39.魔王の行先
ユリウスとエマは、デーモンのいる牢から王宮内へと戻った。
二人は休む間もなく学者の集まる広間に通された。
各地から、魔王の皮に関する情報が集まっていたのだ。ユリウスが地図に印をつけ、その地点をピックアップして行くと、魔王が次に通るであろうルートがおぼろげながら見えて来る。
魔王が脱皮してきた場所には、共通点があった。
「ふーむ。魔王は竜の生息地をまたいで移動しているようだな。それから、魔王は人間が住んでいる谷底を好むようだ」
学者たちが言う。
「魔王は人間を食べるからな。そういった場所は、エサ場と隠れ家を兼ねているのだろう」
ユリウスが尋ねた。
「魔王の皮は見つかりましたか?」
「ツールース村にひとつ発見した。掘り返して、現在は王宮で管理している」
「どれくらい食べればいいんだろう……」
「……食べる?」
「あ……いや、こっちの話です」
「ところでユリウス殿。聖女様は魔王の皮を食べると竜に変身なさるそうですな。戻るには、どうやるんですか?」
素朴な疑問なのだろうが、いっとき裸になるのでエマが竜人に戻るところを見せるわけには行かない。ユリウスは言った。
「魔力を失えば竜人に戻ります。ただ……魔王と同じく、彼女はそのタイミングをはっきりと見せてはくれません」
「へえ。聖女様も魔王と似た属性をお持ちなんですね」
ユリウスも、彼らと同じことを考えていた。
確かに夢を見せたり、誰かを転生させたり、飛んだり、同時期に動き出すところなど、聖女と魔王は共通点が多い。
(時間をかけて謎を解き明かすことになりそうだな)
エマが言う。
「魔王が脱皮のたびに人がいる谷に身を隠すのだとすれば、派兵すべき場所は限られて来るのではないかしら?」
学者が地図に印をつけて行く。
「とすると──アルバレイズ、それからタルナートですね」
アルバレイズの南にはもう一本川があり、そこも人の住む渓谷地帯だ。
現状、国内で派兵するのに目ぼしい場所は、その二カ所に絞られた。
学者が言う。
「魔王がヴァルテルミ国外に出る可能性もありますが、どうやら竜を嫌っているようなので国外には出辛いでしょうね。我が国の国境付近は竜の生息地が多くありますので」
エマは思う。
(きっと前の聖女はそこまで考えて、この国に封印したのね)
ヴァルテルミの民からしたらひどい話ではあるが、世界全体のことを考えると、前の聖女がここに封印したのはなかなかいいアイデアのように思った。
「必ず一回で成功するわけではないわ。〝皮〟は計画的に使わなくては──」
エマはそう言って、竜に戻る自分をシュミレートした。
どれだけの魔力があれば魔王を封印できるのか、全く見当がつかない。
エマとユリウスは二人で部屋に戻り、テーブルを挟んで向かい合う。
「これからの計画なんだが──」
ユリウスは先程の地図を広げた。
「今、魔王の皮は俺の手元にひとつ、それから王宮にひとつある。なのでこれを一回分食べて、アルバレイズで魔王を封印しよう」
彼も同じことを考えていたようだった。
「必ず一回で決まるかは、分からないものね」
「ああ。もしかしたら、実はもっと皮が必要になるのかもしれない。今のところそのあたりも未知数だ」
全ての情報が伝承されているとは限らない。長い年月の間で歪められたり失われたりして、伝わらなかった情報もあるだろう。
「魔王と竜人は、ちょっと似た性質を持っているようなの。だから、実は私の中に魔王を倒すための答えが眠っているかもしれない」
エマの言葉に、ユリウスも頷いた。
「そうなんだよな。それに、気になっていることがあって」
「何?」
「前の聖女はなぜ、魔王を封印したんだろうってずっと思っていたんだよ。誰かに命令されたとしたら、誰に命令されたのか?自発的に封印したのだとしたら、その理由は何なんだろうって」
エマは偶然ユリウスを好きになったから、この世界を守ろうとしているに過ぎない。しかし、前の聖女は偶然魔王を封印したのだとは思えなかった。
エマをこの世界に転生させてまで魔王を封印したかった聖女。脱皮を繰り返し成長するために、転生したデーモンを集める魔王。どちらかというと聖女の方に、何か魔王を追いかける大きな目的、または魔王を倒す理由がありそうだった。
「本当ね……何でなのかしら。私、前の聖女様のことを何も知らないの」
「彼女が魔王を封印したがったのには、何かワケがありそうだよな」
「……」
(きっとそれが明らかになるのは、魔王を倒した時──)
これが聖女の勘というものなのだろうか。エマの脳裏にふとそんな言葉が思い浮かび、武者震いのように震えた。
そうっとユリウスの手が彼女の手に重ねられる。
「!」
「エマ、震えてる」
「……」
「怖い?」
「……」
「最後まで、俺はエマと一緒にいる。だから大丈夫」
エマは微笑んで頷くと、ユリウスの手をそっと握り返した。
それから、果たして彼女にこのような存在がいたのだろうか──と、前の聖女に思いを馳せる。




