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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
紫水晶の導
19/94

問題解決…?

久し振りにあの人が登場(◦`꒳´◦)


 


「失礼致します。」


 執務室を出たバルトロメウスを始め他4名が入ってくる。バルトロメウスとカルラは伊織とヴィルフリートの前に、ギルベルトとアニエッタ、フランツィスカは後ろの壁際に控える。

 アニエッタとフランツィスカは伊織の様子を窺い、アニエッタはホッとし、フランツィスカはウインクした。どうやら心配させたらしい。ヴィルフリートに見えない様小さくピースサインを返した。


「さて、その者の処遇だが。」


 ヴィルフリートが先程伊織が解除した防音結界を再度施した。伊織をソファの隣に降ろしてギルベルトの方は見ずに手を差し出す。ギルベルトが恭しく剣を手に乗せた。伊織は大丈夫だとは思いつつもハラハラと固唾を飲んで見守る。

 カルラが跪いて(こうべ)を垂れた。


「イオリに感謝するが良い。貴様の命、イオリのモノと思え」


 言い終わるや否や、ヴィルフリートが後頭部の高い位置で一本に結われた髪を掴み、根元より15センチ程残して切った。バルトロメウスに顎をしゃくって後ろ手に縛っているロープを解かせる。ロープが解けた後が赤くなっている。

 カルラが頭を上げ、髪を結っていた紐が解ける。髪は肩ほどまでの長さになっていた。


「貴様の処遇は名を捨てる事だ。そしてカルラ・ギュンターは表向きは死んだ者となる。新たな名はイオリに貰うが良い。」


「…私は…私は、貴女様を殺そうとしたのですよ?何故…」


 ヴィルフリートの言葉を聞いて、カルラが伊織を真っ直ぐ見詰めて来る。伊織は苦笑いして首を振った。


「だって怪我とかしてないし。自分の知る人がいなくなっちゃうって悲しいよ」


 ヴィルフリートが剣を収めてギルベルトに渡すと、防音結界を解いて伊織の隣に座り直す。隣に座る伊織を引き寄せて膝に乗せた。


「…俺はお前が変わってくれて嬉しいぞ。」


「余はイオリ以外どうなっても良い。」


 苦々しくヴィルフリートが言うのを聞いて、伊織が居た堪れない気持ちでバルトロメウスに頭を下げた。


「…そういえば、バルトさんって僕の兄さんなんだってね。」


「おう、親父は娘が出来たってすごい喜び様だったが、どっかの誰かさんが腕の中に閉じ込めるからまともに話せなかったとしょぼくれてたぞ。」


「戯言はもう良い。イオリの専属騎士試験は明後日に実施する。知らせておけ」


 ヴィルフリートは強引に話を終わらせて手を払うように振った。バルトロメウスは溜め息を吐いて執務室を出て行く。カルラも後を追うように出て行こうとする所をヴィルフリートが声を掛けて引き止めた。


「…貴様の名、ないままで良いのか?」


「あ、そういえばそうだね。…んー、同じじゃダメなの?」


 中々いい名前が思い浮かばず、ヴィルフリートを見上げて尋ねる。ヴィルフリートは軽い溜め息を吐いた。


「…同じでも構わぬが、少なくとも姓は変えねばならん。その者の身内に害が及ぶ可能性もあるのでな。」


 その言葉にますます悩んで唸った。視界の端でギルベルトがお茶を淹れ直しているのが目に入り、助けを求めるように見詰める。


「…何かございましょうか。」


 伊織の視線に耐え兼ねたギルベルトがお茶をテーブルに置きながら伊織に尋ねる。その間一度も伊織と目を合わせない。


「…ギルベルトさんなら、いろいろ知ってそう…」


 伊織のキラキラとした期待の視線と、視線で人が殺せそうな程のヴィルフリートの視線、アニエッタ、フランツィスカ、カルラの同情する視線を受け、ギルベルトの背中に冷や汗が伝う。伊織から見ると全く変化なかったが。


「…ヴァイスは如何でしょうか。帝国に多い姓ですので、名前だけ聞けばまずバレることはないでしょう。」


「カルラ・ヴァイス。うん、今日からお姉さんの名前はカルラ・ヴァイスね!」


「はっ!謹んでお受け致します。」


 カルラがもう一度跪いて頭を下げた。伊織は嬉しそうに笑ってヴィルフリートを仰ぎ見る。ヴィルフリートは頷いて伊織の頭を撫でた。


「カルラ・ヴァイス。本日よりイオリの専属騎士とする。…イオリに関しての詳しい話はそこのギルベルトと侍女2人に聞くが良い。」


「拝命致します。我が命、死す迄イオリ様の為に。」


(かっこいい!)


 立ち上がって騎士の礼を取るカルラを伊織がキラキラした目で見詰めていると、室温が下がった気がした。伊織は悪寒を感じて両手で腕を摩る。目の前のカルラは顔を蒼白にしていた。


「さて、イオリ…余は手数料は貰ったが報酬は貰っておらぬな?」


「え…?」


 ヴィルフリートの言った意味がいまいち分からずに戸惑って見上げると、ヴィルフリートが獲物で遊ぶ獅子の様に目を細めた。


「部屋に戻る。其方等はその者と打ち合わせでもするが良い。」


「し、執務は…?」


 無駄な足掻きと思いつつも口に出して見るが、視線で封殺された。慌てて膝の上から降りようと脚を降ろした所で後ろから腕を回され、ヴィルフリートを椅子にした様な態勢になった。


「イオリの為に常軌を曲げたのだ、其れ相応の褒美を請求しても良かろう?」


「…っ!…え?…えっ!?」


 後ろから耳元で囁かれて肌がぞわりと粟立つ。自分でもよくわからない感覚に身体が硬直した。

 ヴィルフリートは器用にイオリの身体を横に向けて、そのまま軽々と立ち上がる。反射的にヴィルフリートの首に縋り付いた伊織に、ヴィルフリートが喉で笑った。そのまま部屋に向けて歩き出すヴィルフリートに伊織は執務室に残る者に視線で助けを求める。伊織の視線は綺麗に無視され、カルラに至ってはあからさまに視線を逸らされた。


「う、裏切り者おおおぉぉぉ〜〜……」


 伊織の叫び声が段々遠ざかりながら廊下にこだました。



----------------------------------------------------------------



 ヴィルフリートの私室に着くと、ソファに先程と同じ様にヴィルフリートの膝の上に座らされた。伊織は何をさせられるのかとビクビクと身構える。ヴィルフリートはその様子に目を細めて黒く笑う。


「余は無理矢理は好かん。そう身構えずとも取って食ったりはせぬ。」


 耳元でわざと色気を含ませた声で囁き、伊織をからかう様に背中に手を這わす。ビクッと身体を震わせる伊織にヴィルフリートはクッと笑う。笑った時の吐息が耳に掛かり、伊織はピクリと再度身体を震わせた。顔は真っ赤に染まり、うるんだ目でヴィルフリートを睨んだ。


「その様な顔をされると味見だけでもしたくなる。」


 伊織は混乱してぎゅっと目を閉じ、子供がいやいやとする様に頭を振った。このまま流されそうな気がして怖くなる。それにヴィルフリート相手では伊織もまともに抵抗出来ない事は分かっていた。


「…そんなに怖がらずとも何もせぬ。」


 伊織の様子にヴィルフリートが苦笑いして折れてくれる。伊織はぎゅっとヴィルフリートの服を握って肩に額を押し付けた。


「ヴィルさんの意地悪…」


「手を出した方が良かったのか?」


「ち、ちが…くて!…またからかった…」


 伊織が口を尖らせて拗ねる。ヴィルフリートからすると自分は子供かもしれない。大人として扱われると困る癖に、子供として扱われるとモヤモヤしてどうしたらいいのか分からない。ちょうど大人と子供の狭間で揺れる伊織は、ヴィルフリートにどう応えていいのか戸惑う。ヴィルフリートは好きだが、それが親愛なのか恋愛なのかが分からない。


「…僕の気持ちがはっきりするまで、待ってくれる?」


 伊織が俯いて、ヴィルフリートの肩に額を置いたままぽつりと小さい声で問いかける。ヴィルフリートの息を吐く音に過剰に反応してしまう。


「…余の忍耐を試しておるのか?」


 苦笑い混じりに言われて額を押し付けたまま首を振る。

 ヴィルフリートが背中を優しく叩いてくれて、伊織はやっと顔を上げた。


「今日はこれで勘弁してやろう」


 言われた直後に唇を食まれて吸われ、最後にぺろりと舐められた。伊織は硬直し、一瞬で耳まで真っ赤になる。


「な…な、なな…なに…」


「さて、腹が減ったな。」


 ヴィルフリートは伊織が唇を手の甲で隠して吃っているのを何食わぬ顔で放置し、伊織をソファに降ろすと立ち上がって魔道具でギルベルトを呼ぶ。

 ギルベルトが部屋に入って来て、赤面して放心した伊織を一瞥し、ヴィルフリートに頭を下げた。


「お呼びでしょうか。」


「腹が減った。昼食を用意せよ。」


「直ちに。」


 ギルベルトが再度頭を下げて部屋を出て行った後に、漸く伊織が正気に戻った。ヴィルフリートを見れなくて、伊織がうろうろと視線を彷徨わせる。

 ヴィルフリートの私室は伊織の使っている部屋とは違い、重厚な落ち着いた色味でまとめられている。部屋の面積も皇帝が使うに相応しい広さがあり、置かれている調度品もシンプルながら上質な物だ。その中の一つに酒ばかり並べたキャビネットがあり、伊織の興味を引いた。


「ね、ヴィルさん。あれはお酒?」


 伊織の弾んだ声にヴィルフリートの眉が動く。伊織は立ち上がってキャビネットの中を眺める。


「…飲みたいのか?」


「僕の住んでた国は、20まで飲んじゃいけない事になってたから飲んだ事ないんだよね」


 綺麗なガラスの様な瓶に入ったお酒を興味深そうに眺めていると、ノック音がした。扉が開けられてギルベルトとアニエッタ、フランツィスカが入って来て頭を下げ、テーブルに料理を並べる。


「飲んだ事がないのなら、イオリにそこの酒は強い。それに甘くないから飲みにくいだろう」


「そうなんだ。うーん、どうせなら甘いお酒がいいなぁ」


 料理が並べ終わるのを見てソファに座り、ヴィルフリートを意識しない様にテーブルの料理を見る。


「おいしそう。いただきます。」



----------------------------------------------------------------




 昼食を終えて、執務に向かうヴィルフリートを見送る。結局どう頑張っても意識してしまって、昼食の味はよくわからなかった。私室に戻り、だらしなくソファに寝そべる。


「ねぇ、アニー、フラン…ヴィルさんは僕のどこがいいのかな?」


 うつ伏せで脚をパタパタ動かしながら、思い切って聞いてみる。アニエッタとフランツィスカは顔を見合わせた。


「…可愛らしく幼い顔に身合わない豊満な肉体とか…」


「フラン、巫山戯ないの。…イオリ様の物怖じしない所でしょうか。陛下の立場上、はっきりと意見する方はいらっしゃらないでしょうから。」


 アニエッタが茶化すフランツィスカを窘めて、真面目に答えてくれる。

 伊織が内容を考えて真剣に悩んでいると、扉が勢いよく開かれてアーデルハイトが入ってきた。


「失礼しますわ!さぁ、今日こそ貴女に勝って見せますわ!」


 いつもの通りビシッと伊織にセンスを向け、高らかに言い放つ。伊織はソファに寝そべったままアーデルハイトに向かって手を振った。


「あ、ハイジ。いらっしゃい」


「ハイジと呼ばないで下さいまし!貴女に愛称を許した覚えは無くってよ!」


 伊織の向かいのソファにアーデルハイトが座った。伊織は身体を起こしてアーデルハイトに苦笑いする。

 アーデルハイトはこの2ヶ月間度々伊織の部屋に突撃して来ては勝負を迫るが、(ことごと)く伊織に話を逸らされ、結局お茶をして帰るというパターンに陥っている。しかも、それに気付かずに帰ってから思い出し、また勝負を仕掛けに来るという循環が出来上がっている。所謂(いわゆる)残念な子なのだ。


「ハイジはさ、ヴィルさんのどこがいいの?」


「なんですの、いきなり」


 伊織が話を振ると、アーデルハイトが訝し気に伊織を見る。


「気になっただけ。」


「全て良いのだけど…あえて言うなら、立ち振る舞いかしら。堂々と力強くて、他者に流されない。素敵だと思いますわ!」


 アーデルハイトがヴィルフリートを思い出してるのか、うっとりと浸っている。伊織はアーデルハイトの言葉に、自分もヴィルフリートの好きな所を考えてみた。

 優しくしてくれる。泣いてると傍に居て宥めてくれる。淋しくない様に気を遣ってくれる。

 伊織がうんうん唸っていると、アーデルハイトが出されたお茶を飲みながら伊織をジトッと見てきた。


「…何かありましたのね。私、まだ認めていませんわよ。」


「何かって、何が…?」


 伊織はそろそろと視線を外して、口元を引き攣らせる。アーデルハイトの視線に、視線を戻すとキッと睨まれた。


「…言っておりませんでしたけど、私ついこの間婚約致しましたの。だから貴女は認めませんけど、貴女の行動にとやかく言うつもりも御座いませんのよ。」


「…キス…したの」


 アーデルハイトの後押しに伊織が小さな声で呟く。アーデルハイトには聞こえなかった様で首を傾げて瞬きしている。


「何ですって?」


「…だから!キスしたの!」


 伊織が顔を赤くして声を大きくして言うと、アーデルハイトが呆れた様に溜め息を吐いた。


「キスくらいで、大袈裟ですわよ。」


 アーデルハイトがなんでもない風に伊織に言う。伊織はショックを受けてソファに手を付いて肩を落とした。


「私、むしろキスしかしていないと聞いて衝撃ですわ。実は陛下って奥手な方なのかしら。」


「…僕の気持ちがはっきりするまで待ってって言ったの。」


 アーデルハイトは伊織の言っている意味を考えて首を傾げる。伊織は気付いていないのだろうか。


「待てって事は、結局は許すって事ではありませんの?はっきりするも何も、貴女自身で答えを出してますわよ。」


 アーデルハイトの言葉にハッとして、手を胸の前でぎゅっと握る。伊織は目を閉じてヴィルフリートを想う。


「…僕は、ヴィルさんが…好き…?」






伊織ちゃん自覚する。

変態紳士に磨きが掛かるヴィルフリートさん。


※お知らせ※

活動報告の方でアンケートを実施しております。

名前からユーザーページに飛んで、よろしければ活動報告のコメントに意見をお願いします。


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