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7.竜騎士のおつかい

 不思議な竜・エマの一日はこうだ。


 三食のエサ。一週間に一度の身体清掃。何かの素材にするとかで、鱗をもぎ取られることがある。


 たまにユリウスがやって来て、訓練の一環でエマに運動をさせる。色々な合図でどう動くかを教え込まれる。エマの中身は人間なので、覚えはすこぶるいい。


 飛ぶ練習も始めた。鞍の付け心地があまりよくないが、ユリウスを運ぶ手前、我慢する。


 ユリウスはすっかりエマに心を許していた。




 ある日彼はこんなことを言った。


「君には癒しの力があるみたいなんだ。出来れば、戦場に連れて行きたい」


 戦場。


(そういえば、ランベルトさんもそんなこと言ってたな。魔族との戦争がどうとか)


 エマが狩られたのは、その戦争の為なのだろう。


「先に言っておくけど、俺も竜騎士のはしくれ、戦場で命を落とす可能性がある。だからその前に101号には竜獄入りして欲しかったけど……あんなことになっちゃったからな」


 どうやらユリウスは、誰にも言えないことを竜や動物に話す傾向があるらしい。この前は牧場の馬にも何やらたくさん話しかけていた。特にエマはうっすら人間臭い反応をするので、ついつい彼も長く話してしまうようだった。


「しばらくお前はうちの移動用の竜として働いてもらう」


 エマは戦闘よりは小間使いの方が気が楽だと思い、頷いた。


「早速だが、今日から働いてもらおう。ちょっと待ってろよ」


 ユリウスは屋敷へ戻ると、トマスと共に二つの小さな鉄籠を持ってやって来た。


「陛下から要請の手紙が来た。これは虹色蜥蜴。こっちは天空蝶。どちらも新種、これを持って来いと仰せだ。今日は、これを王宮へ運ぶ」

(陛下……王宮……)


 エマはそこでようやく、この世界に王宮があることを知った。


(きっとそこに、この世界の王様が住んでいるんだわ。どんな人なのかな?)


 エマは立派な髭を生やしたご老公を頭に思い浮かべた。


「大丈夫、心配はいらないよ。場所は俺が案内しよう」


 ユリウスはエマの背に乗ると、トマスから籠を二つ受け取った。


「さあ、行こうか」


 エマはそれを合図に、バサリバサリと翼を動かした。草原の草が風圧で倒れ、その竜は舞い上がる。


 エマは大空へ飛び立った。ユリウスの手綱が、エマを右へと倒す。エマは右方向に旋回した。彼女の体は既に竜の飛び方を心得ていた。


 眼下に草原と、街の塊が見えて来る。その中央には、おとぎの国にあるような白亜の城があった。


(あれが王宮かな?)


 どうやらユリウスは郊外に居を構えており、王都から随分離れた辺境に暮らしていることが分かった。


 彼は背中から声をかけた。


「あれが王都だ。中心の城の方へ向かうぞ!」


 エマは徐々に体を前のめりに傾け、滑空する。ユリウスが手綱を動かして、王宮の前にある巨大な公園までエマを導いた。


(ここでいいのかな……)


 降り立ち、その公園をぐるりと見て、エマはどきりとする。


 公園だと思っていたものは、動物園だった。柵や檻の中に見たこともない動物たちが捕らえられている。柵の向こうの動物たちの目も、エマを物珍しそうに見つめ返している。


 一方のユリウスは慣れた様子でするりと竜から降りると、鉄籠を両手にぶら下げてエマを見上げた。


 と、突然、両側から見知らぬ兵士がエマの足に鉄球をつける。


「!?」

「ちょっとここで待っていてくれ。俺は陛下と話して来るから」


 言うなりユリウスはくるりとエマに背を向け、王宮へと歩いて行く。


(あっ、ユリウス。ちょっと待ってよ……!)


 エマは急にひとりぼっちにされて不安になった。しかし口から出るのは、グオングオンという情けない竜の鳴き声だけだった。




 ユリウスは珍しい蜥蜴と蝶をたずさえ、王宮内へと足を踏み入れた。


 王からの招待状を衛兵に見せ、王座の間に入る──かと思いきや、そこを通り抜けて裏庭に出る。


 裏庭には巨大なガラスの温室があり、その温室をぐるりと衛兵が取り囲んでいた。


 ユリウスは温室の玄関口にいる見張りの衛兵の前に立つ。


「失礼いたします。陛下からの要請で新種を二種、お届けに参りました」


 そう衛兵に告げると、扉が開かれる──


 ガラスの温室内は、世界中から集めた色とりどりの花で溢れ返っていた。そして極彩色の花の間を派手な模様の蝶が舞い、メタリックカラーの蜻蛉が空間を裂いて飛ぶ。金銀の鳥籠が並び、中には美しい声の小鳥がめいめいのメロディーをさえずっていた。


 まるで、天国のよう。


「……随分、鳥が増えたな」


 ユリウスは周囲を見回しながらひとりごち、衛兵を従えながら奥へと向かった。


 奥には、肩に白い梟を乗せた背の高い青年が佇んでいる。


「陛下」


 ユリウスは背後の衛兵に鉄籠を預けながら、前へ進み出た。


「お久しぶりでございます。本日は以前ご依頼のあった、新種をお持ちいたしました」


 そう声をかけられると、青年は微笑する。銀色の髪、透き通るような白い肌。色素の薄い銀色の瞳がこちらを興味深く見つめていた。

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ブレイブ文庫様より
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