33.魔王の復活
エマは愕然とした。
その炎を纏った大蛇は、まさに先程見た夢の中の魔王だったのだ。
「もう魔王が復活したと言うの……?」
どうやらあの夢は過去を見せていたのではなく、まさに今の状況を見せていたらしい。
「エマ、魔王って……?」
「ユリウス、あれが魔王だわ。私が夢で見た通りの姿よ!」
禍々しい大蛇が現れると、竜獄から一気に竜が飛んで行く。
エマは叫んだ。
「だめ!魔王を倒すのはあなたちには無理よ、帰って来て!」
しかし声は届かず、竜たちは燃え盛る大蛇に向かっては、燃え落ちて行く。
ユリウスは笛を吹いた。
〝緊急!帰れ!〟の合図だ。
異常に気づき、竜騎士を乗せ前進していた竜たちが、回れ右をしてファームにやって来た。
ユリウスは彼らに取り囲まれる。
「おい、あれは何だ?」
「触れるとこっちが燃えちまう」
「あれも魔物なのか?」
ユリウスの背後から、ひょっこりと半妖のエマが出て来た。
「こっちにも化け物が……!?」
とやにわに彼らはざわついたが、エマは言った。
「あれは魔王です」
全員が困惑する中、ユリウスが止めに入る。
「待て。その話をするのはまだ早い」
「えー?だって……」
ユリウスは、まずは彼らにエマのことを説明した。
「みんな!この青い人間は敵ではない、新種だ!今のところシュタルク家において研究中だ。この話はあとでする。とりあえず今は……あの燃え盛る大蛇の話だ」
ユリウスは話題を変えた。
「あれは、直接傷をつけようとしても駄目なようだ。常に炎を纏っているから、下手に近づいたらこっちがやられるぞ」
尚も疑惑の視線がエマに注がれているが、竜騎士たちも話題を戻した。
「どうしたらいいんだ?」
「あれを野放しにしていたら、被害が拡大する」
ユリウスは言う。
「まずはあれの生態を調べなければ。でも、どうやって……」
エマが言った。
「私が行くわ。だって私しか倒せないって聖女様が」
「ああ、もう……だからこそ危険なんだ。魔王とやらはエマを狙っているかもしれないんだぞ?」
すると、ほかの竜騎士が言った。
「大蛇はあの山から出て来たな?まずは、あの周辺を調査するべきだ」
「王宮に伝えろ。調査チームを作らなくてはならないと」
「市民の安全をどう守る?パニックにならないよう、厳戒令を敷かないと」
騒ぎが拡大して行く。
エマは、こちらをあざ笑うかのようにゆったり上空を蛇行して行く魔王を睨んだ。
「あいつは一体、何を企んでいるの?」
確か、神話によると魔王は〝人を食べる〟とあった。
「私が出来ることって、何だろう……?」
まだ判然としないところはあるけれど。
「私が、止める方法を考えなきゃ」
竜騎士たちの間で話がまとまり、彼らは散り散りに去って行く。
ユリウスはエマに告げた。
「俺は王宮へ陛下と情報を共有しに行く。今は緊急事態だ。エマも協力して欲しい」
エマは頷いた。
「私はずっとそのつもりよ」
「……さっきから勇ましいのは構わないけど、エマが魔王討伐の全責任を負っていると勘違いしてもらっちゃ困る。兵士による攻撃が先。君は最終手段だ。出来る限り俺から離れるな。それからさっきみたいにでしゃばるのも禁止。いいな?」
「えー……」
「口を尖らせるなっ。俺はエマが心配で仕方ないだけなんだよ!」
確かにエマの魂は聖女によって転生させられたが、ユリウスは偶然そんな女の子を好きになってしまっただけなのだ。別に彼は彼女に今世の義務を果たしてもらいたいわけではなく、ただ好きだから一緒に居たいだけなのだ。
「ユリウス……そうだよね、ごめんね」
「分かってくれればいいんだ。エマの飼い主は聖女様じゃなくて、俺なんだからな」
「ふふっ。そういえば、そうだったわね」
エマは、なるべく長くユリウスと一緒に居たいと思う。
ユリウスも同じ気持ちだったようで、エマの肩を引き寄せると彼女の頭に軽くキスをした。
そんな時、遠くからとんでもない速さでランベルトの竜が飛んで来る。
「あっ、あいつ……騒ぎを聞きつけてすぐに来たな」
ランベルトは慌てた様子で竜から降りて来た。
「おおおおおい!あれ、見たか!?」
「今、竜騎士たちとその話をしていた」
「あっ。くっそー、話題に乗り遅れたか……」
そして、ランベルトはエマの肩を抱いているユリウスを見ると
「……あのさぁ。こんな短期間でユリウスは、エマを……?本当に、お前って奴は!」
と親友に苦言を呈し始めた。ユリウスは叱られた子どものように言い訳を始める。
「だって……」
「だってじゃありませんっ」
「好きになっちゃたから……」
「まあ……何となく予想はついてたけどさぁ!」
ランベルトは嬉しいとも、腹立たしいとも分からない声を出した。
「とにかく、緊急事態だ。僕も泊まりがけで協力する」
「ありがとう、ランベルト」
「まずはあの新種のモンスターを調べよう。まずはどうしたらいいかな、当主様?」
ユリウスはじっと考え込んでから、
「実は、ずっと気になっていることがあるんだ」
と告げた。
「へー、気になってること?」
「ああ。ギドー渓谷に、見慣れない大蛇の皮が埋められていたという事件のことだ」
ランベルトの眼鏡が、獲物を見つけたようにきらりと光った。




