11.戦闘準備
竜獄の底辺では、竜たちが地面のエサを漁っていた。エマの目で見るに、どうやら塔に一匹ずつ入っているのはエリートの竜で、地を這う竜は素材用か運搬係としての竜らしい。
エマは地面に着地した。
するとやにわに周囲の竜が騒ぎ始める。エマは鼻先を突き上げて吠え、威嚇した。
他の竜騎士たちがユリウスの元にやって来る。
「おっ、そいつが噂の新入りか。癒しのブレスを吐くとかいう……」
ユリウスがいきさつを説明した。
「陛下がこいつを戦場に出したがっている。恐らく、戦場で使えるかどうか試してみようということらしいが」
「怪我を治しながら飛ぶということは、かなりの速度を求められるぞ。回復役は一体しかいない。運動量も激しくなるだろうな」
エマは理解した。まさに〝飛び回る〟ことになるであろう、と。
(誰から治療したらいいんだろう。手あたり次第行けるかな?)
ユリウスが言う。
「治療にあたって、怪我をしているかどうか遠目には分からないから、竜騎士の間で合図を決めておきたいんだが」
兵士たちは口々に提案した。
「音を鳴らすとか?」
「マントを裏返すとかはどうだろう」
エマからすると、彼らは戦闘の知識はあるが、救急の知識はないとみえる。
(……トリアージみたいにできればいいんだけど)
黒:無呼吸(死亡)
赤:最優先
黄:待機的
緑:保留
(こういった四群に色分けされたものを身に着けてもらうと助かるんだけど……)
軍医など、出来ればそういった〝医療のプロ〟から話を聞きたいものだが。
(竜ごときに治療を頼っているぐらいなんだから、きっとその軍医も戦場では役に立たないんだわ)
エマは周囲を見渡した。
(色分け出来るもの、色分け出来るもの……)
地面に白い鳥の羽が落ちている。
(あ、こんなものでいいかも)
エマはそれをくわえると、ユリウスに寄って行って足元に置いた。
それから、青い羽も見つけて拾う。
(色分けのヒントとして受け取ってもらえるかな?)
そして、それを白い羽の隣に並べてみた。
この行動を見てユリウスが言う。
「おっ、羽かあ。色を変えて……お前、賢すぎるな」
他の竜騎士も顔を見合わせる。
「なるほど。治療が必要な奴は、何か飾りをつければいいか」
「軽傷か重傷か分けた方がいい。優先順位を決めるんだ」
「白が軽傷で青が重症ってことでいいか?」
「色分けは詰所の軍医が戦闘後にやってることと一緒だな」
「黒い羽が戦闘不能」
「それがいいだろう」
やはりこの異世界に軍医はいるが、戦場で飛び回ることはないらしい。
エマは移動式の治療所としての働きを求められているようだ。
「じゃあ、飛び方を練習させよう」
「それぞれ羽を持つんだ」
「俺たちを追いかけさせろ。スピードを上げ、正確に旋回するんだ」
竜騎士たちは竜に乗って舞い上がった。それを追って、ユリウスもエマに合図する。
分散して飛び交う竜騎士が、青い羽を上げる。
「あっちだ!」
エマはユリウスの指示を受けるとスピードを上げ、青い羽の持ち主にブレスを浴びせかけた。
今度は遠くで白い羽が上がる。が、すぐに別の竜から青が上がったのでそちらへと先に飛んで行く。
青にブレスを吹きかけ、白い羽の方へと旋回する。
動体視力が要求されるが、人間の視界と違って竜の視野は非常に広い。エマはユリウスの指示通り、ゲームを攻略するように竜騎士たちを追いかけた。
「おー!」
「すげえ!」
彼らを追い抜かせば、すれ違いざまにブレスを吹きかけられるという寸法だ。
何匹も追いかけ追い越し、エマはエリート級の仕事ぶりを見せつけた。
(えっへん。どんなもんだい!)
竜騎士たちは再び元の位置に舞い戻った。
「101号、よく頑張ってるな」
「それにめちゃくちゃ賢い!」
人間だった時にはかけられなかった言葉が次々とかけられる。エマは嬉しくなった。
隣でユリウスがどんと胸を張る。
「いい竜を手に入れたよ。手放すのが惜しいくらいに」
「なぜか他の竜には嫌われてるけど、別格だから警戒されているだけなのかもな」
おだてられて悪い気はしない。ユリウスもエマが褒められて嬉しそうだ。
「じゃあ、戦闘までに鳥の羽を集めておくか」
「どこにでも引っかけられるように、紐をつけよう」
「内職するか……」
その後はひたすら地面に落ちている羽を集める。ユリウスいわく、青い鳥と白い鳥、それから黒い鳥はこの辺りによく生息している鳥なのだそうだ。
ユリウスを乗せたエマは、再び彼の住まい──シュタルク家の牧場へと帰って行く。
遠くに夕日が沈んで行く。
「きっとお前は伝説の竜になれるぞ」
と、夕日を浴びながらユリウスは言った。
「お前となら、戦場でも安心だ」
エマは喋れないので「グエエエエエッ」と声を出した。
(ユリウス、嬉しそう。こっちも嬉しくなっちゃう)
エマが現れたことで、彼の竜騎士としての役割も変わって行くのだろう。
(私もユリウスも、これからどうなって行くのかな……)
沈む夕日のせいで、エマの心はセンチメンタルになる。
(しっかりと戦場でこの人を守らなきゃ……!もっと一緒にいたいもん)
異世界で生まれた不思議な縁を、エマは大切にしたいと思うのだった。




