表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜に転生したら竜騎士様から溺愛されています。※ただしペットとして  作者: 殿水結子@「娼館の乙女」好評発売中!
聖女伝説の真実

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/46

31.聖女の真実

 竜になったエマは大人しく檻の中に入った。


「……今日は、コース料理は食べられないな」


 と、ユリウスが苦笑いでひとりごつ。エマは不貞腐れたように麦藁の上に丸まった。


「ここに服、置いておくよ。あと……黒板も」


 エマは、それを聞くや顔を上げた。


 チョークを持って字を書こうとするが、竜の爪は非常にチョークを持ちにくい。


(ここは、改良の余地ありね)


 エマは何とか爪先でチョークを持つと、黒板にこう書いた。


〝へびのかわよくきく〟


 ユリウスはそれを見て笑う。


「本当だな。やはり、あいつらが大蛇の抜け殻を隠していたのには、わけがあったんだ」

〝なにそれ?〟

「言ってなかったか。ギドー渓谷で、魔物たちが大蛇の抜け殻を埋めて隠そうとしてたんだよ。あれはきっと、魔物にとって貴重品だったんだ」

〝いいおくすりなのかな〟

「多分ね。まだまだ俺たちは、魔物について研究が足りないみたいだ」


 エマは何だか元気がない。その様子を見て、ユリウスは彼女の頭を撫でた。


「竜に戻る方法が見つかって良かった。これでしばらくは、魔物の襲撃に耐えられる。竜は強いからな」

「……」

「心配しなくていいよ。どんな姿でも、俺はエマが好きだから」


 エマはほろりと涙を流した。心と体がついて行かないという状況は、どんな形であれ苦痛なのだ。


「今度は、ヒト型のエマに戻る法則を見つけたいな。まだ、本当に疲労が原因でヒト型になったのかの確認が取れていないし……」


 エマは頷いた。


(今は、ユリウスを信じるしかない……か)


 エマも、もっと勉強したくなった。とにかく、文字をスラスラ読めるようになりたい。


「おやすみ、エマ。また明日来るよ」


 エマは月明かりの中、言葉も出せず好きな人の背中を見送った。


 寂しさはあるけれどやはり竜の体は頑丈なので、魔物数匹ごときには怯えずに済む。


(竜の皮って、強いのね。そりゃ鎧にもなるわよね……)


 エマはうとうとと、深い眠りに落ちて行った──




 エマは夢を見た。


 真っ黒な空間がある。


 竜になったエマの目の前に、赤い炎が噴き出していた。


 そこに近づいて行くと、懐かしい声がした。


──エマ──


 エマはきょろきょろと辺りを見回す。


──魔王を倒せるのは、あなただけ──


「は?魔王を、倒す……?」


 エマがそう呟くと、目の前の炎が姿を変え、火柱となった。


「わっ!」


 エマは腰を抜かした。火柱はとぐろを巻いて、エマに襲い掛かる。


「助けて、誰か……!」


──かつての私のように──


 そこでエマは、我に返った。


「あっ。まさかあなたは……この国を作ったとされる聖女様?」


 いつもの声は、小さく震えた。


──聖女?いいえ、私は竜人──


 エマの目から、自然と涙がこぼれた。


「竜人?この体は、そういう種族なの?」


──竜人とは、古に滅んだ種族。竜と人とが愛し合って生まれた、人を癒やす種族なのです──


 火柱が輪になり、エマの周囲を取り囲む。


──竜人だけが魔王を倒せます。あなただけが頼りです──


「私だけが……そうか。だから……」


 エマは絵本の聖女が青い髪をしていることを思い出した。


「ねえ、竜に戻るにはどうしたらいいの?」


 エマが問うと、竜人は言った。


──あなたが竜人であることを悟られぬよう、私の魔法で竜にしていました。この魔法はエマの魔力と連動しています。魔力が増えれば竜に、半分以下になると竜人に戻ります──


 事件と事件の辻褄が合って行く。


 エマが魔物に襲撃されたのも、魔力を切らしてしまったからなのだろう。


(ということは、魔王や魔物はもう私のことを知っている……)


 途端に、エマの背中がぞくりと粟立った。


(居場所も姿も、何もかもを知られている。ということは……)


 エマは取り囲んで来る炎を睨んだ。


(私が今からこの世界で平和に暮らすためには──魔物を、魔王を……私が倒すしかない)


「ねえ、どうやって魔王を倒すの?方法を教えて!」


 竜人の声が告げる。


──魔王を癒しなさい──


「はあ!?」


──魔王は眠りを求めている……──


「意味わかんないっ」


──ひとりでは無理です、協力者を募りなさい──


「だ、誰を?」


 すると、その時だった。


 火柱が、黒い空間の天井に何度もぶつかる音がする。


 そこにいたのは──


 エマと同じ、青い色の肌の、青い髪を持った少女。


 その少女の喉元へ、火柱が噛みつく。


 そして、食い破る。


 血が、エマに降り注いだ。


「きゃあああああああ!」


──あの少女は、私──


 エマはばたんと仰向けに倒れる。


「うう……あれが……聖女様?」


──私の力では、もう……──


「そっか。聖女様、ずっとここで魔王と戦っていたんだね」


──……──


「次は私の番なのね?」


──ごめんなさい。あなたのような自己犠牲を厭わない清らかな魂が、どうしてもこの世界に必要だったの……私、この世界を救いたい……だから、あなたの魂を召喚したの。本当にごめんなさい──


 エマは首を横に振った。


「私、この世界を好きになったから……やってみるよ」


 夢の中で喉を食い破られている少女は、微かに笑った。


──ありがとう──


 黒い空間は、一気に霧が晴れたかのように白くなった。


 そこには、血も、涙も残ってはいない。


 長い長い火柱は天高く昇り、少女が塞いでいた空間の裂け目を通って、外へ出て行った。


「……あいつが、あの長いものが、魔王……」


 魔王とはまるで、炎をまとった蛇のようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on ↓Amazonページへ飛びます↓ i1044276
ブレイブ文庫様より
2025.11.25〜発売 !
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ