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Pandora  作者: アカイヒト
伝説再来篇
6/22

〜神の眠る場所〜

  ——ゴトンッ


  馬車が石の上を通る音でクリウスは目を覚ました。

  (寝てしまってたのか…)


  正面の座席には、リートが日差しに照らされて気持ちよさそうに寝ていた。

  枕にしていた酒瓶を抱きしめながら——。


  「私めが送れるのはここまでとなっております」

  御者が言葉を発した。


  「え? まだ目的地にはついてないと思うが…」

 クリウスは疑問に思った。


  それを見て御者は申し訳なさそうに答えた。

 「いやはや…ここいらは怪物が住んでいるとか噂になっておりまして…」


  クリウスは内心でほくそ笑んだ。

 (このじーさんも迷信を信じてるんだな)


  少し前まで信じていた自分を棚に上げ、得意げになった。

 「じーさん、ここまでで大丈夫だ。ありがとよ」


  二人の会話の音でリートはやっと目覚めた。

 「ん? 着いたか?」


  「いや、ここまでらしい。ここからは歩きだ」

 リートは露骨に嫌な顔をした。


  二人が馬車を降りると、馬車は急いで馬を引き離していった。

 「この…臆病者が!」


  「別にいいじゃないか。歩けば済む話だろ」

 「できるだけ楽したいのが人間の心理だろ」


  リートは欠伸をしながらふらふらと歩き出した。


  ——霧が濃くなってきている。


  馬車を降りて三十分ほど経ち、あたりには霧が立ち込め、

  地面には古代神殿の残骸らしきものが散らばっていた。


 「これじゃ、どっち行けばいいのかわからねーぞ」


 クリウスは深くため息をつき、背中で寝ているリートを見た。

 「そろそろ降りろよ! 俺の背中はベッドじゃねぇ!」


 リートは本日二度目の起床を果たした。

 「実に素晴らしい背中だったぞ、クリウス君よ」


 辺りの霧を見てリートの表情が引き締まる。

 「この霧…ここはずっと晴れてるはずなんだけどな」


 そのとき、クリウスはリートの後ろの“巨人の影”に気づいた。

 「リート、後ろ!」


 巨人の腕がリートめがけて振り下ろされる——。


 ドンッ。


 土埃が舞い、霧が一瞬晴れた。

 クリウスは薄目を開けた。


 霧の中で見た巨人は、霧そのものの煙でできていた。

 そしてリートはその腕を片手で受け止めていた。


 「何の真似だ?」


 煙の巨人は答える代わりに再び攻撃してくる。

 「やっぱ怪物いるじゃねぇかよ!」


 リートはクリウスの隣に飛び、攻撃を避けた。

 「いや、あいつは…」


 ドゴンッ!


 説明が終わらないうちに巨人は連撃を仕掛ける。

 「とりあえず倒したほうがいいのか?」


 リートは小刀を構えた瞬間、足元から炎が吹き上がった。

 地面は黒く焦げ、離れたクリウスにまで熱が届く。


 煙の巨人は怯まず再び殴りかかってきた。


 「か、加勢しようか?」

 「いやー、こいつは大丈夫」


 リートの通ったあとを炎が走り、巨人は全身が燃え上がった——


 …と思った瞬間、炎が一瞬で消える。


 「おいおい、マジかよ」


 リートは小刀を構え直した。

 「《ヘル・ダガー(業火の短剣)》」


 刀が赤々と燃え上がり、リートは縦横無尽に斬りつける。


「《グロリオサ(火の花)》」


その瞬間、巨人は動きを止め、身体に走った炎の線が花のように広がった。

「すげぇ…」


リートは淡々と告げた。

「これはマリザの魔法《ネペレー(雲の巨人)》だ」


「なぜ、こちらを攻撃してきたんだ!?」


「こっちが知りたいぐらいだ…」


リートは霧の奥を見つめた。


——霧が晴れていく。


そこには、雲の上に座る一人の女性。

にこりと微笑む。


「えぇ、久しぶり」


クリウスは悟った。

彼女こそが“聖女”マリザだと。


──霧が晴れる。

眠っていた時代が目を覚ます。

忘れられた約束が、再び世界に息を吹き込む。


『パンドラ』——千年止まっていた歯車は今、再び動き出した。


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