えた。


「ぁ…あの、……あの!!」


思い切って声を掛けてみるも、誰も視線が合わない上に聞こえていないのか伊織の後ろを見ながら何かを話すのをやめる様子もない。

そこでようやく伊織は自分が見られている訳じゃないと思い当たり、後ろを振り返って絶句した。


「…なんで……どうして…。」


そこには水晶のような無色透明な石の中で目を閉じて浮いている自分に似た少女。

似た人であって伊織ではないと思う。

なぜなら伊織は"男″だからだ。

それでも石の中の少女は無視できないほどに伊織にそっくりだった。

ただ、どう見ても胸にハッキリと分かる程膨らみがあった。


(これは…僕?…でも…僕は男で…でも…ここはどこ…?)


先ほどから視界に入る神父のような服を着た多数の人と、その背後に見えるノイシュヴァンシュタイン城のような建物、自分の下に見える泉と振り返った時に見えた神殿のような建物。

そしてずっと浮いているのに、伊織には見向きもしない人達。


「…僕が見えていないの…?」


ふと呟いた内容に、愕然とした。

ここはどこなのか。自分はどうしてここにいるのか。なぜ自分が見えないのか。

そもそも自分は先程まで自宅で母と姉の着せ替え人形になってたはず…。



----------------------------------------------------------------


篠原伊織(しのはらいおり)は自分の部屋で母と姉に着飾られていた。

物心つく以前からデザイナーの母と5歳上の姉によって日常的に女物の服を着せられてきた伊織にとって、女装はそれほど抵抗があるわけではない。

抵抗はなくてももうすぐ18歳になる男としては嫌だ。


「伊織ちゃん、今度はこっち。」


「はいはい…。なんでわざわざ僕が女物の服を着なきゃいけないの…。」


「文句言わないの。ホントは私が着ればいいんだけどね…、こういう可愛い系の服って似合わないのよね~。」


母が差し出したハイウエストの膝下まであるスカートを受け取りながら、伊織が文句を言うと姉の(あい)が苦笑いしながら窘めた。


「伊織はお母さん似だからこういう服似合うし、華奢だし、下手な女の子より可愛いからちょっとくらい付き合ってくれても罰は当たらないわよ。それにちゃんと付き合わせる代わりに後で好きなもの買ってあげるって約束じゃない。」


「可愛いとか言われてもうれしくないし。確かに約束したけど…、何で女装して行くの?わざわざウィッグまでつけて行かなくてもいいじゃん。」


キッと藍を睨んで、口を尖らせながら拗ねる伊織に母はのほほんと微笑み、伊織の頭に腰まである長いウィッグを付けた。


「伊織ちゃん、ママのデザインした服着てくれないの?」


「うっ…、家の中で着るのは別にいいけど、外にまで着て行くのはヤダ!」


悲しそうにいう母に文句を重ねる伊織に藍がため息を吐きながら、伊織のブラウスの首元にあるリボンを結んだ。


「でももうスカート履いたら出かける準備終わりじゃない。それとも今からまた着替える?」


「今日のコンセプトは清楚系お嬢様なのに…。」


母と姉が同時にため息を吐いて、伊織を見詰める。


「…もうっ!着ればいいんだろ、着れば!」


伊織が自棄になってスカートを履きながら叫べば、藍がにっこり笑いながらすかさずスカートの後ろのウエストを絞るリボンを締め上げて結んだ。


「~っ!く、くるし…!いきなり締めないでよ…!」


「あら、ちょっと締めただけじゃない。そんなに苦しくないでしょ?憎たらしいほどに細い腰ね~。」


「まあまあ、藍も着替えなさい。そろそろパパが待ちくたびれてる頃よ。」


「はーい。じゃあがんばってね、伊織。」


(何を頑張れと…)


姉が服をもって部屋を出ていくのを横目で見ながら、伊織はため息を吐いた。

自分はどうにも母と姉に弱いのだ。


「さ、伊織ちゃん。仕上げにこれつけてね。」


伊織を鏡の前に立たせて、ウィッグのサイドをバレッタで後ろで留めて、ブレスレットを渡した。

大きめの紫水晶が付いた鍵のモチーフの綺麗なブレスレットだった。


「ちょ…アクセサリーまでつけるの?」


「ふふ、伊織ちゃんが幸せになる鍵なのよ。」


眉を下げる伊織を鏡越しに見ながら、意味深に母が笑った。


「もう、何言って「じゃ、伊織ちゃん。幸せになるのよ~。」


そういって母は後ろから思い切り伊織を突き飛ばした。

鏡にぶつかる直前、目を瞑ったところで伊織の意識は途絶えた。



----------------------------------------------------------------


(そうだ、母さんに突き飛ばされて…。)


もう一度振り返って、石の中の少女をまじまじと見た。

確かに伊織がここに来る直前に着替えた母がデザインした服。

手には紫水晶のブレスレット。

気になって自分の体を見下ろす。


(同じだ…しかも胸もある……。これ…やっぱり僕だよね…。)


見下ろした自分の体にショックを受けて泣きそうになり、慌てて視線を逸らす。

とりあえず伊織だとして、どうにかしてこの石の中から出さないといけないし、もし伊織が生き霊の様なモノなら身体に戻らなくてはいけない。キョロキョロとあたりを見渡していると、神父のような服を着た人達が急に跪いた。


(え…?どうしたのかな…)


どうやら誰か来たようで、城の方から神父のような服の人を先頭に、軍服のような黒い服を着た人を中心にして後ろにホテルの制服のような詰襟の人と騎士のような格好の人が周囲を警戒しながら6人歩いてきた。


(うわ…あの人すごいイケメンだな…)


男らしく精悍な顔立ちに、黒く艶やかな短い髪、母に渡されたブレスレットの紫水晶の様な瞳。身長も高く、周りの護衛(?)の人達にも引けを取らない体格。歳は20代半ばくらいだろうか。

あまりにも整った顔立ちに思わずガン見すると、顔を上げた軍服の男と目が合った。

びっくりして視線を逸らすために俯くと、近づいてくる足元が目に入った。


「女。何処からここに入った。」


「えっ…」


驚いて思わず声を出して顔を上げると、やはりこちらを凝視した軍服の男と目が合う。


「…陛下、あの様な石の中にいるのでは娘には聞こえていないのでは…」


そのまま見詰め合っていると後ろに付き従っていた男が、しばらくしてから軍服の男に話しかけた。

男は少し考える素振りを見せ、伊織の後ろに視線を向けた。


「…女、その石の中にいるのはお前だろう。お前が戻らねば石からは出られぬぞ。」


周りの人は首を傾げて石のあたりを見渡している。

どうやらこの人には伊織が見えているらしい。

それでも自分にはどうやれば身体に戻れるかわからない。


「…あの、どうやったら戻れますか?」


思い切って話しかけるが、どうやら声は聞こえてない様で男の反応はない。

伊織は泣きそうになりながら首を横に振った。


「…戻り方が分からぬのか?」


問い掛けに何度も頷いて、後ろを振り返る。


「石に触れて、戻りたいと願うがいい。」


言われた通りに石に触れると、触れた部分から紫色に染まりながらひびが入った。


(戻りたい…っ!)


スッと指先から全身に氷に包まれたような冷気を感じ、急速に意識が薄れていく。

最後に見えたのは、砕け散る石と同じ瞳の色を持った男だった。


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