雪の果て
雪が降る空の色は、いつもあの時と繋がっている。
見るたびに胸が軋む。
――雪が白いなんて、誰が言ったんだ。
目の前に降り頻る雪は灰色で、ただ心を塗りつぶしていく。
空と大地の境目は、もう曖昧だった。
轟音が耳を掠め、方向感覚が薄れていく。
前を歩く隊列のランプだけが、行く先を示しているように見えた。
――雪は嫌いだ。
もう、見たくない。
リセルは、肩に食い込む荷を背負い直し、重い息を吐いた。
こうして山を越えている間だけは、余計なことを考えなくて済む。
ただ、前へ進むことだけを考えろ。
誰かといるのは、もうごめんだ。
自分のために人が死ぬのを、二度と見たくない。
それでも、この大陸に雪が降る限り、空はいつだってあの日に自分を閉じ込める。
リセルは頭を振った。
だから働く。金を貯める。海を渡る。
ここじゃない――東の大陸へ行く。
もう誰とも関わらないと、そう決めていた。
「……わかってるよ、フィン」
目の前に飛び込んだ大きな背中が、赤く滲んでいく。
焼け焦げた雪原。冷たくなっていく手。
その温度だけが、今も離れない。
『生きろよ、リセル』
最後に聞いた声が、風の底から蘇る。
話しかけるみたいに、呟いた。
「――約束だ」
(俺は、生き延びる。ここじゃない場所へ行く。だから、お前も――見ててくれ)
地吹雪が舞い上がり、鈍色が視界を覆っていった。




