35.聖女の居場所
王宮に行くには、竜に戻らなければならない。
ユリウスは外に出ると、早速蛇の皮をひとつまみ取り出した。
「さあ、エマ。これを食べるんだ」
エマはひとかけらを食べた。すると、次の瞬間。
ブチッ。
服は弾け飛び、エマはむくむくと青い竜に変身した。
「凄い!即効性があるな」
ランベルトは素直に驚いたが、デーモンは腕を前に組んで疑問を呈す。
「何だ?あの皮……ヤバいって」
エマの背にユリウスが乗った。
「さあ、お前も乗れデーモン。お前が見たことを洗いざらい王宮で吐くのだ」
「美味しいご飯を用意しないと、話さねえからな!」
「はいはい、わかったわかった。じゃあ念のため、足枷をさせてもらうぞ」
「……話聞いてる?」
デーモンはユリウスと共に変身したエマの背に乗った。
ランベルトも自らの竜にまたがる。
二体の竜が、王宮に向かって飛び立った。
王宮では既に厳戒態勢が敷かれていた。
空を、見たこともない燃える大蛇が飛んで行ったのだ。兵士に囲まれ、コルネリウスは空を眺めた。
「あの大蛇は、一体どこへ行こうと言うのだ?」
「陛下。すぐに全兵士へ出動命令を……!」
コルネリウスはそれを拒んだ。
「調査が先だ。相手は空を飛んでいる。うかつに相手の懐に飛び込んで、いたずらに兵を減らすわけには行かない」
彼はじっと考え、その場にいた将官数人へ号令をかけた。まずは防衛が先だ。
「兵の半分を各関所に投入しろ。地域をあのモンスターの攻撃から守れ。近衛兵は、手分けしてアカデミーにいる教授たちを王宮へ連れて来い」
「はっ」
「ああ、そうだ。シュタルク家にも声を……」
その時だった。
あの大蛇と入れ替わるようにして竜が二匹こちらへ向かって来たのだ。しかも片方の竜には、魔物が乗っている。
あわや出動か、となる兵を、コルネリウスは手で制した。
「待て。あれに乗っているのはシュタルク家の面々だ」
兵たちが引き、動物庭園に竜が二匹降り立つ。
エマは竜として振る舞うことにした。
ユリウスはデーモンの足枷をエマに繋ぎ、王の前に進み出る。
「ご報告がございます。先ほど空を舞う不思議な大蛇に関し、あのデーモンから証言を得ましたので取り急ぎ参りました」
「ほう。どのような証言を得たのだ?」
ユリウスはエマのことは隠しながら、ギドー渓谷での出来事を洗いざらい説明した。コルネリウスは信じられない、という顔をする。
「魔王か。そしてギドー渓谷の集落には、大蛇の皮が埋められていたと……」
「はい。私の予想では、あの大蛇の弱点は脱皮中にあるのではないかと踏んでおります。脱皮中は、動きが鈍るのだと──だからあえて魔物に号令をし、皮を隠したのではないかと」
「ふーむ、なるほど。とすると、次の脱皮まで待たなければ倒せないか」
「その間に、かつての伝説をもう一度精査する必要があるように思います」
「確かにそうだ。生物学者と同じくらい、今回は考古学者や人文学者の力が必要になるだろうな」
「それから、あそこにいるデーモンは言葉を話せる新種です。彼も研究するべきです」
デーモンはそれを聞いてあからさまに嫌な顔をしたが、他方、コルネリウスは彼に興味を隠せない様子だ。
「……話しても大丈夫か?」
ユリウスが進言した。
「その前に、ひとつよろしいでしょうか」
「何だ」
「あのデーモンは豪華な食事を要求しております。それがなければ、情報提供はしないと」
「そんなことを?……まあ、緊急事態だ。仕方あるまい」
それを聞くや、デーモンの顔が晴れた。
「よし、じゃあこの足枷外せよ。夕飯はフルコースでお願いな!」
しかし、彼は周囲を兵士に囲まれてしまった。
「お、おい。何するんだよ……!」
「食事が欲しくば牢に入れ」
「え~?せっかくなんかいいホテルみたいなところに来られたのにぃ。空きの客室とかないの?」
「さっさと歩け!」
デーモンは有無を言わさず武器を突き付けられ、渋々歩き出した。
コルネリウスは梯子を外されて少し前のめりになったまま、彼らを見送る。
デーモンがこちらを振り返る。
「ちぇっ。おい、ユリウスとやら。ちょっとでも危害を加えて来るようなら、こっちも容赦しねえぞ」
「はいはい」
再び動物庭園は静けさを取り戻した。
コルネリウスが言う。
「ユリウスはしばらくここへ残ってくれ。あれが本当に魔王ならば、聖女がどこかに現れるかもしれない。魔王への対策を練るのだ」
ユリウスはちらりと竜のエマを振り返った。
「少し……お時間をいただいてよろしいでしょうか。慌てて馳せ参じたもので……一度屋敷へ戻って、準備を整えてから再び参ります」
「そうか。なるべく早く来てくれ」
「かしこまりました」
ユリウスはエマに囁いた。
「行こう、エマ」
ランベルトがどこか心配そうに二人を眺めている。
ユリウスはエマに乗ると、ふわりと空を舞い上がった。




