12.決戦
ついにその日はやって来た。
コルネリウスの発案した計画で、魔族の一斉討伐を行う。
「戦略としては、こうだ」
竜獄内にある竜騎士詰所で軍師が地図を用いて説明した。
「ギドー渓谷に、魔物が町を作り始めている。彼らに囚われている竜もいるそうだ。現在、ここを拠点に魔物たちは近隣の人間を襲っているらしい。既に集落のひとつが乗っ取られた。まずはこの集落の奪還。それから魔物討伐をする。投入する竜騎士は二十一体。その内の一体が治癒魔法を使う。十体が炎を、十体が吹雪を吐く。治癒魔法を使う竜は攻撃を避けながら後方支援……」
ユリウスはその作戦を頭に叩き込む。
敵に悟られないよう、作戦は即時スタートだ。
竜獄に繋がれているエマは、不安でしかたなかった。
(戦争に行くなんて、初めてだ……)
練習通り、ユリウスの言う通りに動けばいいということは分かっているが、死への不安は尽きない。
(私、みんなを助けられるかな?)
目の前には、どう猛な竜たちが静かに出発の時を待っている。
演習の様子を見ていたのか、もうエマを侮って来る竜はいない。むしろ、今から戦場に出る竜たちはエマに生殺与奪の権を握られているに等しい。それを理解しているらしく、もう刃向かっては来なくなった。
しばらくすると、ぞろぞろと屈強な竜騎士の群れがやって来た。
めいめいが竜に乗り込む。
エマも、ユリウスを背中に乗せた。
「よし、行くぞ」
一斉に竜騎士団が大空へと舞って行く。エマもその隊列に続いた。
ギドー渓谷は山深い場所にある。上空である程度まとまると、竜の群れは渓谷に向かって落ちるように滑空して行った。
「101号、最後尾に着け!」
ユリウスの操作に従って、エマは木の葉のように左右に大きく揺れながら落ちて行く。これで最後尾にいながら全体を俯瞰で見ることが出来る。
「魔物は竜よりは弱いが、攻撃魔法を使って来る。彼らの魔力によってそれぞれ攻撃魔法の飛距離が変わるんだ」
ギドー渓谷から、光る矢のようなものがこちらに向かって放たれた。
(!!あれが、攻撃魔法……!)
ユリウスがそれを巧みに除ける。エマの翼スレスレに光の矢が打ち上がり、消えて行った。
(打ち上げ花火みたい……)
「このまま落ちるぞ!」
エマは弾丸のように身をこごめると、渓谷に突っ込んで行く。
早速、白い羽が上がった。羽は騎士に繋がっている。
エマはすれ違いざまに癒しのブレスを吐いた。白い羽は瞬時に下げられた。
(良かった。助けられた……)
ぐいっと手綱が引っ張られる。エマは急旋回をかけると、風に乗り、再び空に舞い上がった。
上空の騎士が青い羽をなびかせている。エマは寄って行って、すれ違いざまにブレスを吹いた。
その時だった。
急に攻撃魔法が十本ほどまとまってこちらに飛んで来たのだ。エマは驚いて急降下した。
「うわっ。だめだ、101号!言うことを聞け!!」
エマはハッとした。つい攻撃を避けようと、体が勝手に動いてしまったのだ。
狙いすましたように、渓谷から第二弾が飛んで来る。
落ちて行く体を瞬時に立て直すのは不可能──
(わああああああああ!ごめんなさいごめんなさいユリウス!)
どうにか翼を広げて滑空スピードを落としに入ったが、エマの体は攻撃の矢を次々に受け、瞬く間に傷だらけになった。
「ギャアアアアアアア!!」
「耐えろ101号!俺は無事だ!」
エマは我に返ると自らの傷に息を吹きかけた。
が、どうやらこの癒しのブレスはエマ自身の体を癒すのは不可能らしかった。いくら息を吹きかけても傷は生々しく開き、風に当たって更に痛みを強くする。
(うそっ。この魔法は、他者にのみ有効……あの夢で願った力は、私自身を癒すものではなかったのね)
今更ながら、この力の弱点を知る。
(そっか……)
痛みで気を失った竜を、ユリウスがどうにか風に乗せて立て直す。
「ぐっ……仕方ない。撤退するしか……!」
ユリウスは黒い羽を出した。
戦闘不能。撤退の合図だ。
意識を失ったエマは、翼だけは出すことが出来る。ユリウスは竜に緊急処置を施すことにした。鞍から長い竿を引き出し、翼を広げロープで固定し、竜を簡易グライダーへと変貌させる。
「このまま下りて行ったら……どこへ着くかな……」
あっけない幕切れだった。
ユリウスは風に身を任せ、迫る地面を見つめながら、この不憫な竜の身の行く末を案じた。




