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灯火の誓い〜もう奪われたくない。ひとりで生きることを選んだ少年は、 雪解けの道で、行き倒れた少女に出会う  作者: 水瀬 理音
幕間

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10/15

王と忠臣

 その頃、ラファス王城では――


 薄明の空に、王城の尖塔が静かに影を落としていた。

 謁見の間では、長く伸びた赤い絨毯の上を、ひとりの将校が進み、玉座の前に膝をつく。

「陛下にご報告いたします。聖堂にて昨日、火災および暴動が発生。一時混乱状態に陥り、例の聖女候補が行方不明となりました」

 玉座に腰掛けていたのは、レヴィウス・ルヴェルク王だった。

 白い指先でひとつ頬杖をついたまま、報告を聞いている。

 金髪を後ろに撫でつけた端正な顔立ちは、一見すると優しげな青年王の印象を与える。だが、薄い緑の瞳だけは違った。

 若い顔立ちに似合わず、王としての振る舞いをすでに身につけた眼だった。

 視線を向ける角度も、言葉を発するまでの間も、すべてが自然に整えられている。

 その所作が生む空気が、玉座のまわりに静かに張りついている。

「……続けよ」

「聖堂からの報告によれば、近隣の村で発見し“保護”を試みましたが、少年が〈黒聖(こくせい)〉を殴打によって気絶させ、聖女候補を連れて逃亡したとのことです」

 短い沈黙が落ちる。

「少年ひとりに、か」

 乾いた声だった。

 感情を表には出さない静かな声音。だが、彼を知る者は、その底にある冷たい嘲笑を感じ取った。

 レヴィウスは片手を宙に滑らせた。

「もうよい、下がれ。――ヴァルデン将を、ここへ」

 やがて扉が開く。一瞬、革が床を踏む硬い気配がして、すぐに消えた。

 黒衣の男が、影のように現れた。銀の留め具を留め、風を吸い込んだような外套。足音すら響かせぬ歩み。だが、その存在感は空気を裂くように鋭い。

「お呼びとあらば、すぐに」

 歩みを止めると、男は胸に手を置いた。儀礼の言葉も、膝を折る所作もない。

 簡素な敬礼だけで用は足りる――それが許される、数少ない男だった。

 頭は下げない。視線だけが王へ向く。

 周囲の侍従が、わずかに身を引いた。

「行ってもらおう。次期聖女を迎えに。追い詰める必要はない」

 レヴィウスの指先が、肘掛けを軽く叩く。

「従わせろ、ヴァルデン。自分で戻るしかないと、そう思わせればいい」

 静かながら、苛烈な命令だった。

 それを受けたヴァルデンは、ほんの僅か、口元だけで笑った。目は笑っていない。

「この任、拝命いたします。選ばせてやる顔をして、選択肢を奪う……馴染み深いやり方です」

 レヴィウスの視線が細くなる。

 追い詰めて潰してしまえば、元も子もない。

 生かしたまま従わせるほうがずっといい。その方が、扱いやすい。

 そのためには――自ら檻に入ってもらうのがよい。

「どうせ行くあてなどない。しばらく彷徨えば、足が止まる。国の外へは出すな」

 ヴァルデンがわずかに頷く。

「仰せのままに」

「すぐに検問を強化しろ。――南方、ヴェルナとの国境だ」

 レヴィウスの声音は変わらない。だが、その奥にある意思は冷徹そのものだった。

「特徴は“白金の髪の少女”。逃亡時は、一人の少年と行動を共にしていたらしい。少年の容姿や年齢、そして二人の関係性は不明。だが、同伴者がいる。それが厄介だ」

「……同伴者の処遇は?」

 ヴァルデンが問う。

 レヴィウスはしばし考える素振りを見せたが、やがて静かに告げた。

「抵抗するようならば処せ。現場での判断はお前に任せる。お前は王の剣だ。お前の決定はそのまま私の決定としてよい」

 ヴァルデンの唇がわずかに歪む。

「承知しました」

 そして、ゆっくりと一礼し、玉座の間を後にする。

 その背に向かって、レヴィウスが低く囁くように言葉を継いだ。

「……私の檻は、美しいまま閉じるのが理想だ。棘も、爪も、血も見せずに」

 レヴィウスは冷笑した。

 彼の“剣”はすでに動き始めていた。張りつめた氷のように、その足音は、見えないまま広がっていく――。


第一章はここで幕となります。

以降は 毎週〈火・金〉更新予定です。

リセルとエリシアの旅路の続き――どうぞ見守ってください。

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