元令嬢、田舎で自転車を駆る
第二王子を殴り、追放された先での最高な人生を見つける侯爵家の次女。
私、エスメリア・フォン・ホーエンベルクは、侯爵家の次女だ。
その日、王城の庭園で、私の元婚約者――第二王子アルフレッドが、宣った。
「エスメリア。君との婚約を破棄させてもらう」
理由?「君は堅苦しくて、私の愛する自由奔放さがない」だと。勝手に愛を語り、勝手に自由を語るこの馬鹿に、私はとうとう堪忍袋の緒が切れた。
「……ええ、そう」
そう言って、私は渾身の力でアルフレッドの間の抜けた顔面に、右の拳を叩き込んだ。グーで。
「貴様!」と鼻血を噴き出し呻くアルフレッドの背後から、国王陛下が現れた。
「エスメリア嬢、よくやった!」
…え?
「我がバカ息子の行い、誠に申し訳ない。貴女の家と、公私にわたり多大な迷惑をかけた」
まさかの謝罪。さすがは公正な陛下だと思ったが、陛下の顔はすぐに苦渋の色に変わった。
「しかし、立場上、王族に対する暴行を見過ごすわけにはいかない。エスメリア嬢、貴女を辺境の田舎の村、バルドニアへの追放とする」
バルドニア村は、何もかもが遅れていた。王都の絢爛さとは無縁の、泥臭い土地。だが、追放された私は、ここで奇妙な自由を得た。
そして、ある日、私は「自転車」を発明した。鉄骨と木材、車輪を組み合わせた、人力で走る二輪車だ。
追放された元侯爵令嬢が、村の悪ガキどもに目をつけられないわけがない。「元令嬢のくせに」と石を投げ、泥を塗りつけようとしてくる、クソ生意気なガキども。
ある日、私は開発したばかりの試作型自転車に跨り、悪ガキどものアジトへと向かった。
「お前たち、今日の遊びはこれだ!」
「ひいっ!何だあの乗り物は!?」
私が自転車を猛然と漕ぎ出すと、悪ガキどもは悲鳴を上げて逃げ出した。私は叫ぶ。
「クソガキ、まてえ!」
田舎道を、私は笑いながら自転車で悪ガキどもを追いかけ回す。風を切る爽快感。王都では決して許されなかった、この解放感。
追放先で私は、人生最高の乗り物と、新しい遊びを見つけたのだ。




