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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
紫水晶の導
18/94

事情聴取のち色仕掛け!?

ヴィルフリートさんの溜め息回(笑)

ついでにいつになく喋るヴィルフリートさん。



女性が走って来て剣を振り下ろした。が、剣は伊織に当たる事なく、向かって来た女性ごと弾かれた。伊織の周囲には障壁が張られており、後頭部からぱきっという何かが割れる音が聞こえてきた。

周囲の(ほのお)が消えて、少し後ろにいたアニエッタとフランツィスカが女性と伊織の間に立ち塞がる。それぞれの手には武器(ナイフ)が握られていた。女性はすぐさま他の女性騎士候補に取り押さえられる。


「陛下の魔法防壁ですわね。」


「イオリ様、髪飾りの石が割れておりますので、お気を付け下さいませ。」


女性が取り押さえられるのを確認してアニエッタとフランツィスカが伊織の身体に傷がないか確認する。それと同時に髪飾りと割れた石が除かれた。 後ろを振り向くとヴィルフリートがゆっくり近付いて来るのが見えた。その両眼が真紅に染まっている。


「やはり余の魔力に耐えなかったか」


伊織の無事は当たり前らしく、髪飾りを確認すると、取り押さえられた女性を冷淡に見下ろした。伊織からはヴィルフリートの表情が見えないが、先程見えた真紅の瞳に思わず背中に縋り付く。


「ヴィルさん、僕に任せてくれない?」


ヴィルフリートから離れ、その脇を通り抜けて跪かされた女性の前にしゃがんで、顔を覗き込む。


「ねぇ、君の名前はなんていうの?」


女性は伊織と視線を合わせることもなく、何も喋らない。


「さっき妹さんの為って言ってたよね。妹さんがどうしたの?」


「…答える義理はない。」


妹、と聞いて瞳が揺れるのがわかった。じゃあもう一つ、と伊織が跪かされた女性の首にかかるペンダントを触る。


「これ、写真とか入ってそうだよね。」


「やめろ!」


女性の制止にペンダントから手を離し、立ち上がってヴィルフリートを振り返った。

ヴィルフリートの静かに伊織を見詰める眼を見返す。


「ヴィルさん、彼女が僕に攻撃するの知ってたでしょ。」


「…ああ。」


伊織が精一杯眼に力を込めて睨んで、ヴィルフリートを問い質す。


「彼女の名前も、妹さんの居場所も知ってるよね?」


「………」


「沈黙は肯定とみなします!」


「…ああ。」


ヴィルフリートが諦めた様に溜め息を吐いて頷く。伊織は再度女性の前にしゃがみ込む。


「だって。じゃあ行こう」


「どこに行く。」


ヴィルフリートがすかさず立ち上がった伊織の腰を抱き寄せる。伊織は後頭部をヴィルフリートの胸に預け、そのまま顔を上に向けてにっこり笑った。


「救出大作戦?」


「余が許可するとでも思っておるのか?それにその女の妹は帝都にはおらぬぞ。」


ヴィルフリートの憮然とした態度に伊織は腕の中でくるりと反転し、上目遣いで小首を傾げる。駄目押しとばかりに淑女マナー講座で習った涙の出し方をフル活用して涙目を作り、ぎゅっと縋り付いた。


「ね、お願い…ヴィルさん」


「…イオリが行くのは許可できぬ。その女の妹とやらは助けてやっても良い。」


ヴィルフリートが伊織から視線を逸らして溜め息を吐いた。


(…むー、こうなったら最終手段っ!)


伊織はヴィルフリートの首に手を回して背伸びをし、頬にちゅっと軽く口付けた。ヴィルフリートが一瞬固まり、驚いた様に伊織を見る。伊織は恥ずかしさに頬を染めて、内心羞恥に身悶えながら、もう一度上目遣いにヴィルフリートを見た。


「…ダメ?」


「…詳しい話をここでする訳にもいかぬ。後日再試験とし、ここで有った事は秘匿せよ。」


ヴィルフリートは深い溜め息を吐き、伊織を抱き上げて踵を返しながら前半を伊織に、後半を周囲に向けて声を張り上げた。


「バルトロメウス、その女を余の執務室に連れよ。」


「はいはい。」


バルトロメウスはやれやれ、と肩を竦めてヴィルフリートを見送り、女性のところに行くと後ろ手に縛り上げた。



----------------------------------------------------------------



「ちょっと、降ろして…」


執務室に入っても伊織はヴィルフリートの膝に乗せられて、腕の中に囲われていた。どんなに抗っても、そんなに腕の力は入ってなさそうなのに外れない。


「暴れるでない。落ちたらどうするのだ。」


伊織がジタバタとしてる間にギルベルトがお茶を淹れて、テーブルに置く。伊織は暴れている事さえ恥ずかしくなり、大人しくヴィルフリートに凭れ掛かった。

執務室は大きな机が窓の前に置かれており、休憩用にか、机の前にソファセットがある。両壁に書棚があり、全体的に重厚な調度品で統一されている。


「…僕が執務室に入っていいの?」


「真っ先に狙われる執務室に重要な書類が有ると思っておるのか?」


大人しくなった伊織の髪を梳きながら、ヴィルフリートがクツクツと笑って答えた。伊織がムッとヴィルフリートを睨んだ。


「…意地悪。」


「バルトロメウス・ディーゲルマン、参上致しました。」


執務室の扉がノックされて、外から声が掛かる。伊織は再び膝の上から降りようと暴れるが、難なく抑えられてしまった。


「入れ。」


バルトロメウスが縛り上げられた女性を伴い部屋に入って来た。礼を取ろうとするバルトロメウスを手で制し、口を開く。


「…伊織がどうしてもと言う為妹とやらを助けるが、貴様の罪がなくなった訳ではない。」


「承知しております。」


「なんで!僕、何ともないじゃん!」


淡々としている周囲に伊織が焦って声を上げる。ヴィルフリートの顔を伺い見ても無表情で伊織には見向きしない。


「嬢ちゃんが何ともなくても、貴人に手を出すって言うことはそれ相応の罪になる」


バルトロメウスが仕方ないといったように、頭を掻きながら教えてくれる。


「ヴィルフリートが皇帝である限り、寵姫の嬢ちゃんの言動一つで首が飛ぶのもあり得るってこった。十分気を付けような。」


バルトロメウスの言葉に愕然とする。不安気にヴィルフリートを見上げると溜め息とともに頭を軽く叩かれた。


「イオリはそろそろ自分の立場を理解した方が良い。今回は特別に同行を許可する。…妹とやらの居場所だが…ギルベルト。」


「はい。」


ギルベルトが地図を持ってきてテーブルに広げる。ヴィルフリートに地図の一部を指差した。


「北部辺境、ホラント・リーネル辺境伯の領地、来週より視察する予定の所だ。…女、イオリの暗殺期限は」


「…7日後でございます。」


「やはりな。」


ヴィルフリートは頷いているが、伊織には全く理解出来ない。そもそも説明もなしに理解出来るはずもない。


「ちょっと待って!ちゃんと説明してよ。それにお姉さんの名前も聞いてない!」


このまま黙ってたらどんどん話が進んでしまう予感がして、慌てて口を挟む。ヴィルフリートは女性に名乗るように顎をしゃくった。


「…カルラ・ギュンターでございます。」


カルラが名乗って頭を下げる。


「僕は伊織ね。それで?」


伊織は簡潔に名乗って、ヴィルフリートを仰ぎ見る。ヴィルフリートは溜め息を吐き、伊織の背中を宥める様に撫でた。


「…その者が伊織に手を出す事は前以って分かっておった。妹を盾に取られてる事も、背後にいるのが辺境伯だということも。その為、余の魔力を込めた魔石を髪飾りにして渡したのだ。」


ヴィルフリートが一度区切り、お茶を口に含んだ。


「ホラント・リーネルは前皇帝の時から脱税や領民への重税の嫌疑があった。それだけではなく、他国との密輸、人身売買、麻薬の栽培…挙げればキリがないが。だが巧妙に証拠を隠して尻尾を掴ませなかった。」


一息吐いて伊織に視線を向け、髪を撫でる。伊織は居心地が悪そうに身じろぎ、そっと視線を逸らす。視線を逸らした先にはニヤニヤしているバルトロメウスと伊織と同じ様に居心地が悪そうに視線を逸らすカルラがいた。


「…リーネルには年頃の娘がいる。イオリが現れなければ余の妃最有力候補であった。…諜者(スパイ)が10日程前にその女にリーネルの手の者が接触したと連絡して来た。そして、女の妹がリーネルの手の者に拐われた事も。大方、余の視察までにイオリを屠って娘に既成事実でも作らせようと目論んだのだろうな。だが、(ようや)く掴んだ手掛かりを易易(やすやす)手放すには惜しいと思わぬか。」


ヴィルフリートが伊織の機嫌を窺う様に、顎を掴んで顔を覗き込む。伊織は胡散気にじとっとヴィルフリートを見た。


「だから僕を囮に使った、と」


「リーネルを追い詰めるいい機会だったのでな。7日後という期限だが、出立は5日後。転移門を使用してリーネルの領邸まで3日。」


唸る伊織にヴィルフリートが宥める様に額に口付けを落とす。伊織はギャッと声を上げ、顔を赤くしてヴィルフリートの口を手で塞いだ。


「…そろそろいちゃつくのはやめてもらいたいんだがな。」


バルトロメウスが呆れた様に声を掛けた。伊織はまたも忘れていた2人の存在に、耳まで真っ赤になり俯いて顔を隠す。


「さて、貴様の処遇だが。」


「はい、如何(いか)なるしょ「ちょっと待った!」


伊織は顔を上げて、カルラの発言を遮る。ヴィルフリートが眉を顰め、黙っていろと、視線を寄越した。


(ぐぬぬ…こればっかりはほっぺじゃ無理かも…)


「ヴィルさんと2人で話したいな!」


伊織はカルラの為に清水の舞台から飛び降りるつもりで、苦渋の決断をした。ヴィルフリートの眉がピクリと動き、訝し気に伊織を窺う。バルトロメウスがやれやれ、とカルラを連れて執務室を出た。伊織が視線を向けると、ギルベルトとアニエッタ、フランツィスカも頭を下げて出て行った。出て行くのを確認した伊織は習ったばかりの風魔法で防音結界を張る。


「お願い…!」


「何を言い出すかと思えば…前例を作る訳にはいかぬ。未遂であっても皇族の殺人は死罪だ。」


(死罪…!?)


「僕は皇族じゃないじゃん!」


「伊織は臣下に下った前皇帝の弟…我が叔父の養女となっている。末端となるが歴とした皇族だ。バルトロメウスは兄に当たる。」


知らされた内容に驚いて絶句する。ヴィルフリートが背中を優しく撫でた。


「よって、あの女を赦す事は出来ぬ。」


「僕がどんなに頼んでも…?」


伊織は言い縋るがヴィルフリートは首を振る。伊織の目から涙が浮かんで、視界が歪む。ヴィルフリートの溜め息が聞こえて、目元に口付けられた。


「…イオリはよく泣く。…それ程あの女に死なれたくないか。」


「ぅ、…ひっく…じ、じぶん、の…っく…知り合っ、た人…ズズッ…死、のヤダ…」


しゃくりあげながら必死に言い募る伊織にヴィルフリートがまた溜め息を吐く。


「先程なにやら考えていた様だが、イオリが余を丸め込む作戦があったのではないのか?」


「…丸め、込まれ…、くれる?」


ヴィルフリートに背中を撫でられて、落ち着いてきた伊織が瞬きしてヴィルフリートを窺う。ヴィルフリートは肯定する様に背中を優しくぽんぽんと叩いた。


(…お願い…!)


伊織はヴィルフリートと対面になる様に座り直し、膝立ちになって首に手を回すと、きつく目を閉じてヴィルフリートの唇に軽く唇を触れた。すぐに唇を離すと膝の上から滑り落ちる様に慌てて降り、手の届かない所まで逃げた。


「…仕方が無い。」


ビクビクと様子を窺う伊織にヴィルフリートは苦笑して手を差し出した。伊織はその手を取って、膝の上に戻ると防音結界を解いた。


「もう良い。入れ。」







伊織ちゃんがあざと系ヒロインになってしまった…( ꒪⌓꒪)

でもって、今回は砂糖吐く勢いでしたね。

ヴィルフリートさんの使い方を学習した伊織ちゃんと、ついつい伊織ちゃんのお願いを聞いてしまうヴィルフリートさん。

伊織ちゃんは小悪魔ぽいですね!

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