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半妖のエマ

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22.家デート

 ユリウスの屋敷は、ロの字型になっている。


 玄関ホールの奥に、中庭があるのだ。そこは温室になっていて、熱帯の植物が植わっている。


 エマは彼と共に足を踏み入れ、嘆息した。


 あの日、ユリウスを乗せ空で見た月光蝶が、ユラユラと光りながら各所を飛んでいる。ガラスばりの天井から直射日光が青々とした観葉植物を照らし出している。緑色のワニが草陰からこちらを見つめていた。


「わー、素敵。植物園になっているのね?」

「新種は、まずはここで飼育するんだ。植物園というより研究所かな」


 エマはユリウスと腕を組んで歩きながら、


(これって……いわゆる〝おうちデート〟では?)


 などと自分に都合のいい解釈をしていた。


 ユリウスは真っ赤なハイビスカスのような花を手折ると、エマに差し出した。


「これって……プレゼント?」


 エマが興奮気味にそう問うと、彼は尋ねた。


「花を貰うと、嬉しい?」

「ふーん。このプレゼントも研究の一環なのね?」


 興覚めした彼女がそう問い返すと、ユリウスはどきりと図星の表情をした。


「図星の顔しないでよ。いいわ、正直に言うね。嬉しいわよ。私、心は普通の女子だもん」


 エマは真紅の花を耳のひれに引っ掛けた。


「どう?似合う?」


 ユリウスは空気を読んだ。


「……似合ってるよ」


 まだ、互いに腹を探り合っている状態なのだ。エマは自分に迎合して来た彼にちょっと苛立った。竜の時の方が、会話はなくともよほど心が通い合っていたように思う。


 エマは彼の瞳を見上げると、開き直った。


「どんどん私のこと、研究して。何でも教えてあげる」


 エマを見下ろすユリウスの目が、途端に揺れ動く。


「……何でも?」

「お望みとあらば」


 ユリウスは少し耳を赤くすると、困ったように後頭部をボリボリと掻いた。


 エマは沢山の未知の植物や生き物に触れ合う。


「ところでユリウス、こんなのをどこで見つけて来たの?」


 ユリウスは答えた。


「シュタルク家では、男児が産まれると段階を追って職に就かせるんだ。産まれてから15歳までは軍人教育を受けさせる。15~17歳までは国の支援を受けてグランドツアーに出し、新種専門のハンターをさせる。17~19歳にはそこで採集した動植物を研究させる。竜の医師をするのはその後だ。ここにあるのはそのツアーで採って来たものばかりなんだ」

「へー!全部ユリウスが見つけて来たの?」

「ううん。半分が父で、半分が俺」

「そうなの……」


 エマはユリウスが当主であると知っているので、彼の父のことについてはあえて聞かなかった。


「じゃあこの植物園は、シュタルク家代々のみなさんが作ったお庭なのね」

「そういうことになる。研究が済めば、陛下の要請で動物庭園などに寄贈することもある」

「この前は、天空蝶と虹色蜥蜴だったわね」

「よく覚えてるな。やっぱり竜の時も、人間の言葉を全部聞いてたんだ」

「そうね。人間の声は出せなかったけど、人間の言葉は今と変わらずよく分かるの」


 二人は温室を出た。


「次はどこへ行こう?」

「本はないかな?絵の多い子供用の本があるといいわね。書斎とか……」

「うちには書庫がある。行ってみるか」


 中庭をぐるっと回り込むと、その向こうに書庫があった。


 古い本にありがちな、埃臭い香りが充満する部屋だ。


 書棚の一番下から、ユリウスは一冊の美しい装丁の絵本を取り出した。


「これだよ。これが、ヴァルテルミ王国の国造り神話の絵本だ」


 エマは手渡されたそれを、穴のあくほどに見つめる。


 聖女の髪は、青く描かれている。


 表紙ではその聖女が中央に立って、舞うような動きを見せている。文字は何を書いてあるのか分からなかったが、ページをめくるとありありと聖女の奇跡が目に飛び込んで来た。


「ユリウス。聖女様、髪が青いわね」

「?確かに、言われてみればそうだな……絵描きの解釈ってだけなのかもしれないが」

「ねえ、これ読んでよ」

「今?ま、いいけど……」


 二人は並んでソファに腰掛けた。


「むかしむかしあるところに、魔物の住む国がありました。


 魔王が治めているその国では、人間は家畜にされ、つぎつぎに食べられていました。


 その様子を空の上から見ていた竜たちは人間を哀れに思い、彼らを助けるため、陽の光から救い主の聖女を作り出しました。


 竜は聖女を背中に乗せ、魔王討伐に向かいました。


 聖女は魔王を癒しました。すると魔王は改心し、人間を食べることをやめました。


 次に聖女は人間を癒しました。人間は弱い生き物でしたが、聖女に癒されると、頭が冴えるようになりました。


 人間は頭がよくなったので、聖女を国家元首に定め、彼女に仕え、信仰することにしました。


 その信仰のお陰で、人間は今も魔物より平和に暮らせているのです。


 おわり」


 ユリウスが絵本を閉じると、エマはその内容を反芻した。


「これが、聖女の治癒魔法っていうわけなの?絵本で見ると、ずいぶん抽象的な話に終始しているけど」

「まあ、万能な魔法みたいな位置づけかな。でも、魔王を癒したとあるだろう?」

「そう書いてあるから、そう……か」

「ところで……」


 ユリウスが、ふと人差し指の腹をエマに見せた。


「さっき、本の端で指を切ってしまった。君は竜じゃなくなったけど、まだ癒しの力はある?」

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ブレイブ文庫様より
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