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魔物討伐へ行きます!

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10.戦争の招集

 竜のエマが農場で暮らしていると、確かにあの王が言った通り、この世界は不穏な空気に蝕まれつつあることが見て取れる。


 麦藁の山に寝そべり、鉄の檻から空を眺めると、飛行する黒い鬼のような魔物が竜騎士と戦っているのが見えた。


(あっ……まただ)


 山の向こうの竜獄から、竜に乗った竜騎士が複数出動する。


 翼の生えた黒鬼は竜の集団のブレスを浴び、燃えたまま墜落して行く。


 しばらくすると、延焼を抑えるため水を吐く竜が出動する。


 そんなことが何度もあった。


 ユリウスは騒動がひと段落すると、エマを檻から出して乗り、現場へと向かう。


 怪我人がいれば、エマのブレスで治す。竜騎士たちの喜びや驚きとは裏腹に、エマの心は落ち込んで行く。


 エマはとても役に立つ動物だ。


 だからこそ飼い主の彼が招集されるのも、時間の問題だと。


(ユリウスは騎士……戦場で命を落とすこともある)


 エマはそう考えだすと、いてもたってもいられなくなる。


(私も農場でのんびりローストチキンを食べている場合じゃないわ。この人を生かすために私も頑張らないと)


 ユリウス含め、竜騎士たちが焼けただれた鬼を調べ始めたその時だった。


「あっ、ランベルト!」


 空から、久方ぶりにあの男が竜に乗ってやって来たのだ。


「よう、ユリウス!」


 ランベルトは焦げ臭い地面に降り立った。彼の竜はよくしつけられており、エマのようなまがいものの竜を見ても何も言わなかった。


 ランベルトは竜から降りると、小走りに一通の手紙を持ってやって来る。


「久しぶりだな!王宮で陛下に頼まれて……これを持って来た」

「ん?俺宛か……?」

「ああ。戦場への招集令状だ。101号を実戦で利用したいと、コルネリウス国王から直々に勅令が来たんだよ!」


 エマは耳をそばだてる。


(私を、戦場に……)


「陛下は魔族大討伐の計画を立てていらっしゃったんだが、いまいち攻め手がなかったらしくてね。兵士不足がその一端だったけど、この前会った101号を投入すれば勝てると踏んだみたいなんだ」


 ユリウスはどこか憐憫に似た視線をエマに投げかけた。


「いい考えだが、でもちょっと……この子を出すには早くないか?」

「でもこの竜、物覚えもいいし、基本的におとなしいだろう」

「まあ、な……」

「それに……早い話、ここで101号が手柄を上げれば、王家の庇護が得られ、よりこいつに贅沢をさせてやれる。シュタルク家への研究費も倍増するかもしれないぞ!」

「……」


 ユリウスの中で、何かがせめぎあっている──


「確かに101号は初手で色んな人間や竜に警戒されてしまっているからな。戦場で活躍して陛下の信頼を得れば、一気にその悪評を吹き飛ばせるか……」


 それを聞いて、エマの胸の奥がきゅっと痛んだ。


(ああ、ユリウス……私の未来をちゃんと考えてくれてたんだ)


 ユリウスがぽん、とエマの脇腹をたたく。


「お前はどうだ?俺と戦場に出る勇気はあるか?」


 それを聞き、エマは目を剝いた。


(えっ!?ユリウスと、戦場に……?)


 てっきり衛生兵と詰め所で待機かと思ったら、そういう使い方ではないらしい。


「令状を読むと、俺を救助係として招集と書いてある。空を飛び回りながら怪我人の救助をする。出来るか?勿論、練習はする」


 エマはそれを聞いて得心した。


(そうだ、ここは竜や飛ぶ魔族のいる世界。地上戦をするわけはないんだわ。どちらかというと、空中戦みたいになるのよね)


 きっと魔物から謎の魔法や飛び道具を浴びせかけられるのだろうし、前世の地球の野営のように、地面にテントを張って待機している場合ではないのだろう。飛び回ったりしながら、治癒のブレスを使う必要があるのだ。


 エマは「同意」と言いたげにグオオオンと吠えた。


「よし。101号もこう言ってるし、竜獄へ行って軍事演習させてみよう」

「ユリウスに何が聞こえているのかは定かじゃないが、飼い主がそう言うならやってみてもいいかもな?そうと決まれば、早速行ってもらうか」

「ランベルト、しばらく牧場を頼む」

「あいよっ」


 エマはユリウスを背に乗せると、ふわりと空に舞い上がった。草原で、ランベルトが手を振っている。


 あの時はまだ竜としての覚悟が足りなかったが、今のエマは違う。


(また攻撃されるかもしれない。でも、私にはユリウスがいるから平気)


 覚悟を決めて竜獄へ飛んで行くと、やはりカルデラの奥地から騒がしく竜が飛び出して来た。


 エマは飛竜らしく眼を光らせながら、あえてその中に高速で飛び込んで行く。


『まがいものが来たぞ!』

『薙ぎ払え!』

『ここには入れさせない……!』


 エマの進路を妨害しようと、竜たちが予想のつかない軌道で旋回を始める。


 エマは牙をむき出しに口を開いた。


『私は竜だ!』


 エマはグアアアアアアアア!と喉の奥から咆哮する。何か輝くようなブレスが空気中に拡散して、周囲はキラキラと発光した。


 竜たちが驚いてブレスを避けると、すんなりと目の前に景色が開けた。


『お前たちより優れた竜だ!お前たちより大事なものを乗せている!』


 エマはそう叫ぶと、恐れることなく、ユリウスを乗せたまま竜獄中心部へと突っ込んで行く──

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ブレイブ文庫様より
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