小話 ある日の一コマ。
割烹に載せていた小話です。
「ねぇ、ヴィルさん。バルトさんから聞いたんだけど、空いた時間にしょっちゅう騎士団で訓練してるんでしょう?見に行ってもいい!?」
伊織が突然部屋に入ってきて、ソファに座ったヴィルフリートにキラキラした目で詰め寄る。勢いが付いた所為か顔の距離が近く、ヴィルフリートは軽く顔をずらして伊織の頬に口付けた。伊織が顔を赤くして慌て、後ずさって背中を逸らす。すぐ後ろのテーブルが脹脛にぶつかって体勢が崩れた。
「危ないだろう。」
ヴィルフリートががっちりと伊織の腰に腕を回し、転倒は回避した。が、今度は前に倒れ、ソファに座るヴィルフリートの顔が伊織の胸の谷間にちょうど埋める形になる。
ヴィルフリートの呼吸が布越しに伝わり、伊織の顔がトマトの様に赤く染まった。ヴィルフリートは呼吸がし辛かったのか、顔を横に向けて伊織を引き寄せて持ち上げ、膝に座らせた。
「ヴィ…ヴィ、ヴィルさんのえっち!」
「…えっち?と言うのはなんだ。」
普通に聞き返され、伊織の口がぱくぱくと開閉する。どうやら説明するのはやめたのか、口を噤んでヴィルフリートの胸元に顔を隠した。
「で、余の修練が見たいと。」
「…うん。ハイジがね、凄くかっこいいって言うから…。」
伊織はヴィルフリートの胸元に顔を隠したままもごもごと話す。今更だが、伊織はヴィルフリートの膝を跨ぐ様に座った体制に羞恥を覚え、降りようと身じろぎした。ヴィルフリートが叱咤する様に伊織の腰をぐっと引き寄せる。
「イオリは運動が苦手だろう。よく躓く。今も、落ちたらどうするのだ。」
「ひゃっ!」
背筋を撫でられて、擽ったさに声が出た。先程より密着した身体に、羞恥でヴィルフリートの顔が見れない。
「見たいのなら、今度共に行くか。」
平然としているヴィルフリートが憎たらしい。伊織がせめてもの反撃としてヴィルフリートの胸元に抱き付く。ヴィルフリートの胸板は厚く、硬い。
「失礼致します。お茶のおか…失礼致しました。」
ギルベルトがワゴンを押して部屋に入るが、ソファに座る2人を見て一瞬固まり、瞬時に踵を返して部屋を出て行く。
「ギルベルトさん待って!違う!!ちがうからああああぁぁぁ!!!」
伊織がヴィルフリートを突き飛ばす様にして膝から降り、ギルベルトを追い掛ける。ヴィルフリートはその様子に苦笑いし、ため息を吐いた。
「…邪魔が入ったか。」
呟いた言葉は伊織の叫び声に掻き消された。
fin
ヴィルフリートさんがラッキーな話。
伊織ちゃん可愛いよ( *´艸`)