5.竜獄
次の日。
トマスはなおも疑り深い視線をこちらに投げかけてはいるが、鉄格子の裏側から革の鞍を引っ張り出してエマの背に装着していた。
今日は竜獄へ行くのだ。
檻が開かれ、その鞍にユリウスが飛び乗った。
「101号。早速、竜獄を見に行こう。いずれお前はそこで暮らすのだからな」
エマは緊張した。実は、空を飛ぶのは初めてだ。
(見に行くって言われても……〝飛ぶ〟って、どうやるの?)
エマは何事か念じ、背中の翼を広げた。どきどきと胸が鳴る。何度も翼を上下させる。この〝羽ばたく〟という動作、結構疲れる。
(こうかな?えいえいっ!!)
翼を何度もはためかせると、足がふいに地面から離れた。
(うわわわわわわ!)
一瞬コントロール不能に陥ったが、上空の風に乗るとあとは流れで飛んで行く。
「101号!あの山の向こうだぞ!」
風に押し流されそうになりながら、エマは一生懸命翼をはためかせ、更にスピードを上げた。
(山……山?)
エマは上空からその山を見て、息を呑んだ。山が巨大な円形の〝壁〟を作っている。
(あれは山というより、カルデラだわ)
確か阿蘇山もこのような形状であった。が、〝竜獄〟は更に中央部が深い。
(上空から見ると、まるで古代ヨーロッパの城塞のよう)
深い穴から、謎の古い〝塔〟が乱立している。新宿区のビルの群れのようだ。
近づいてみて、その全貌が見えて来る。
塔とは、竜の住まうアパートメントだった。ひとつの階につき一匹の竜がいて、無数の鉄格子からその様子が見え隠れする。そして乱立する塔の間を、竜に乗った竜騎士が巡回して飛んでいるのだ。いわばここは〝竜の飼育所〟。彼らの乗る竜はここで飼われているようだった。
エマはその物々しい光景を眺めたが、不思議と嫌な気分にはならなかった。まるでゲーム画面を見ているような非現実感があり、むしろプレイヤーとして参加させられているような高揚感を覚えた。
(不思議な場所……ダークファンタジーな世界観ね。私はここに囚われるんだ)
それを眺めていると、背中でユリウスが言う。
「ここは国王軍の管轄で、戦闘用の竜を飼う場所だ。死ぬまでエサは潤沢に与えられる」
「……」
「お前も戦闘用に訓練しようと思っていたのだが、ちょっと気になることがある」
エマはどきりとした。
「トマスの言い分もよく分かるんだ。お前は妙に賢い。賢過ぎるほどに」
「……」
「生肉を嫌うのも、竜らしからぬ行動だ。ローストしたものしか食べないとは……人間に近すぎる」
(私もそう思います)
とエマは思った。
「お前は一体、何者なんだ?」
彼が問うた、その時だった。
向こう側から竜騎士の大群がこちらに向かって来た──




