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半妖のエマ

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19.きれいだよエマ

 人間っぽくなったエマは、落ち着きなく周囲を見渡した。


「ど、どうでしょうか?私、人間っぽくなりましたか?」


 ユリウスが立ち上がって近づいて来る。そして笑顔で


「きれいだよエマ」


と何のよどみもなく言った。


 エマは顔を赤くし、ランベルトとジャンは同時に咳払いをする。


「きれいになったな!」


 と被せながら、ランベルトはユリウスより前に出る。


「ところでエマ。君は何なら食べられる?好物はあるかな。研究者として、エマがどんなものを食べるのか見てみたいんだ」


 エマはうーんと唸って一瞬日本食を思い浮べたが、この世界にありそうなものに思いを馳せた。


「私、焼いた肉と焼いた魚が好きです。塩やスパイスなんかを振ってもらえると助かります」


 部屋の隅で、ジャンがメモを取っている。


「へー。それから?」

「あと、お漬物とかも好きで……日本人ですから割と食べ物とあらばなんでも行けちゃうんですけど」

「ニホンジン?」

「あ、それは食べ物はないです。ええっと、にんじん!にんじんを甘く煮たの!」

「ああ、ニンジン……」

「サラダもいいですが、今までそれを食べ過ぎて、今は生野菜には飽きちゃったかな」


 などと言ってみたものの、この情報からこの異世界ではどのような食事がもたらされるのか、エマには想像もつかない。


 ユリウスが言った。


「では、そのご馳走は夜に作らせよう。楽しみにしていてくれ。あと、やりたいことはないか?」

「やりたいこと……ですか?」


 エマは閃いた。


「そうだ!私、この国の歴史とか、文字とかを知りたいです!」


 ユリウスとランベルトは顔を見合わせた。


「歴史……?」

「文字……?」

「はい!異文化を学んでおけば、こんな外見でもみなさんに受け入れてもらえるかなと思いまして……」


 すると、ユリウスとランベルトはこそこそと顔を寄せ合って話し合う。


「おいおい。思ったより頭がいいぞ」

「ただの竜じゃないな。この国の上流階級に近い考えを持っている」

「飼い主的にはどう思う?あんまり賢くなってもらうと、敵に回した時厄介だが」


 ユリウスは考え込んだ。


「うーん……そうだな、こうしよう。先にエマの人となりを聞き出すんだ。どうやら階級の高い竜のようだからな」

「……階級の高い竜って何だよ」

「また竜に関する新しい発見があるかもしれない。俺たちが知らなかっただけで、実は高貴で知能の高い竜がいたんだ」


 一通り話し合いが終わると、ユリウスはエマに言った。


「いいだろう。だけどその前に、エマについて詳しく知りたいんだ」

「私について、ですか……?」

「ああ。例えばどこから来たのかとか、親や兄弟はいるのかとか……」

「確かに、自己紹介が遅れておりましたね。私も、ユリウスには色々お話ししておきたいことがあります!」


 その話になったところを見計らって、執事が間に入って来た。


「ご歓談のついでにティータイムはいかがですか?」

「えっ、いいんですか?」


 エマは食事の話をされるよりも、ティータイムの方を喜んだ。男たちは戸惑い気味に目を泳がせる。


 執事が続けざまに尋ねた。


「エマ様は紅茶のお供に何をお召し上がりになりたいですか?」

「ええっと……チョコレートなんかはあるかしら?」

「……生憎ですが、それは王族でも食べられるかどうかという異国の希少品でして、うちではご用意できません」

「じゃあ、パンケーキは……?」

「それならばご用意出来ます」

「メ、メープルシロップやホイップクリームなんかはかけられる?」

「出来ます」


 エマはガッツポーズした。


「紅茶とパンケーキがいいわ!」

「かしこまりました。では、紅茶とパンケーキ、ホイップクリームにメイプルシロップをお持ちいたします。しばしご歓談を……」


 執事がメイを連れて部屋を出て行く。


 ユリウスとエマ、それからランベルトは応接間で向き直った。


「何やら次々と不思議なことが起こるが──まずはエマの自己紹介とやらを聞こうか」


 ユリウスがそう促すと、エマは嬉しくなって答えた。


「はい。私の名前はエマです。前世では日本という国に住んでいたのですが、事故に遭って死に──気づいたら竜になっていて、ユリウスに捕まえられました」

「待て待て待て」


 ランベルトが話を遮った。


「正気か?そんな作り話、誰にも信じて貰えないぞ」


 エマは口を尖らせる。


「本当のことですっ」

「嘘をつけるとは、かなり高い知能を持っているんだな」


 ユリウスのエマを見る目が少し変わった。


「作り話だったとしても、そこまでストーリーを作り込めるなら、かなり高い知能があることは分かった。つまり、君は竜になる前は人間だったと言いたいわけだな?」

「はい!だからこんな風な見た目になっちゃってちょっとショックです」

「?見た目は悪くないよ。むしろ」


 ランベルトが咳払いをする。ユリウスは我に返ると、話を戻した。


「そう、あとは……君を竜に戻したいんだ。どうやったら竜に戻れるか分かるか?」


 エマはうーんと唸って天井を見上げた。


「そういえば……私、竜の言葉が分かるんです。初めて竜獄に行った時、他の竜に攻撃されてこう言われました。〝お前は竜じゃない〟〝お前は何者かから変身させられている〟って」


 ユリウスはハッとしてその日の出来事を思い出した。


「そうか。竜の方は、先に君の正体を察知していたんだ」

「だから、恐らく私の本当の姿はこれか……または他にあって、あの時は竜に姿を変えられていたのかもしれません」


 ランベルトがげんなりした様子で言う。


「……何だか凄く複雑なことになってきたな」

 

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