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Pandora  作者: アカイヒト
帝国堕天篇
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第三十七話 〜炎の器〜

「全然違う!」


——バシッ!


坐禅を組むクリウスの頭を、リートが手に持った木の棒で勢いよく叩いた。


「あぁぁぁ!」


クリウスは飛び上がる。


「この技、難しすぎるだろ! だいたい一週間で覚えるなんて無理な話だ!」


不満をぶつけるクリウスを見て、リートは近くの石に腰を下ろし、キセルを咥えた。


「弱音吐く暇なんてないだろうがよ」


吐き出した煙が、ゆらりと空に溶けていく。


「いいか。息をスーッと吸って、全身にバーンといったら、魔力を乗せてボンッ!だ。分かったか?」


クリウスはゆっくりと立ち上がり、呆れた目を向ける。


「お前……教えてくれるのはありがたいけどな。そんなアホみたいな説明で分かるわけないだろ」


リートはムッとした顔で立ち上がり、クリウスを睨んだ。


「俺はな!《パンドラ》にいた時はな!教え上手のリートさんで通ってたんだぞ!」


クリウスは反論する気も起きず、深くため息をつく。


(お先真っ暗だな……)


「——もっと細かく噛み砕いて教えてくれないか? 教え上手のリート先生」


皮肉に気づかず、リートはニヤリと笑った。


「おうよ! 見とけよ」


——フゥゥゥ……


低く、長い呼吸。


その瞬間、リートの全身から淡いオーラが立ち上る。


「今が見ての通り、《ノア》を使ってる状態だ」


リートは拳を振り上げ、そのまま地面へ叩きつけた。


——ドカァンッ!


轟音とともに、地面に大きなクレーターが生まれる。


「《ノア》を使うと、五感が研ぎ澄まされ、身体能力が跳ね上がる」


——フゥゥ……


息を吐くと同時に、オーラは霧のように消えた。


(なるほど……)


クリウスは目を細める。


(独自の呼吸術で魔力を一時的に増幅して、それを外に放出……オーラのように身に纏い周囲の情報を拾ってるのか)


「なあ、呼吸の時って何を意識してるんだ?」


その質問を待っていたかのように、リートは得意げに胸を張る。


「オホンッ! 呼吸する時はな、魔力と混ぜるのを意識することだ」


(魔力と……呼吸を混ぜる)


クリウスはゆっくりと目を閉じた。


——フゥゥ……


吸い込んだ瞬間。


体の奥で、何かが燃え上がる。


「クリウス、いいぞ! その調子だ!」


リートの声を遠くに感じながら、クリウスは目を開く。


(なんだ……この感覚は)


視界が、鮮明になる。


背後の岩の位置。

揺れる草花。  

風の流れ。


すべてが、手に取るように分かる。


(見えてる……いや、“感じてる”……!)


だが——


次の瞬間。


視界が赤く染まった。


「——ッ!」


全身から力が抜ける。


とてつもない疲労が、一気に押し寄せた。


「ガハッ!」


クリウスはその場に崩れ落ちた。


目の前が闇に染まる刹那、視界の端に捉えたリートはニヤリと笑っていた。


     ***


視界が晴れたとき、すでに日は暮れていた。


辺りは深い闇に包まれ、焚き火の揺らめく炎だけが周囲を照らしている。


「お、ようやくお目覚めか」


横を見ると、リートが焚き火の前でキセルを咥え、ニヤリとこちらを見ていた。


「——《ノア》、俺は使えていたのか?」


リートはゆっくりと煙を吐き、口を開く。


「あぁ、使えていたさ。まあ、ここからは持続できるように訓練だな」


「そうか……」


クリウスはリートの正面へと座り、焚き火の炎を見つめる。


揺れる炎が、どこか現実感を失わせる。


「なあリート。俺を置いていった方が、早く山を越えられたはずだ。なのに、どうして俺を連れてきた? 一体、何を考えているんだ?」


リートは答えず、ただ煙を吐き出す。


その視線は、どこか遠くを見ているようだった。


「さあな……」


短く、それだけを返す。


クリウスはリートをじっと見つめる。


「そんな睨んだって、答えは出さねぇよ」


リートはニヤリと笑い、立ち上がった。


「ほら寝ろ。《ノア》はとてつもなく体力使うからな。初日でできたら大金星だ。よくやった」


軽く手を振る。


その瞬間、焚き火の炎が吸い寄せられるようにリートの掌へと収まり、ふっと消えた。


光を失った草原は、一気に闇へと沈む。


風の音だけが、静かに周囲へと広がっていった。

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